プロローグ
閃光が走った。それは瞬く間に視界を覆いつくし、絶大なる熱量で大地を焼いた。家や小屋はもちろんのこと、戯れていた子供達や仕事に精を出していた人々、それらは全て跡形もなくなり、たった今までそこで生活が営まれていたとは思えないほどだった。
閃光の発信源から悲痛な子供の叫び声があがる。まだ十になったばかりの幼い少女だ。衣服は煤で汚れ、大きな瞳は閉じることを忘れてしまったかのように見開かれている。立っている気力を失ったのか彼女は地面に座り込むと己が掌を見つめた。
堰を切ったような叫び声に続くのは、小さく弱々しい嗚咽だった。恐怖と罪悪感のため全身が戦慄いている。歯の根が噛み合わない。
――ワタシガヤッタノ?
自覚。けれど、その現実が少女にはまだ受け入れられなかった。
――オニイチャンハ?
――オカアサンハ?
――オトウサン……お父さん!
街が消滅する直前の記憶が蘇る。いつもとは違い優しかった父。優しい表情、優しい声、優しい態度。優しく、恐ろしかった大きな掌。
突然の衝撃は気象にも影響し、空は白と黒のまだら模様となった。雨がパタリ、パタリと降り出す。焼け焦げた大地に。少女の上に。急激に冷やされた焦土が白い湯気をあげ、その惨状を覆ってゆく。
体の熱が雨に混じって大気に溶け出していった。握り締めても血の気を失った掌からは何の温かみも伝わってこない。
――そっか……お父さんはわたしがいらなかったんだね……
全てを失った今、自分の生を諦めることなど少女にとってなんでもなかった。動かなくなってゆく体を気にもかけず、彼女は天を仰いだ。意識がだんだん遠のいていった。