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74式戦車、引退ならず

不定期連載です。

メカヲタ転生の合間で息抜き用です(*`꒳´ * )↝⋆

長く日本を守って来た74式戦車も遂に引退を迎える時がやって来た。

何輌かは予備兵力として保管されるらしいが、俺達と苦楽を共にした74式戦車(ナナヨン)はこのまま息を引き取る事になるそうだ。


「長い間お世話になりました...」永田光路郎2等陸曹は、愛車の装甲に手を置きながら静かに呟いた。整備班からの最終報告書には、エンジン周りの深刻な劣化が記されていた。


もう大分傷んで来ているし、エンジン周りの調子もおかしい。

別れとは人とでも兵器ものとでも変わらず寂しいものだ。

まして苦楽を共にした戦友ともだ、寂しいに決まっている。


「車長、また深刻な顔してますよ」装填手の立川勁陸士長が声をかけてきた。「思い出に浸ってると、また心臓が変な動きしますよ?」


目を閉じればほら思い出される....地獄。

はっ! 危なかった、思い出の苦しさで不整脈が起きていた。



74式戦車(ナナヨン)の乗員は4名。皆気のいい奴らだが夏場にこの狭い車内で何日もいた日にはおしどり夫婦だって殺し合いを始めるだろう。

俺達はそんな環境下でも殺し合いをしなかった最高の仲間たちだ。


言い忘れていたが私の名は永田 光路郎2等陸曹、32歳独身でレンジャー徽章持ちの車長だ。

知性と体力を併せ持つ紳士的な男だが女性にモテた試しがない。犬、猫、鳥、爬虫類等人間以外にはやたらと懐かれるが、ペットを飼った経験は無い。


「まあ、動物に好かれるってことは、車長の心は優しいってことですよ」と東堂が言うが、それは慰めにもならない。


部下の3人は装填手の立川 けい陸士長、21歳でスナイパー志望だった男だ。

事実射撃センスには目を見張る結果を示しており何故装填手をやっているか不明な男だ。一説には脱柵して女の所へ行ったのを女に通報され捕まり装填手にされたとも言われている。

飯塚に言わせるとスナイパーとは金髪イケメンでチャラくて女に優しい者らしい。


「いや、そのイメージはどこから...」と永田が突っ込もうとすると、飯塚は「クルツ、ルツ、ミシェルとデータがあります!間違いありません!」と誇らしげに答えた。


操縦士は飯塚 十蔵3等陸曹、25歳でアニメ、ゲームヲタだ。ドローンの扱いに長けておりドローンを使ったレースに一時期ハマっていた。今でも車内に偵察用と言って持ち込んでいる。

年中アニメ、ゲームにハマっており嘘か誠か戦車の操縦方法もゲームで覚えたと嘯く。


「いや、マジですって!『WoTs』で71式使いまくってましたから!」

「ゲームじゃねぇか...」

「だいたい一緒ッス!」


砲手は紅一点(?)の東堂 美咲3等陸曹(先任)、25歳で格闘術のスペシャリストだ。小学生の頃から截拳道、柔道、剣道、弓道、躰道を習い大会でも優勝しまくっている化け物だ。砲撃時の集中力は弓道から来ているのか、凄まじい命中率だが小銃だと何故か当たらず殴った方が早いとなってしまう。主に截拳道と躰道で戦うスタイルは自衛官としては異質で自衛隊格闘術しか習った事の無い隊員には脅威となっている。

頭の方もかなり良く文武両道を体現した人物だが、戦車砲をやたら撃ちたがる中毒者ジャンキーでもある。


「今日こそ最後の一発を...」と東堂が主砲を撫でながら呟くたびに、永田は冷や汗を流すのだった。



このメンバーとも別れの時が近づいていた。ナナヨンとの別れは即ち仲間たちとの別れでもあるのだ。

最後の訓練が終わりを告げ、皆しんみりとしていた。


その時突如として外が明るく輝き、車体が激しく揺れた。なにかの攻撃を受けたのか?


