何でも欲しがる妹に婚約者から財産まで全て奪われましたが、やり返してもいいですか? 前編
私には、私のものを何でも欲しがる妹がいる。
男爵家の長女である私ジョゼットは、子供の頃からそれなりに物を与えられ、いい暮らしを送れていた。そして、次女である妹ミリアも格別不当な扱いを受けていたわけじゃない。実際には私とそう大差なかっただろう。
それでも、妹は私の持っているあらゆる物を羨ましがった。
欲しい欲しいと駄々をこねても全てが手に入るはずない。
……手に入るはずない、はずだった。
十八歳になったある日、私は当主である父から突然告げられる。
「この家の家督も財産も全てミリアに継がせることにした」
「全てって……! では私は一切相続できないと仰るのですか!」
「うむ、一切相続させないためにすでに手を打った」
「行動が早い! 私がいったい何をしたと!」
屋敷のエントランスでとち狂った父と言い合いをしていると、不意にどこからか笑い声が。
なんとミリアが私のウエディングドレスを着て階段を下りてきていた。しかもあろうことか、私が来月結婚するはずの婚約者が彼女をエスコートしている。
私の前まで来ると妹はさらに口角を上げた。
「今から彼と式を挙げます。彼はお姉様より私の方がいいんですって」
「ありえない! 心変わりも甚だしいわよ!」
婚約者の伯爵家次男に視線を向けると、彼はため息を一つ。
「許してくれ、昨日まで確かに君を愛していたはずなのに……、なぜか今はミリアが好きでたまらないんだ」
「ありえない……」
呆然と立ち尽くす私の顔を妹が覗きこんでくる。
「お姉様のものは全て私がいただきました。ふふ、でも心配はご無用です。お姉様は私がずっと面倒を見てあげますから」
い、妹の召使いにされる……。
……こんなことが起こるなんて、本当にありえないわ。全員がミリアに操られているみたいじゃない。まるで魔法でも使ったように……、……魔法?
まさか、ミリアは……。
その時、メイドが一人の女性騎士を案内してこちらに歩いてくるのが見えた。エレノーラと名乗った騎士の彼女は、場にいる私達に順に視線を送った上で話しはじめる。
「私は騎士団の内務調査局から来ました。こちらの男爵家の財産に関して、奇妙な手続きがなされていたので気になりまして」
それだけ説明するとエレノーラさんは妹の顔をまっすぐに見据えた。
「あなた、こちらの男性方に操心の魔法具を使いましたね?」
答を聞くまでもなく、目に見えて妹の顔から血の気が引いていく。
操心の魔法具って、じゃあやっぱりこの子も……!
「あなたもお婆様からあの宝石を受け継いでいたのね!」
この私の言葉に先に反応したのは騎士の方だった。
「やはりあなたもお持ちでしたか。私達は調査で、この男爵家が二つ所有している可能性がある、と推察していました。あれらは非常に強力な魔法具ですので、王国より危険物指定されています」
……確かに、父と婚約者の豹変ぶりを見れば、とても危険な物であることは一目瞭然だわ。
まだお婆様が存命だった頃、幼い私は急に彼女の部屋に呼ばれた。
手渡されたのは、周囲の人間の心を自在に操れる魔法が宿った宝石。恐ろしい能力なので絶対に誰にも所有していることが知られてはいけないと前置きされた後、もし家の存亡に係わるような一大事に直面した際はこれで当家を救いなさい、と言われた。ただし、使用できるのはたった一回だけ。
おそらくミリアも同じように受け取ったのだろう。
このバカ妹、私を追い落すためだけに一族の秘宝を使うなんて!
おかげで内務調査局にもばれてしまったし……。
……そうだ、発覚してしまったからには私が持っている宝石は差し出さないと。
「私の宝石は自室にありますので、すぐに取ってきます……」
そう告げると私は自分の部屋へと駆け出す。
ところが、宝石を手に戻ってくるとエレノーラさんは意外な言葉を口にした。
「別にそれの回収は必須ではありません。重要なのはこの王国からなくなることです」
「つまり……、どういうことですか?」
「それを使えば男性二人の精神支配も解くことができます。他にも解除法はありますが、時間を要するので手っ取り早くその宝石を使ってください」
「あ、分かりました。それでは」
と私は宝石をかざしたものの、何だかモヤモヤした納得いかない思いが。騎士の方をちらりと振り返る。
「お父様に働きかけて妹を追放してもらう、なんて駄目ですか?」
「……駄目です、新たな精神支配になってしまいますので」
「ですよね……」
「それに、余計なことをしなくても、ご当主様が正気に戻られたならそちらのお嬢様は普通に勘当されると思います」
なるほど、それもそうね。やり返すまでもないわ。