約束の朝の『眠り姫』
カーテンの隙間から差し込む朝の光を無視するように、彼女は布団にしがみついて離れない。
俺は半ば無理やり布団を捲ると、ツンツンと彼女の背中をつつく。
「…おい…起きろって」
声をかけても返事はない。
うらめしそうな目をして、また布団を引っ張り上げられてしまう。
ため息をひとつ。
「ったく…しょうがないな」
こいつの寝起きの悪さはよく知ってるがーー
今日は一緒に買い物に行く約束をしている日だった。
にもかかわらず、この有り様…
「約束、やぶるんだな。」
俺はわざと低い声で呟く。
彼女の身体が、一瞬ぴくっと跳ねた。
「そーいう悪い子はーーー」
言いかけて、わざと一瞬、間を置く。
思いつきで、布団を足元から大きく捲り上げると、軽く…いや、少し勢いをつけて。
――パチン!
彼女のお尻めがけて、平手を打ちおろした。
「ひぁ……っ!」
布団の中で跳ねるように身を震わせた彼女は慌てて顔を上げた。
頬まで真っ赤にして、潤んだ目でこちらを見つめる。
やべ、、これはやりすぎだったか…!?
「ちょ…そんな顔するなよ、いつまでも起きないから…からかっただけじゃん(笑)」
言い訳めいた声をかけても、彼女はしばらく視線を逸らしたまま。
「……まあでも」
わざと平手をひょいと振ってみせる。
「口で言っても起きられないなら、また“こう”するしか、ないかもなぁ?」
すると
彼女はピクッとからだを震わせ、俺のシャツを両手でぎゅっと握りしめた。
「…ごめんなさい……」
「へっ?」
想定外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。
いつもの彼女なら怒って文句を言うと思っていたのに、震える声でしおらしく謝ってきたから。
「そんな深刻な感じにならんでも…」
「でも……悪い子、だったから……」
彼女の頬は赤く、瞳も潤んでーー
その表情は、怒りでも悲しみでもない。
もっと別の、熱を帯びた何かで揺れているように見えた。
あれ…そんな顔するんだ……
胸の奥で、妙な熱がじんわりと広がっていく。
「…かわいいな。」
俺はそう呟くと、彼女の身体を抱き寄せた。
少しふざけたように笑い、髪を撫でながら耳元で囁く。
「いいこいいこ。
けど、またちゃんと起きなかったら…わかってるな?(笑)」
彼女は目を潤ませたまま、素直に俺の胸に寄り添ってきた。
それからの彼女は、なぜか改善する気配もなく、連日見事な寝坊を繰り返すようになるのだがーー
……それはまた、別のお話。




