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オークがたくさんいる。ちょっとキモイな。
「ここにいるオークはいくら狩っても大丈夫だぞ」
オークが何言っているかも情報把握で分かるけど、だからといってどうということもないし、上位魔族の部下というわけでもない。
「おりゃっ」
あ、■■による攻撃がクリティカルヒット。オークは倒れた。ここまで上手くいくのは據の攻撃バフがあるからだな。
「全部倒したけど、少し頬を切った」
「ははは。《ヒール》」
「……。俺いらんな」
「いや、お前は索敵としては超有能だぞ」
ああ、よく言われたよ。それは飽きるほどに。賢者にも、主神アリス様にも。
「じゃあ、門番さんには許可をもらったことだし、《テレポート》」
いや、あれは許可だったのか?今回一回くらいは門通ったほうが良かったんじゃないか。
「はい、オークです」
「えー、全身ですか?頭だけで良かったんですが」
據が異次空収納できるらしいので、全部入れてもらった。オークの肉って高く売れるらしいし。
「では買い取りいたしますね。12000Gです」
10円イコール1Gの単位変換でいいとかなんとか。ノエルだが言っていた。ここまで分かりやすいと、あまり異世界という感じがしない。今度文句を言っておこうか。……誰に?やっぱアリス様かな。
「あ、あいつら新人じゃね?」
「おお、確かにそうだな。後で金を取ろうぜ」
「じゃあ、一人になったところを襲うか」
あ、今回はあのなんちゃってチンピラとは違って、マジのチンピラだ。
まあ頑張れ。俺は一人にならないように立ち回っておくから。
「……一人になってあげるか」
なんだか可哀想になってきた。
■■を襲おうとすると、辿り着く前に何かに邪魔されてるし、據を襲うと、気温を上げられた後、気温を下げられるという拷問のような方法で体力を奪われていた。
これはひどい。
「ぐへへ、今回こそは金を渡したもらうぞ。ゼーゼー」
息切れてるけど?後の二人はしゃべるの辛いらしいけど?なんだその執念は。
しかし、俺の戦闘力ではどうせ負けるか。
1番右にいるチンピラを指さす。
「チンピラ1、お前は鍛冶屋で期待の新星として持てはやされていた。しかし、あまりにもカッとなりやすく問題を起こすので解雇になった」
「なっ」
「チンピラ2、お前は貴族の三男。だが、娼婦に入れ込んだため、家からは縁を切られた」
「くっ」
「チンピラ3、お前は特に何もない、ただの一般貧民の出」
「おいっ!」
「まあ同情はするが」
うむ、3にもいろいろ事情があるようだが、面倒なので省略させてもらう。
「ひとまずぶちのめすぞ」
「「ああ!」」
「この世にいる我の友、汝許可するなら・・・
詠唱を始めると、俺の髪は逆立ち、精神負荷がかかる。この感覚は久しぶりだ。思わず口元に笑みが浮かぶ。
「……ッ」
「不穏な空気がする」
「これ、止めさせた方がいいんじゃねえの!?」
「そう、我の前に現れ・・・
「誰が止めるんだよ!?」
「ここはリーダーだろ」
「うん」
「我を助けたまえ!《主神召喚》」
「おい、ちょっと待て、って主神!?」
「すまん。もう召喚してしまった」
光の柱が現れ、そこから少女が歩いてくる。
「来ましたよ。私は何をすればいいんですか?」
「リーダーを踏んづけて登場したっぽいからもういらない」
「そうですか……。面白そうだから来たんですけどね」
「まあ助かったよ。じゃあな」
「はい、さようなら」
アリス様は消えた。
「「リーダー!」」
ちなみに、チンピラ3がリーダーだ。
「よく考えたら三ヶ月前に会ったばっかだし」
「そういえばそうだな、帰るか」
えー。そこは帰っちゃだめだろ。俺じゃひき止められないけどな。弱すぎて。
「おい、なんでこんなところでくたばってんだ」
「あぁ?……って先輩じゃないっすか。こんなところで何してるんですか」
転がっていたチンピラ3の前にこの前絡んできたチンピラがしゃがんで話しかけている。
確かにそれは俺も気になる。お前は受付嬢さんの前にいなくていいのか。
「お前を助けに来てやったんだよ」
「ありがとうございます!」
本当にそうなのかあ?
