第4話-暗黒外へ行こう
朝、リビングに向かうと既に
赤い髪を短髪にしたスーツ姿の男が座っていた。
「げっ親父!!」
バルドーニ家のボス"ジョゼフ=バルドーニ"である。
「なんだぁ、久々に帰ってきたのによぉ
父さん傷ついちゃうな~」
「いや、家にいるのにスーツとかどうしたんだよ」
いつもは「父」やら「ファーザー」など書かれた
何処で売ってるのか分からない謎の恥ずかしい
Tシャツを着こなしているのに対し、今日はやたら"まとも"に見える。
「そりゃー息子の見合いなんだから正装くらいするだろ」
なんとも軽々しく衝撃的な言葉が出た。
「見合いだと!?」
「昔お前が生まれた時に言ってたんだよツレと
もし大きくなったお互いの子が結婚したらおもしれーなって」
何がそんなに楽しいのか満面の笑みで言ってくる。
これでシラフとかありえない。
「本当碌な事しやがらねーなクソ親父
一体誰とそんな約束を・・・」
父親を睨みつけるように恨みがましく言った。
「お前も知ってるだろ?同じクラスのパネッラの子。
写真でしか見たことないけど中々かわいいよなぁ~」
(カレンかよ!?)
どうやら"ツレ"とはカレンの父親の事らしい。
「親父達が勝手に決めるから、俺もカレンも迷惑してんだよっ
気づけよそれくらい!」
「別に見合いとか思わずただ会ってみるだけでいいんだよ
同盟ファミリーと話す機会でもあるんだ、ファミリーの仕事の一環だと思ってさ。
よっ未来の若頭!!」
「勝手に決めるなあぁぁぁぁぁ」
父親との二人きりの会話に早くも疲れが出てきた
矢先、ドアの開く音と共にタイミングよく現れた。
「騒々しいと思ったらお前か」
「よークロウ」
「相変わらず勝手だなお前は子供に愛想つかされてもしらんぞ」
(お前って言った!?ボスにお前って言った!?)
俺の疑問に対し、親父が呟いた。
「クロウは俺の師匠でもあって頭あがんねーんだよ」
「えっ」
(クロウ、コイツ何歳だよ!?
本来の体に戻ったら爺さんだったりするのか!?
俺ってまさか爺さんにイビられてんの!?)
しばらくすると本当にカレン親子が尋ねてきた。
カレンの父親であるパネッラ家のボスは長身の細すぎず
無駄な筋力のない鍛えた身体の紳士的な男だった。
「ごめんね、理人君。急にこんなことに・・・」
カレンが俯いて上目使いで申し訳なさそうに言ってくる。
(何か・・・政略結婚みたいだなぁ・・・)
「カレンが謝ることないよ
全部ウチのクソ親父が悪いに決まってるし」
そのまま強引に指定された席につかされた。
テーブルの上には白をメインとしたポットとティーカップが並べられている。
-------------------------------
「坊ちゃんの未来の奥様になられるかもしれない人だから
ちゃんと見ておかなくては」
ドアの外ではラルと綾香と薫子が室内を覗いており、
上杉と麗華とクロウがそれを見つめる。
つまり全員覗いていた。
「結構可愛いよね
でも、こうやって見てる分には楽しいんだけど
私達も実際お見合いとかさせられたら嫌よね」
覗きながら綾香言った言葉に対し上杉が反論する
「なっっっ!?駄目です!見合いなんて!!
今だって高校で綾香お嬢さんと麗香お嬢さんに
変な虫がついたらどうしようって毎日悩んでるんスから!!
大体二人は早く卒業して薫子お嬢さんの
ようにずっと家に居るべきです!!俺と!!
お嬢さん三人は俺のだ~~~~~~!!!」
「私高校入ったばっかりなんだけど。っていうかあんたのじゃないし」
腕を組みながら壁にもたれていた麗華が横目で冷たく言い放った。
(何やってるんだアイツら・・・)
明らかドアの外が妙に騒がしい。
しかもなんか上杉の絶叫が聞こえた気がする。
理人は気になってドアの方をチラチラ見てしまった。
覗いているのは一目瞭然だ。
会話は親同士の世間話などが大半で
"見合い"とか大げさなモノではなかった。
どうやら本当に強引に二人をくっつけようとしている
訳ではないらしい。
それでも目の前ではカレンが視線を落としている。
まだ理人に対して申し訳ないと思っているのか、
気まづそうだ。
そんな姿を見ていられなくなり、
理人は立ち上がり思い切って提案をした。
「あのさ、引っ越して来たばっかで
この辺よく知らないだろうし
カレンに街を案内してあげたいんだ」
「おー、行って来い行って来い」
理人の提案に親二人は快く返事をしてくれた。
「それはありがたい、行ってきなさい」
「はいっ」
やっとカレンが微笑んでくれた。
ドアを開けると家族全員が勢ぞろいしていた。
こういう時って普通焦ったりするものではないのか?
理人はそう思ったが、この家の人間は誰も自重しなかった。
ウザイ視線をかわしつつ家から出ると、
まず住宅街から抜けることを優先した。
すると目の前から偶然珠姫が歩いて来た。
「あ、珠姫ちゃんっ」
珠姫もこちらに気づいて立ち止まった。
「今からカレンに街を案内する所なんだ」
「そうか。」
そう言ってまたスタスタと通り過ぎた。
「まって珠姫ちゃん、もし暇なら一緒に案内してくれるかな?」
珠姫は振り返った。
「丁度呼びに行こうと思ってたんだ」
理人がそういうと、珠姫は無言でコクンと頷いた。
結局表情は一度も変わらなかった。