事故と少女とティータイム:前編
どうも、桜井です。
これは新しく構想を見直して書き直した物です。
では、どうぞ。
date:2011年 04月24日 日曜日 11:00
黒煙を上げるひしゃげた大きな白い鉄屑。
赤黒い水たまり。
潰され、原型を無くした人だった物。
そして張り巡らされた規制線。
「騒がしいと思って来てみたけど…これは少しひどいですね」
椎名結希は、事故現場に遭遇していた。
結希は規制線の向こうの光景をカメラで取り、知人に送った。
そして、同行者である片耳イヤホンの少年に声をかける。
「何か聞き取れましたか?」
「まぁな。警察曰く、事故が起きたのは1時間前で、運転手は車の中から消えたらしい。被害者は家のクラスの井澤鏡花だ。」
「井澤さんが?」
井澤鏡花は、結希のクラスメイトで、親しくはないが周りから愛されていた。
「ああ。何なら何人か吐いてる」
「その情報はいらなかったですね」
そう言いながら、結希は知人に被害者の情報を送った。
そして、すぐに返信が来た。
『覚えた。すぐ能力使って』
結希はそのメールを見て、ため息をつきながらも、深呼吸した。
手を前にかざし、呟いた。
能力発動のキーワードを。
「―時間遡行」
瞬間、結希の視界と世界が揺らいだ。
date:2011年 04月24日 日曜日 07:00
時間遡行発動済み
再発動可能まで2時間
結希は、公園で目を覚ます。
「頭が痛い…ということは成功したようですね」
結希は、時間を戻す能力を持っている。
その能力を使い、結希は事故が起こる前へと戻った。
「さて、メールは…」
結希は携帯を開く。
メールは、特に来ていなかった。
「普段なら助言が送られるはずですが、まぁいいでしょう」
結希は、ある人物にメールを送った。
「準備も済みましたし、事故を、停めにいきましょう」
結希はある場所へと向かった。
07:10
「車に見覚えがあり、まさかとは思いましたが」
結希は、日曜日にも関わらず、学校の駐車場まで来ていた。
「何をしているのですか、安藤先生。それと、そちらは誰ですか」
結希は、国語教師の安藤洋三が、パーカーを着た青年に鍵らしきものを渡している現場を目撃した。
「椎名、お前はここで何をしに来た」
「3時間後の事故を停めに来ました。カーナンバーがこの車だったので、可能性としてここに来ました」
結希は正直に用件を伝えた。
だが、安藤とパーカーの青年はおかしなことを言っている人間を見る目で結希を見ていた。
「それ、車の鍵ですよね?それで事故を起こすつもりですか?」
「椎名、くだらない事を言ってないで早く帰れ」
「否定はしないのですね」
結希はそう言いながら一歩踏み出す。
「目撃者を殺そうとしないだけいいですが、僕はそこのパーカーの人が鍵を先生に返して立ち去ってからじゃないと帰れません」
結希がそう告げた直後、パーカーの青年が前に出た。
「確かに、俺は事故を起こす予定っす」
「何を言っているのだ、瀬戸!」
パーカーの男:瀬戸は、安藤に構わず続けた。
「事故のことを知っているということは、多分ターゲットのことも知ってるっすよね?けど、これは俺と安藤さんの間での取引なんすよ。頼むから帰ってほしいっす」
「無理ですね」
結希はそう告げ、バッグからシャープペンシルを取り出し、安藤達に先を向けながら車に近づく。
「先生、このペン、先が鋭いんですよ」
「だから何だ?それで脅すのか?」
「いえ、こう使うのですよ」
そう言って結希はペン先を腕に突き刺し、思い切り力を入れて腕を切り裂く。
痛みで結希の顔が少し歪む。
飛び散った返り血は車に付着し、白を赤く染める。
「これでこの車は運転できなくなりました。では、鍵の返却を」
「…安藤さん、こいつ頭イカれてんじゃないすか」
パーカーの男は呆れたようにそう言いながら、鍵を投げ捨て、砂のように消えた。
(消えたってことは運転手はパーカーの人かな)
結希はそう分析しながらも、残された安藤を一瞥する。
