出会った縁5
強い日差しに照らされる四つの影が、揺れている。
「あつい~」
「それしかいってない」
話せる言葉が増えてきた少年が、彩夏につっこみを入れていた。
「だって~あついんだもん」
「頑張って、もう少し歩いたら彩夏の行きたがっていたかき氷屋さんに着くから」
「はーい」
覇気のない返答をした彩夏は、トボトボと私たちに少し遅れながらついてきた。
「ほら見えて来たよ」
後ろの彩夏に振り向いた優香が指差した先に、かき氷屋があった。
店内に入ると、冷気が一気に体を冷やしてくれる。
「涼しい~」
注文を済ませ、私たちは席についた。
「次はどこに行くの?」
優香と彩夏に丸投げしている私が、二人に聞く。
「君は、花火を見たことがある?」
優香は、私の問いには答えず、少年に質問した。
「うん。きれいだった」
「そっか」
少年の答えに満足したのか優香は、微笑んだ。
「四人で旅行に行こう。大きな花火大会があるところにね」
高速で移り変わる新幹線の車窓を、少年は張り付いて見ていた。
「あっ、富士山だ」
反対側の席に座っていた彩夏の方に目線を移す。
晴れ渡る青空を背に、悠然と富士山が聳えていた。隣を見ると、少年も富士山の方を見ていた。
「今度、富士山も行く?」
「うん」
少年が頷いたと同時くらいに、新幹線はトンネルへと入った。真っ暗なだけの景色に飽きたのか少年は、すぐに眠りの世界に入っていた。
そんな君の寝顔を見ていると、君の眠気が私に入ってきて夢の世界に誘ってくれた。
眩しい日差しが、車窓から差し込み、私を目覚めさせる。隣の少年は、まだ眠りから覚めていないようだ。隣に視線を移すと、優香と目が合った。優香が、体を前に出すと寝ている彩夏が見えた。私と優香は、何を言うこともなく微笑みあった。
「着いた!!」
新幹線に別れを告げ、ホーに降り立ち改札を出た。この土地の空気を、胸いっぱいに吸い込む。
「じゃあ行こうか」
優香に促され、スーツケースを引きバス停に向かう。出発の時間を待っているバスに、乗り込んだ。平日の昼間ということもあり、車内は空いていた。大学の長い夏休み、万歳。
バスに揺られること小一時間、私たちはバスを降りた。
「ここからちょっと歩くみたい、ついてきて」
優香が、携帯で地図アプリを見ながら先導してくれる。私は、優香の後ろ姿についていく。
「つかれたぁ~」
彩夏が、ベットに飛び込む。
「そうだね。今日は、よく歩いた」
私たちの客室に差し込む光は、暖かな夕日の色をしていた。
「はなびはいつ?」
「明日の夜だよ」
少年の問いに、優香が答える。
「下の温泉、夜ご飯の前に行きたいかも」
「それなら今行こうよ」
「うん。一緒に行く?」
少年は、私の誘いに頷きで答える。
「私は、疲れたから後で入るよ」
「分かった。寝ても良いけど、夜ご飯の時までには起きてよね」
「わかったわかった。いってらっしゃい」
客室を出た私たちは、温泉がある階に降りる。脱衣所の前で少年と別れる。温泉を楽しみにしていた私は、手早く服を脱ぎ、温泉へ向かう。
私たち以外の宿泊客が少ないのは薄々感じていたが、温泉が貸し切り状態なのは驚いた。ワクワクしながら体を洗い流し、室内の湯舟には目もくれず、露天風呂へ急ぐ。
肩まで湯船に浸かり、体の芯まで温まる。上を見上げれば、空はすっかり暗くなり、太陽の代わりに月と星々が世界を照らしていた。
「良い景色だね」
私に少し遅れて、優香が湯舟に入ってきた。
「優香、ここに連れてきてくれて本当にありがとう」
「楽しそうにしてくれる美咲とあの子をみているだけで満足だよ」
親友のその言葉に、心が救われる。
「私ってやっぱり恵まれてるなぁ」
意図せず、心の声が漏れ出た。
「それは、美咲が優しくていい子だからだよ」
「え?そんなことないよ」
「そんなことあるよ。親友の私が言うんだから間違いない」
真剣な表情な優香に、思わず吹き出す。
「そうかも。でも、優香だって周りのことをよく見ているいい子だよ」
「たしかに」
舌を少し出して、いたずらっぽく笑う優香は、とても魅力的だった。
全身の力を抜き、星空を見上げた私は、過去に感謝し、今を楽しみ、未来へ祈る。
明日の花火大会も、忘れることの出来ない素敵な思い出になることを願いながら、湯舟に体を預け続けた。




