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異界管理者  作者: 幸人
18/22

異界駅5

 夜が深まっていく。外からは、耳障りの虫の声が聞こえてくる。

 老人から与えられた布団に潜り込んでいる俺は、中々眠りにつけずにいた。布団から顔だけ出し、真っ暗な天井を睨む。

 退屈な時間が過ぎていくと、徐々に眠気が遠くの方からやってきた。眠りの世界へと入る刹那、家族たちは俺が居なくなって心配してくれているのか、そんな他人事のような疑問が今更ながら頭をよぎる。思考をしながら眠りへと入る。


 誰かに呼ばれている気がする。

 気が付くと、真っ白な空間にいた。白以外の色彩を、俺の目は捉えなかった。ここは、室内でも室外でもない気がした。

 また誰かに呼ばれた気がした。姿の見ない者からの問いかけに、不思議と恐怖は感じなかった。

「急に呼び出してしまって申し訳ない」

 今度は、すぐ間近で声がした。振り返ると、立派なひげを蓄えた壮年の男性が、立っていた。俺は、ただじっと男性を見つめる。男性もこちらを見つめ返す。そこにある沈黙は、心地よいものだった。

「罪の無きそなたをこのような地に送り込んでしまってすまない」

 少しの沈黙が過ぎ去った後、口を開いた男性は頭を下げた。突然、頭を垂れられ驚いた。

「頭上げてください。今のところ、まだ無事ですから」

 俺の言葉で、男性が頭を上げる。

「そう言ってもらえて助かるよ。だが、あの連中は君の思っているよりお人よしではない」

 あの連中とは、きっと老人が言っていた人ならざるモノのことだろう。

「しかし安心してくれ。君を助け出すための者を派遣する」

「ありがとうございます」

 深く考えることもせず、反射的に返事をする。

 その後、男性と何か話した気がしたが、その内容は記憶から抜け落ちた。しかし、最後に男性から言われた言葉は、脳にこびりついていた。

「真の言葉に耳を傾け、偽りの言葉を退けよ」


 体にまとわりつく蒸し暑さで、目を覚ます。最悪の目覚めだった。

 そして、俺は気づく。真っ白なあの世界、あの世界で出会った男性も全て夢の中の出来事だった。あの男性が、もたらしてくれた希望も救いも跡形もなく消えていく。

 一人で勝手に絶望し、気分がどん底まで落ちた。活力が全く湧いてこない。そんな自分に嫌気が差し、存在すること自体、億劫になる。

 起きたばかりの回らない頭で、答えの出ない問いを考え続ける。未だ体を布団から出せていない怠惰な人間は、簡単に絶望という着地点に落ち着いた。

「そろそろ起きてください。朝ごはんも出来ていますので」

 老人の催促で、ようやく布団に別れを告げる。

「おはようございます。昨日は、あまり寝れなかったようですね」

 老人は、昨日よりずっと笑みを深めていた。

「おはようございます」

 朝一番の掠れた声しか出なかった。

「慣れない環境なので致し方ないですよ。そういえば、昨夜うなされていましたが、何か夢でも見ていたのですか?」

 真っ白の世界とあの男性が頭をよぎるが、また絶望が蘇りそうで、俺は老人に嘘をつくことを決めた。

「いいえ、夢は見てないです」

「そうですか。それなら良かったです」

 老人の微笑みが強くなった。少し、不気味に感じる程に。

「今日は、僕何をすればいいですか?」

 俺の言葉を聞いた老人は、突然手を叩いて大笑いし始めた。その異様な光景に、恐怖で俺の体は固まった。

「実に可笑しい。あなたに出会えて本当に私は幸せ者だ」

 

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