安藤は、結希に怯えている様子。
「…お前、こんな事して許されると思っているのか」
「殺人企てたのはそちらですよね?後、駐車場の防犯カメラ、最近導入された録音機能付きなんですよ」
瞬間、安藤の顔は青ざめる。
(こんなハッタリに引っかかるとは。まぁ、都合はいいかな)
「とりあえず、僕からは何も言わないので、自首したほうがいいですよ」
結希はそれだけ言い残して、駐車場をあとにした。
安藤は、崩れ落ちたままだった。
08:20
「今瀬さん、来ました」
結希は、メールで会話していた知人:今瀬智也の家へ向かった。
「中間報告にしては遅かったじゃないか、結希」
「糖分を買いに行ってたら遅くなりました」
そう言って結希は、飴と小分けされたチョコ、そしてミルクコーヒーのボトルをレジ袋から出した。
「ありがとう。頭を回すには糖分が大事だからね。」
今瀬はそう言ってミルクコーヒーを飲みながら、結希に聞いた。
「で、事故を止められる自信は?」
「ないですね。やはり、直接井澤さんを足止めしたほうが早いです」
「そうかい。で、車は?」
「血を付けたので運転は出来ないかと」
「へぇ…血!?今お前血っつった!?」
今瀬は驚きのあまりミルクコーヒーを吹き出す。
結希は腕を見せながら言った。
「はい。車を封じるために。ほら、カラーボールってあるじゃないですか」
「そりゃそうだけど!てか事故までまだ時間あっただろ!カラーボール売ってる店無かった?」
「…その発想はありませんでした」
そう答えた結希を、今瀬は呆れたような目で見た。
「それはさておき、井澤鏡花の居場所は?」
「朔斗が調べています。把握したらこちらに来ると言っていました」
「そうなの?じゃ、少し待つか」
今瀬はそう言って、ミルクコーヒーをまた一口。
―30分が経った。
今瀬の家に、片耳イヤホンの少年:城ヶ崎朔斗が入ってきた。
片耳イヤホンは既に外している。
「井澤の場所、把握した。生徒会長さんとお茶会してる」
「そうですか、計画通りですね」
「はぁ?」
呆ける朔斗をよそに、結希はチョコレートを一つ取り、口に入れる。
「動かなくていいのか、結希」
「9時半位になったら向かいます」
「…そうか。朔斗、念のため喫茶店の様子を見ていてくれ」
「了解っと」
そう言って、朔斗は片耳イヤホンを取り付けた。
「…よし、生徒会長さんと井澤のお茶会での会話はバッチリ聞こえている。暫くは大丈夫そうだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「…にしても、いつ見ても恐ろしいな、朔斗の能力は」
今瀬はそう言って、ミルクコーヒーを一口。
「別に、遠くの音が聞こえてくるだけだ。結希の時間遡行とか、智也の超記憶に比べたら全然劣ってるさ」
朔斗は謙遜するが、結希は首を横に振る。
「遠くから会話が聞かれているというだけで、かなり恐ろしいですが」
「ああ。この街にいる限りは、迂闊に機密情報は喋れないからな。そりゃ委員会も拘束しようとするさ」
委員会。正式名称は能力者管理委員会。
街にいる能力者を管理するための組織。
強力な能力者は、管理のためにいくつかのグループに振り分けられる。
結希達も「日常部」という部活で、治安維持や事件解決への貢献を義務付けられている。
「まぁ、僕からしたら超記憶なんて、忘れたいことも覚え続けさせられる呪いだけどな」
「まぁそんな事言うな―まて、今おかしな言葉が聞こえた」
「どういうことだ、朔斗」
「一体、何が?」
朔斗は、聞こえた単語を、智也と結希に告げた。
「…パンドラの箱」
「「!?」」
結希と智也は驚く。
「パンドラの箱って、開けたら呪いがばら撒かれる、ギリシャ神話のだろ!?」
「そんな物が、実在するのですか!?」
「落ち着け。まだ実在すると決まったわけではない…というのが3秒前の出来事だ」
智也は顔をしかめ、結希は首を傾げる。
「実在するらしい。パンドラの箱が」




