第7話 銀髪奴隷のレオン
◆ ◆ ◆
「……これが、お前の馬車か」
レオンは警戒を隠さず、ゆっくりと扉に手をかけた。
外から見れば、ただの商業用の馬車。
だが――彼は知っている。
この馬車には“馬がいない”。
レオンが案内されたのは、馬車の最奥。
そこは他の客室とは明らかに違っていた。
広い空間には、大きなベッドに壁際には小さなキッチンカウンターに奥には個室トイレ。
小さなソファに書棚と化粧台まである。
さらに—、浴室まである。
「ここが私の部屋……」
レオンが一瞬だけ眉をひそめる。
「……俺は外でいい」
…予想通りの反応。
私はくすっと笑って、部屋の中央に立った。
「外? この馬車に?」
そして制御盤代わりの小さな魔導プレートに手を当てる。
「見てて」
魔力を流す。
すると、カスミの部屋の奥の壁が淡く光り出した。
空間が揺れる。
ゆっくりと、壁が“奥へ”と伸びていく。
まるで見えない廊下が生まれるように。
「……空間拡張か」
「正解」
私はそのまま魔力を調整する。
奥にもう一つの扉が形成される。
白木の扉。
シンプルで、けれどしっかりとした造り。
「開けてみて」
レオンは静かに歩み寄り、扉に触れる。
ギィ、と音を立てて開いた先……
そこには、落ち着いた色合いの部屋が出現していた。
広めのベッドに武具を置けるラック、机と椅子もあり、そして窓のように見える魔導スクリーン。
外の景色が映っている。
「……俺専用、か?」
「うん。私の部屋の中だけどね」
わざと肩をすくめる。
「何かあってもすぐ対応できるでしょ? 護衛なんだし」
レオンは無言で部屋を見回す。
壁に触れ、床を軽く踏みしめる。
「……しっかりしている」
「当然。私の魔導馬車だもの」
少しだけ沈黙…そして、低い声。
「俺は奴隷だ」
その言葉に、私は即座に返す。
「違う」
きっぱりと、
「あなたは私の“戦力”。だから、近くにいてもらう」
レオンの瞳がわずかに揺れる。
私は一歩だけ距離を詰め
「それに――」
少しだけ笑う。
「一人で寝るの、つまらないし」
空気が止まる。
レオンの耳がわずかに赤くなった気がした。
「……壁は厚いんだろうな」
「もちろん。防音も完璧」
「なら、問題ない」
彼はゆっくりと室内に入り、振り返る。
「命は預ける。だが守るのも俺の役目だ」
私は満足げに頷いた。
「頼りにしてる、レオン」
その夜。
馬のいない魔導馬車は静かに走る。
広い部屋の奥。
私の空間の中に生まれた、小さな個室。
それはただの部屋じゃない。
信頼の証。
そして――
距離が、ほんの少しだけ縮まった夜だった。




