婚約破棄されたけど同じ1行の間でもう次の婚約者が決まってた
「ソシエよ、我との婚約を破棄して我が妹セーラと婚約してくれ!」
「は?」
何その、何……?
殿下との婚約を破棄した上で姫様と?
流石に聴き間違えでしょう。
「殿下、申し訳ありませんが仰ることの意味がよくわからなかったのでもう一度お願いできますか?」
「ふむ、結構大きな声で言ったつもりだったのだが。 よかろう、もう一度心して聴くがよい」
よし、次は一字一句聴き洩らさず……。
「ソシエよ、そなたと我の婚約は破棄だ。 そして我が妹セーラとお婚約してもらう」
「聴き間違いじゃなかった!?」
やはり意味がわからない、どうして殿下ではなく姫様?
「どうしてそのような……」
「兄上!」
「おお、セーラではないか」
あ、姫様。
こんなことを突然言われたら当事者の姫様だってモノ申したくなるのは当然のことよね。
「お兄様、どうしてこのようなことを急に……」
「急ではないぞ、既に父上とクローマー卿の間で既に話は纏まっている」
「お父様もご存じなんですか!?」
私のところには一切降りてきていないのですけど……。
「当然だ、そうでなければ今日のようなめでたき日に話ができるハズもなかろう」
「まさか兄上、本日まで黙っていたのはわたくしの誕生日だからですか?」
「えっ、これってサプライズプレゼントだったの!?」
妹の誕生日に婚約者をプレゼントする兄って何!?
「どうしたソシエよ、騒々しい」
「お父様……」
「クローマー卿」
「わかっている。 ソシエに黙っていたのは悪かったが、やはり発表するのであればこの姫様の誕生パーティだと陛下と共に決めていたのだ」
「ええ……、もう余計に何がなんだかわからないんですけど!?」
陛下とお父様が合意の上での婚約者変更、どんな理由があればそんなことになるのだろうか……。
「そうだな、きちんと話しておこう。 これはな……」
「クローマー卿、ここからはわたくしが」
姫様がお父様の話を遮って、一歩前に出る。
姫様の足は震えていて顔は赤い、一体何を?
「ソシエ、わたくしは貴女のことが好きなのですわ!」
「そういうことだ。 そなたが我のことを何とも思っていなのは知っていたからな、なら妹の幸せのために一肌脱ぐのも兄の役目よ」
「姫様が、私を……」
全然知らなかった……。
でも、言われてみれば。
「もしかして、殿下とのお茶会に時に姫様が何度か同席されていたのは……」
「わたくしも、ソシエに会いたかったので」
「それで陛下と殿下から話が来たのだ。 まあソシエが王家に嫁ぐことには変わりないのだから問題ないな、と」
「軽ぅ!?」
こんなのアリさんだろうか。
いや、陛下とお父様が合意してるんだからアリなんだろうけど。
「わたくしとの結婚は、お嫌ですの……?」
「いえそうではなく、あまりにも急なお話だったので心が準備ができてないだけです。 陛下とお父様が決めたことなら従います」
殿下の時と同じく私に拒否する権利などない。
相手が殿下から姫様に代わる、それだけの些細なこと。
いや本当に些細かな、私この軽いノリに流されてない?
「フッフッフ、大成功だな。 なにせ本日サプライズ発表しようと提案したのは我なのだから!」
「私としては事前にお話いただきたかったんですけど!」
「あの時は大変でしたわね」
「そんなことも、ありましたね」
「あれから1年、わたくしも結婚できる歳になりましたわ」
あの衝撃的な事件から、そんなに経ったんだ。
「最終確認をしますわ、本当にわたくしと結婚してよろしくて?」
「はい、勿論です」
「わかっていますのよ、兄上の時もわたくしの時もただ逆らえないから了承しているだけだということは」
「それは……」
否定できない。
どちらも私の意思が介在する余地なんてない話で、ただ従うしかない。
「でも、それは当時のことで今は違います」
「どういうことですの?」
「ちゃんと好きなんです、今は姫様のことを!」
これが、あの時の返事。
いつからかはわからないけど私も姫様を好きになってしまっていた。
「嘘、ではないのですわよね?」
「はい、私の本当の気持ちです!」
「……嬉しい!」
姫様の瞳から、涙が零れる。
ああ、やっと伝えられた。
「初めて『好き』と伝えるのは勇気がいりますね、あの時あの場で言えた姫様は凄いです」
「ふふ、どれだけ大変かわかってもらえたようですわね」
2人で笑い合う。
本来ならお互いに恋愛結婚なんてモノとは縁遠い立場だけど。
「巡り合わせをくださった兄上には感謝しないといけませんわね」
「きっと自慢げに高笑いをしてくださるでしょう、あの方なら」
「ふふっ、眼に浮かぶようですわ」
あの方の無茶苦茶な宣言があって、今がある。
当時は困惑しかなったけれど。
今は好きな女性と一緒になれる幸せを噛み締めたい。
「今度は私から言いますね。 結婚してください、姫様」
「ええ。喜んで!」
示し合わせたわけでもないのに椅子から立ち上がったのは私と姫様共に同時だった。
そして、まるで吸い込まれるようにお互いの距離が近づく。
「ん……」
「ちゅ」
唇が、触れた。
「愛してますわソシエ、もう放しません!」
「私も愛してます姫様、ずっと一緒です!」
好きな女性との初めてのキスは、一緒に飲んだ紅茶の味だった。