飯塚が「総員!対ショック対閃光防御!!!」と叫んでいる。波〇砲を撃つつもりか!

俺は「即時確保!」そう叫んだのを最後に意識が光の中に消えた。


――――――――――――――――――


目を覚ますと不思議な感覚だった。

夢と現実の狭間に居る様なぼやっとしてはっきりしない感じがし動く事も出来ない。

何か女性の声が聞こえる気がするが、遠くて良く聞こえなかった。

そしてまた光が広がり意識が光に飲まれていく際に女性の声が大きく聞こえた「え?待って中に誰か入ってない?」


...入ってます。トイレの中でノックされた時の様な事を呟きながら意識を失った。


―――――――――――――――――――


目を覚ますと戦車の中だった。意識を失っていたのか?

目の前のシートで砲手の東堂が寝息を立てているのが見えた。


スマホを胸ポケットから取り出し動画配信サービスに繋げて起床ラッパを流してやろうとしたが、何故か圏外になっている。


「総員起床!状況報告せよ!」


「はい!って...ここどこですか?」立川が周囲を見回しながら答える。


俺の声に反応し各々目を覚ましていく。

飯塚だけ寝こけて起きない。


「飯塚3曹!!直ちに起床せよ!装備品の没収を検討する!」


途端に目を覚ました飯塚はポケットの中を確認、安心してため息をついた。

またこいつ関係無いものを持ち込んでやがるな...


「飯塚、外部状況を確認せよ。」


「了解。操縦席前方より外部状況を確認します。植生が不明な樹木を視認。駐屯地外と思われます。未舗装の街道状の地形を確認。」


「この状況下においてドローンによる偵察が有効かと思われます。」


飯塚が進言してきた。存外悪くない意見だ。

「飯塚、直ちにドローンによる周辺地域の偵察を実施せよ。」


飯塚は頭上のハッチをあけ外に頭を出した。「報告します。これは...異世界転移事案と考えられます!」

またアニメネタか?


状況確認のため俺もハッチを開けて外に頭を出した。

あー...なるほどね。確かに日本国内ではない。空域に未確認飛行生物を視認。


「翼竜..ですかね」立川が呟く。

「ワイバーンってやつか...」


「異世界転移の場合、定型の確認事項があるかと思われます。」

インターコムを使って飯塚が声をかける。


「具体的に何を提案する?」


「ステータスオープン!!」


インターコムで叫ぶんじゃねぇ!

