出会った縁1
ぼろぼろの服を着た中学生くらいの少年が、扉にもたれかかっていた。
「ねぇ大丈夫?」
恐る恐る少年の肩を揺らす。少年の体が、びくりと反応する。
綺麗で澄んでいる目に、私が写る。その瞬間、少年の目が、怯えに支配される。私は、その目を知っていた。
「ごめんごめん。でも、大丈夫。私は、君の味方だから」
すごい震えだ。この少年が、感じている寒さと恐怖を思うと、突き放すことは出来なかった。
「とりあえず、中に入らない?」
少年を風呂場に連れて行った後、暖房のスイッチを入れる。ここで少年が着替える服がないことに気づいた。タンスの中から出来るだけ無地のものを選ぶ。
「これサイズが大きいかもしれないけど」
そう言いながら、洗面所の扉を開く。タオルを手に取る全裸の少年の姿が、目に入る。反射的に目を逸らす。目を逸らす寸前、少年の体にある無数の傷が見えた。
「ごめんね。これ着替えだから」
顔を外に出し、半身になって着替えを渡す。
暖房によって温まったリビングに来た時も、温かいココアを飲んだ時も、私と一緒にベットに入った時も、少年はこの日一言も口を開かなかった。でも、私はこの子が何かを伝えたいと思っていることを彼の目で分かっていた。
久しぶりに夢を見た。私は、落ちていく。光が一切見えない暗闇の中、息苦しくて必死にもがく、もがけばもがくほど苦しくなるというのに。
夢から覚めた。嫌な汗で、背中が濡れている。
昨日の出来事が、頭の中に流れ込んでくる。横ですやすや寝息を立てている少年の姿を確認して安心する。少年を起こさないように気を付けてベットから抜け出す。冷蔵庫を開き、中身を確認する。卵を二つ手に取り、最近使っていなかったコンロに火をつける。フライパンに油をひき、二個の卵を落とす。
食欲をかき立てられる匂いが、充満する。対面で座っている少年は、寝起き眼をこすっている。
「昨日は、寝れた?」
少年は、ゆっくりと首をかしげる。
「そうだよね。知らないところで知らない人と寝れないよね」
微妙な空気が、私と少年の間に流れる。すぐに、少年の咀嚼音が微妙な空気感を壊した。
「美味しい?」
少年は、小さく頷いた。彼の僅かだが、確かな頷きに言い表せない温かさがこみ上げてきた。窓から差し込む優しく温かな朝日が、私と少年に降り注いだ。
二人とも朝食を食べ終わり、少年にはココアを、私自身にはコーヒーを入れる。私が、やっていることは正しいのか。未熟な私にこの子の世話が出来るのか。そんな終わりのない問いが、頭の中をぐるぐると回っている。
私の行為は、紛れもなく誘拐であり、犯罪行為だと自覚している。ただこの子が、少しでも幸せであって欲しいという願いは、間違っていないと信じている。