もういいや。このチンピラ紛いを調べてみよう。
……。グレイ家の1人なのかこのチンピラ。逃げよう。というかギルド長が何でこんなところにいるんだよ。なんで王家の分家にあたる由緒正しい家柄の坊ちゃんがチンピラ紛いのことやってんだよ。考えても無駄か。
ちなみに主神召喚だが、魔力はいる。しかし、主神を呼べた場合には特典として魔力がもらえるため、最終的にはプラスになる。俺は魔力の上限が普通の人より少し上くらいだから、あまり恩恵はないが。
あ、據を発見。
「チンピラに襲われたんだが」
「ごめんごめん。ははは」
あ、絶対こいつわざとあのチンピラ達を逃がしたな。
「ふむ。そういえば、ギルドには二つ名制度ってやつがあるらしい」
「……うん?」
「二つ名は強い人または特徴がある場合につけられるらしいんだ」
「それで?」
「お前にかかってる変な呪いを広めたら、どうなるんだろうな?」
「ごめんなさい」
ふっ。俺の怖さが分かったか。というか、俺は物凄く弱いから、今後ああいうのはこっちによこさないでくれ。
「でもあのチンピラ達に対処できたんだから、那奈くんはそこまで弱くないよね」
「俺は召喚魔法は得意だが、それ以外はさっぱりだぞ」
「ああ、なるほど。前にドラゴンを召喚していたもんね」
「別にやろうと思えば、神様も呼べる」
「もしやすぐに地球に帰れるんじゃ・・・」
「帰れる」
主神アリス様に頼めば一発だ。面倒だし、やらんが。
「そっかあ」
「■■を回収しにギルドへ行くぞ」
「うん」
騙すようで悪いが據の二つ名はもう存在するのだった。どうやら門番とのやり取りを見ていたギルド長が據は結界を無視できる魔法使いだって触れ回っているらしい。プライバシー侵害をした仕返しなんだとか。
俺の二つ名もあるようだ。なんか全知とか言っていた。仕返し感は特にないな。
「あいつ何してんの?」
あ、遅れてここまで来た■■が人間を振っとばしてる。全力っぽいけど、偶然にも振っとばされた人はかすり傷一つない。
しかし、據の声が冷たい。
こいつは今酔っ払ってるからさ。許してあげなよ。
どうやらさっきのチンピラ1と2がうまいこと飲ませたみたいだな。
……ん?こいつに酒飲ましたのか?こいつ無茶苦茶酒癖悪いのに?
そして■■を屋敷まで連れていくはめになるのは一体誰だろう。據か。
「……。我の契約者、取り敢えず金の500Gくらいくれてやる!出てこいサラマンダー《召喚》」
「久し振りじゃな。取り敢えず金はもらっといてやったぞ」
「高位のサラマンダーってまた物騒な物を」
「お、吸血鬼の真祖のにーちゃんも久し振りじゃ」
「黙れ」
真祖って本体もだが、体の一部だけでも高く売れるからな。知り合いでもおかしくないか。この爺さんお金には目がないからな。
「爺さん。急に呼び出して悪いが、あの酔っ払いどもを焼き払ってくれ」
「いいぞ。サンダー!」
「爺さん。サンダーって雷じゃないか?」
「知っとる。ファイヤー!よりサンダー!のほうがかっこいいじゃろ?」
「変わらんだろ。そもそもサンダーなんて呪文ないし」
あえて言葉に出すなら、高位呪文のほうがカッコよくないか。長すぎる?そうだな。
「黒焦げになってるけど、いいの?これ」
「大丈夫じゃ。見た目ほどひどくはない。後はあんたが治せばいいじゃろ」
「マジかー。《ヒール》《ヒール》《ヒール》」
「さすが!すぐ治っていくな」
よく考えたら、酒に酔うって状態異常だしヒールで治ったかもしれない。