突如叫んだその声に反応してか各隊員の眼前にステータスボードが開いた。

これは現実か...本当に異世界転移事案なのか。


「永田車長、ステータス画面上の名称が74式戦車となっております。」東堂が冷静に報告する。

確かに名称はナナヨンになっていて自分達の名ではない。


「永田車長!スキル項目の確認を推奨します!」


「了解。各自スキル内容の確認を...飯塚は周辺警戒。」


飯塚が「えー」と不満を漏らす。復唱はどうした。


スキル... 消耗品回復(パッシブ/要リロード)、燃料回復(パッシブ/休息)、ポーション回復(ダメージ時)、魔法回復(ダメージ時)、SDFP。


「車長、このSDFPって項目が気になります」立川が真面目な表情で指摘。


SDFPの詳細確認のためスキル項目をタップするとTipsが表示された。

SDFP(自衛隊ポイント)1,000,000P貯めると元の世界に帰還可能。


「ミリオン...ですか」立川が絶望的な表情を浮かべる。


また消費によって本来の世界から装備品等の調達が可能。ネットショップの様なページが有り様々な物資がポイントで買える様だ。

ポイントは人道支援により蓄積。


「まるでゲームのミッション報酬システムですね」と東堂。


「永田車長!11時方向、400に敵性存在と思しき人影を確認!民間人と思われる女児2名が襲撃を受けています!」飯塚の緊迫した声が響く。


「状況詳細報告!」


「緑色の人型生物、身長約1メートル、武装は粗末な刀剣類。数は3体。女児2名を追跡中!」


「了解。初動としてポイント獲得を兼ねた人命救助作戦を実施する。人命救助は我々の本分だ。飯塚11時方向、400へ前進用意! 前へ!!」


「了解!前進開始!」


74式戦車は急発進、一瞬のウィリー状態を経て移動を開始した。


東堂がこちらを向いて期待に満ちた目で主砲を撫でる。

「否定する!民間人への危険が大きい!」


ガックリとする東堂だが、構ってられるか!

「目標視認、ゴブリンA、B、Cと呼称。」


そこには小児程度の体格の人型種を確認。緑色の体表と醜悪な容貌。不衛生な外見で唾液を垂れ流し、卑劣な表情から敵性は明白。


「当該存在がこの世界の正規の住人である可能性は考慮すべきか?」

誤認は致命的な事態を招く可能性がある。


「生物学的特徴から判断するに、明らかに被害者である人類とは異なる種族です。服装や道具の使用状況から見て、独自の社会構造を持つ知性種である可能性が高いと判断されます。」東堂の分析は的確だった。


「なんか...RPGのモブっぽいですよね」飯塚が呟く。

「今回だけは同意する」


「生物災害の可能性も考慮。接触は極力回避する。」

敵勢力は少数かつ小型、89式少銃での対処が適当と判断。


「立川、ハチキュウで制圧せよ。」


「了解!」


立川は操縦席横の小銃銃架から89式5.56m小銃を取り出し銃弾を確認。

「89式小銃、実弾装填完了!」

そのまま装填手用ハッチから身を乗り出す。


「飯塚、敵の注意を引け!」

「了解!」


飯塚3曹は距離200まで74式を近付け相手の気をこちらに引きつける。


「制圧目標確認。ゴブリン3体、距離200。89式で制圧開始。」


「了解。射撃姿勢確保」

「射撃開始!」


「パン!パン!パン!」

精密な射撃音が3発、短く鋭く響き渡る。


「目標A、B、C、全て制圧完了。3体の行動停止を確認。」

全員頭部を綺麗に撃ち抜いていた。

「さすが元スナイパー志望」と東堂。


「元じゃない!」不貞腐れる立川だったが、この異世界でもこのAIMはいい武器だ。


「了解。飯塚、現場まで前進。生存確認。」


「了解。...っと、車長、被救助者が怯えてます。」


74式戦車は慎重に前進し、倒れたゴブリンたちの近くで停止。


「目標3体、射撃による即死を確認。」東堂が報告。


「周辺の安全確認。」


「周辺に敵性存在なし。被救助者の安全を確認。って、可愛いじゃないですか...」立川が思わず呟く。

「異世界でもぶれない奴だな」


「SDFPの確認。」


「7ポイント加算を確認。ゴブリンが1P、要救助者が1人2Pの内訳を確認しました。」


「了解。被救助者の保護を開始。搬送先の確認をせよ。」


少女たちは涙を流しながら感謝の言葉を述べている。何語で喋っているか見当もつかないが、どうやら言語の問題は無さそうだ。話をまとめると住んでいる村まで2kmと言ったところか。



「これにて人命救助作戦終了。被救助者の搬送を実施後、装備品確認、周辺警戒態勢に移行。」


100万ポイントまでは長い道のりとなりそうだが、人命救助は自衛隊員としての本分。異世界だろうとやる事に変わりはない。


「ところで車長」と東堂。「転移で装備に故障が無いか各武装の動作確認の必要性を考慮しまずは主武装たる105mmライフル砲の射撃テストをするべきで...」

「却下する」


しくしくと泣く東堂を乗せ、74式戦車は夕暮れの異世界を走り続けた。


SDFP:7/1,000,000

作戦継続中...

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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク

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