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「お母様ー、帰ってきたよー!」
「ああ、おかえり。ってサラマンダーの爺さんじゃないか」
「おお、吸血鬼の婆さん。久し振りじゃな」
「あたしゃまだ136歳だよ」
「それは婆さんじゃと思うぞ」
吸血鬼だから時間の流れがよく分かんなくなっているのかもしれんな。
そしてやっぱりこのサラマンダーの爺、婆さんと知り合いだったか。
「なあ、俺の立場ってどうなるんだ?」
「3000歳ごえのジジイ」
「もうそこまでいくと、人間とは言えなくなってくるんじゃない?」
そうかあ?俺の眷属になってるドラゴンもそのくらいの年だぞ。
あ、ドラゴンって人外だった。
「お母様知り合いだったんだね」
「そりゃあね。こいつの娘も産んでいるしねえ」
衝撃の事実だな。そしてこの婆さんは何人産んでいるんだろうな。
「そっか」
「驚いてないんだね」
「僕は十分驚いているよ。顔に出にくいだけで」
じゃあこいつは俺があの婆さんと同じくらいの歳だと聞いたらどう思うんだろうな。
■■がいるし、特に何も思わんかもな。
「なあ、初代皇帝ー。お前は自分が魔法の衰退の原因になってるって聞いたときどう思った?」
「別にオレだけのせいじゃないだろ」
こいつには真実を言ったほうがいいんだろうか。
お前の作った国は大分前に腐敗していて、王族は知らぬうちに入れ替わっている。お前の子孫はもはやグレイ家とその分家だけだ。
お前の娘と孫のほとんどが早死にしてしまったことを教えた方がいいのだろうか。
……今はまだやめておこう。
■■は、愚かだからこそ静かに寝ていられるのだろうから。
「実はだな、この俺の情報把握では過去の情報も調べられるんだ。それによるとお前はこの世界の黒幕に関わっている」
「何言ってんだよこの根暗コミュ症野郎」
「はぁ?なんだ?俺とレスバする気か?」
「いやしない。しません」
母親の頭がおかしいせいで、俺も妹も変に歪んで育った。俺も自分の性格が良いなんて言うつもりはない。
俺の父親もあいつのすることは黙認していた。
「あ、そういえばこの家って風呂はあるのか?」
「あるみたいだ」
別に風呂なんてどうでもいいと思う。変にこだわっているけど水浴びさえできればいいだろ。
「お風呂使わせてもらっていいですか?」
「ああいいよ。替えの服は昨日案内した部屋に置いておくからね」
ふと思ったんだが、なんでこの家は服が全サイズあるんだろうか。
多分この婆さんが夜な夜な相手を見つけているからだとは思うが。
「……お前って洗浄魔法使える?」
「え、ええ。もちろん使えるわよ。でも今度からは話すときは一回呼びかけてくれないかしら」
「ああ、気をつける。そういえばあんたの名前ってなんだ?」
「名前なんてないわ」
「じゃあ、ネレイドって呼ぶからな」
「いいわね。今度からそう名乗っても良い?」
「別にいいが。適当につけたものだからな。さて、じゃあ洗浄魔法よろしく」
「汝、対象のものを清めよ《洗浄魔法》これでいいわね」
「ああ」
この魔法は旧式で、今使える人類はほとんどいないと思うんだが。どうやら影の薄いメイドは容易に使えるようだ。今一般的で同等の効果があるのはクリーンだろうか。
気にしたら負けかな。うむ、俺の場合は負けだな。
まあ、綺麗になったしいいか。服も綺麗になっているようだし、このまま寝てもいいだろう。
「俺は自分の部屋に行くから」
「もうあの部屋を覚えたのね。すごいわ」
いや、情報把握で調べているだけだから、覚えているわけではないんだ。
まあでもこの屋敷は広いしな。
「ねえ、那奈くんが一人でしゃべっているように見えるんだけど」
「あいつに限ってそりゃあねえだろ。多分隠れるのに長けたゴーストとかとしゃべってんじゃね?」
「なるほど」
◻︎◻︎◻︎
