クールビューティ
「他に好きな人ができたんだ」
昨日、8年間付き合った彼にこう言われた。
「いいよ、別れよ。それじゃ」
あっさりと答え、その後の彼のセリフも聞こえないふりで、私は家に着いた。
冷蔵庫からビールを取り出し、ソファに座りこむ。
こんな日が来ても驚かないような二人だったと思う。
付き合いが長すぎたのだ。
恋愛に必要な「刺激」が二人にはまったくと言っていいほど、無かった。
立場上振られた方になるが、あっさりとそれを受けるあたり、私は大人だなぁと思う。
クールじゃん?
アルコールのせいか、少しテンションがあがってきて、昔からの友達に電話をしてみた。
「さっきあいつと別れたよ〜」とおどけて報告してみるも、彼女から出た言葉は、
「大丈夫?無理しないでね」
だった。
電話を切り、すっかり汗をかいたビールの缶をテーブルに置く。
ふと近くの鏡を見て、さっきの彼の最後のセリフを思い出した。
「お前、大丈夫か?」
…みんな、私のこと、私よりよく分かってるなぁ…
汗をかいた缶みたいな自分の顔をふこうと、ティッシュ箱に手を突っ込んだまま、
私は…
動けなくなった。