時計塔の怪
時計塔が刻む午後の鐘は、時に隠された犯罪の引き金となります。日常のふとした違和感から解き明かされる、わずか数分の鮮やかな解決劇をお楽しみください。
時計の針は、午後3時を指した。巨大な時計は、10m はあろうかという時計塔の上に設置されており大きく 見上げなければそれの刻む時を見ることはできなかった。
普段は 何気なく その時計塔を通り過ぎるのだが、今日は違った。時計塔の天辺から、何やら黒く細いロープが垂らされていて、そのロープの先は黒い服を着た痩せぎすの男(か女?)の腰のベルトに装着されていたのだ。そして、彼は曲芸師のように空中を漂いなぎら、時計の修理をしているようであった。
わたしはすっかり感心して道路の端からその曲芸師のような修理業者をみあげてつい見惚れてしまったのである。
と、その時だ。
━━あ!
わたしは思わず小さく叫んだ。
ガシャン、と重苦しい音が響いた。
落ちてきたのは歯車ではない。時計塔の文字盤の裏から滑り落ちてきたのは、黒い布に包まれた小包だった。
「おい、触るな!」
上空の修理業者が鋭い声を上げる。しかし、小包は地面に叩きつけられた拍子に弾け飛び、中から真新しい金庫の鍵と、宛名のない一通の手紙が転がり出た。
現場に残された謎: ロープで宙に浮く奇妙な修理業者、時計の内部に隠されていた「鍵」と「手紙」、そして午後3時ぴったりに起きた事故。
不自然な点: 修理業者は時計を直していたのではない。文字盤の隙間から、手を入れてその小包を引き抜こうとしていたのだ。
手紙を拾い上げたわたしは、そこに書かれた短冊状の数字の列と、男の腰元で揺れるロープの結び目を見て、すべてを理解した。
「あなた、修理業者じゃありませんね。この時計塔を使った、密室金庫の泥棒だ」
わたしが指さすと、男はギクリと動きを止めた。
「この時計塔の巨大な針は、午後3時になると文字盤の裏側にあるレバーを押し下げる構造になっている。あなたは時計を直す振りをしながら、針が動くタイミングに合わせて、中に隠されていた盗品を回収しようとしていた……違いますか?」
時計塔は、街の大金持ちが昔作ったカラクリ仕掛けの「時限保管庫」だったのだ。男はロープの長さを緻密に計算し、3時ピッタリに針が動く衝撃を利用して、内部の鍵を手に入れようとしていた。しかし、計算が狂って小包を落としてしまったのだ。
「……ちっ、まさか通りすがりの奴に見破られるとはな」
上空で降参するように両手を挙げた男を見て、わたしは警察に通報するため、スマートフォンを取り出した。ただの退屈な午後3時が、忘れられない解決劇の舞台へと変わった瞬間だった。
【了】
ご一読いただきありがとうございました。巨大な時計塔のカラクリという、少しレトロでロマンのある日常の謎を描いてみました。
午後3時の鐘が鳴るたび、この小さな事件を思い出していただければ幸いです。




