異界駅1
学校からの帰りの電車内でのルーティーンとなっているイヤホンから流れる都市伝説の話に耳を傾ける。平凡で退屈な日々を送り続けていると、非日常的な超常現象に憧れる。そして、少しだけ、ほんの少しだけ願う時がある。誰も経験することのない恐ろしい体験をしてみたい。
いつの間にか寝てしまっていた。見渡すと、車内には俺以外誰もいなかった。車窓からの景色は、真っ暗な田んぼが続いているだけだった。俺の住んでいる地域は、田舎なのは間違いない。しかし、ここまでの田舎景色は知らないので、どうやら寝過ごしたらしい。現在地を知りたくて携帯を取り出すが、圏外になっていて使い物にならなかった。自分以外誰もいない車両、真っ暗な外に恐怖を覚え、必死に冷静を取り繕うと自分に言い聞かせる。
「次は・・・次は・・・」
突然車内に曇った男の声のアナウンスが流れたが、駅名が聞き取れなかった。その男の声が、あまりに低く抑揚がない声で不気味さがより一層際立った。心細さと恐怖が、思考を支配し、頭がおかしくなりそうになる。
名前の分からない駅に着いてしまった。危険と分かっていたがそれ以外の選択肢が見つけることが出来ず、ドアが開くと逃げるようにホームに降り立った。駅名が書かれているであろう木製の看板は見つけたが、肝心の文字が経年による劣化によって消えて読めなかった。俺と一緒にこの駅で降りた人を探したが、そんな人間は誰一人として居なかった。その事実を確認した瞬間、うねりを打ちながら、絶望が襲ってきた。
目の前で見たものを全否定して、これは夢だと淡く不確かな希望を願って目を瞑ってしゃがみ込んでいたかった。しかし、生き物としての生存本能が、ここから逃げろと強く命じる。
俺は、本能に命じられるままに、ホームからの脱出を試みる。ホームから改札に行くための階段を探すが、そんなものはなかった。駅舎らしきものも見当たらない。あるのは、俺が立っているホームだけ。完全にパニックに陥った俺は、線路に飛び降り、乗ってきた電車とは反対方向に絶叫しながら全力疾走した。
どのくらい走ったのか知る由もないが、長い時間走り続けたことは確かだった。途中、何度も息が切れ呼吸が苦しくなり、止まろうとした。しかし、得体のしれない恐ろしさが危機感を生み、足を止めることを許してはくれなかった。
まだまだ恐怖は背中に張り付いているが、あの駅から遠ざかることが出来たことで少し心に余裕が生まれ、足を止める。その証拠に、さっきまで聞こえていなかった虫たちの美しい鳴き声が俺の耳に届く。
電車が来ないことを祈りながら、光を求めて歩き始めた。
一人の青年が、平和な世界から絶望が溢れる世界にやってきた。格好の獲物を食い散らかさんと純粋な悪意が、牙を研ぐ。