「じゃ、ワシは帰る」
「この年になってもお盛んなことで何よりだ」
「む、やっぱりお前には隠せんか」
まあこれくらいは。
「じゃあな」
「また金で呼ばれることを期待しとるぞ」
微妙なことを言いながら、消えていった。
「那奈くん、起きて、ってもう起きてたか」
「おはよう。もうサラマンダーの爺さんは帰ったぞ」
「そっか」
「あのアホは今日はどうしたんだ?」
「起こそうと部屋に行こうとすると、何故か自分の部屋に戻ってくるから起こせない」
「マジか。そうなってくると俺にも対処できんな」
幸運もそこまでいくと、何かの能力に思えるな。
「じゃあ、ギルドに行こう」
「うん。《テレポート》」
さて、そろそろCランクに上がりたいな。
「據よ。そろそろ長期クエストに行ってみたいと思わんか?」
「・・・那奈くんはランクアップがしたいだけだよね」
「その通りだ」
早く最高ランクに上がって自分の名前を広めてみたいしな。
前回は俺が弱すぎて、有名になれなかった。だが今回は強い二人とパーティを組んでいるから、チャンスはある。
……実は冒険者のテンプレである盗賊と遭遇イベントをこなしたい、というのもないわけではない。
ないわけではない。
「まあ僕はいいけどね」
「ありがとう。さて、問題はあのアホか。いっそおいて行ってしまおうか」
「それもいいかもね」
「なんか起きたら誰もいなかったから、ギルドに来てみた」
「「・・・」」
なんで■■が来ているんだ。
ふむ。今あの屋敷は、と。あの婆さんは、買い出し。據のお兄さんは同窓会。ネレイドは当たり前のように気配が無い。
確かに誰もいないな。ここまでの運の良さは怖い。
「……そっかあ。受付嬢さん、このクエスト受けさせてもらえますか?」
「いいですよ」
據が手に取ったクエストは、王都にいくのでそこまで護衛をして欲しいというものだ。
クエスト達成はここに戻らなくても現地にギルドがあればそこで受理されるらしい。
ギルドにはデータが集められる機械があるのだとか。
その機械の作成者はディミニッシュ・グレイ。前にも見たな。この名前。
ちなみにこの人はギルド長の弟なんだそうだ。
む、このディミニッシュ・グレイってもしや……ないか。ないよな?
怖いから調べないが。
「この商人はここの商業ギルドにいます。今すぐにでも出発したいそうなので、準備してから行ったほうがいいですよ」
受け付け嬢さんがこの街の地図を見せてくれた。
俺がいるから必要ないんだが。
「へえー。3020番ですか。じゃあ行ってきます。《テレポート》」
そうやって魔法をもったいぶらずに使うから、邪神なんて呼ばれる。
あと、準備してけ、って言われなかったか?
「冒険者です。依頼人はいますか?」
「私です。ではこれから三日、よろしくお願いします」
この世界の暦についてだが、主神アリス様が地球を参考にして作った10000年間分の暦を渡してあるらしい。地球とほぼ一緒だ。
「それはテレポートで、グホッ」
「おい、向こうは結界があるからテレポートは使えないぞ」
據がそう言うことを予想してはいたが、さすがに王都でテレポートはだめだ。ということで頭にチョップを入れておいた。俺程度でそんなにダメージを負ってくれるとは。ちょっと嬉しい。
これくらいの村は、結界をテレポートで透過しても噂くらいですまされるが、王都だとシャレにならん。
それに王都の結界はここよりもずっと強いものだ。
その結界を無視できるなんてことが広まれば、芋づる式に據が吸血鬼だということが分かる。真祖に近い吸血鬼は体質で相手の魔法を無効化できるからな。
そうすると、俺達まで指名手配される。
この時代の魔物は人類の敵だからな。
「どうしてテレポートがだめなの?」
「俺達が世間的に死ぬ」
「……そっか」
間違ってはいない。
指名手配されたら、世間的には死んだも同然だからな。