異界駅8
押し入れに閉じこもってから、どのくらい経ったのか分からない。
暗闇が支配する世界でうずくまる。光が入る隙さえ無かった。だが、決して押し入れから出ようなんて微塵も考えてなかった。老人の言いつけを守ったんじゃない。破るほどの度胸が無かっただけだった。
足音が、近づいてくる。覚悟を決めれずに、目を固く瞑る。暗闇からの解放と未知への恐怖がせめぎ合い、押し入れが開けられることを望み、開けられないことを願った。
俺の望みか願いが、届いたのか届かなかったかは分からない。だが、押し入れは開けられる。俺は、目を閉じていた。
「よく耐えましたね。もう大丈夫です」
聞き慣れた老人の声で、俺は目を開ける。体の力が抜けていくのが分かる。
完全に腰が抜けた俺は、老人の力も借りて押し入れの中から這い出る。
「貴方もここの住人になったので、家の外に自由に出てもいいですよ。脅威も去ったので」
「脅威って何ですか?」
「貴方には、関係のないことです。気にしなくて大丈夫です」
答えになっていない返答の意図が、これ以上聞いてくるなと汲み取った俺はそれ以上老人に質問しなかった。
老人に外出する許可を貰った俺は、外へ散歩に出かけることにした。空に圧し掛かる曇天は、今日も太陽と青空を隠していた。
行く当てなんか無かった。ただ無性に体を動かしたくなっただけ。
気づけば、村人が管理している田んぼのあぜ道に来ていた。
「ねぇ」
誰かに声を掛けられ、振り向く。
「異界から来た人知らない?」
作業服を着た謎の男が、俺の前に立っていた。
「っあ・・・」
咄嗟に返答できなかった。本当の事を言うべきか、誤魔化すべきか。俺の頭は、急速に回転した。普通に考えれば、見ず知らずの人に本当の事を言うのはリスクがありすぎる。しかし、直観は言っている気がした。この人に、嘘をついてはいけないと。
「見てないです・・」
俺は、直観を切り捨て、理性を優先した。
「それは本当か?」
男は、俺の目を見ながら語り掛けていた。その目を見ていると、吸い込まれそうになる。慌てて目を逸らした。
「はい。本当に知らないです」
「そうか、疑ってしまい申し訳ない。何かわかったら森にある祠にきてくれ」
そこからの記憶は、あまりに無い。気づいたら、老人の家の前に立っていた。




