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「待ってよ!もー」
據が走って追いかけてくる。
「まあ大丈夫だろ」
嘘発見器は加宮が異世界に来る時にもらった特典らしい。なんでそんなもんにしたのかは分からんが……人それぞれ悩みも多種多様ってことだろう。知らないけど。
そもそも加宮はあそこでチクるなんて、自分が面倒になるだけのようなことはしないと思う。
「ここの森に回復草があるらしいよ」
「知ってる。2964番に転移するといいと思う」
「大量に生えているのかな?《テレポート》」
うむ。ここは群生地なんだ。魔物は寄ってくるけどな。魔物ももちろん回復草を利用しているからな。
「うわっ、魔物がいっぱいいるんだけど」
「大丈夫だ」
ここの魔物は襲ってこない。この辺りは食べ物がたくさんあるし、わざわざ人間を襲うような意地の悪い種類の魔物も生息していない。
『あそこにいるのって人間だよな?』
『そうね。回復草を乱獲するわけでもなさそうだしそっとしておきましょ』
そしてそれは、正しいようだ。
さっきのは魔物の言葉である。情報把握で俺には分かる。
高位の魔物だし、人の言葉に近い言語を使うから比較的分かりやすい。
これほど便利な機能はないよな。俺の言葉が相手に伝わるわけではないけど。
「じゃあ、ノルマの分は採れたし、帰ろっか」
「一時間もかからんかったか」
残念だ。もう少し遅れてギルドに行けば面白いものが見れると思ったのにな。
「?《テレポート》」
そんな俺の様子を見てか、據が首を傾げながらテレポートを使う。門通ってないけどいいのか?
着いた。あ、いた!こいつだよ、こいつ。程々に体格のいい男が感じの悪い笑みを浮かべながらこちらを見ている。どうやら今日はいつもより早めにギルドにいるようだ。
「なあお前ら新人だよなあ。新人は先輩に金を出すっていうルールがあるんだよ」
来たぁああ!!!これが王道にしてテンプレだろ!!冒険者ギルドでやるべきノルマ!先輩の中堅1歩手前の冒険者に絡まれる。実績解除されたな、間違いない。くくく、絵に描いたような王道展開が向こうからやって来た。この展開を待っていたんだ。後でまだ幸せそうに眠っているアホに自慢してやろう。
「ねえ、那奈くん。僕って新人なんだろうか?」
「新人だろ。じゃなかったらなんだよ」
酒場での経験は別だろ。まだギルドじゃなかったんだし。
「つまりな、俺に金を渡せってことで……。って聞いてねえ!」
「聞いている。こんな展開逃すわけないだろ」
「もちろん聞いてたよ。受付嬢さんのことが好きなんだよね?」
據が半笑いでそんなことを言った。
……まあ絡まれて以降はテンプレートとかないから別にいいけど、それはいくらなんでも味気なくないか。
「な、ななななな何言って、そ、そんなわけない、だろ」
「好きなんだね」
「へえ。あの女しか受付にいない時間を狙って、わざと騒ぎになりそうなところで新米冒険者に話しかける。強いところでも見せたかった?」
「なんでそんなこと知って、て、……クソッ」
あ、自爆した。俺が情報把握でサクッとネタバレをかましたら向こうから同意されてしまった。これはこれで面白いかもしれない。眠くて降りてくる瞼を目で擦りながらそんなことを思った。
「ギルド規定でギルド職員は冒険者同士の争いには関与しない、ってのがあるしこんなこと繰り返してたら永遠に話しかけられないだろ」
「「え、そうなの?」」
「……知らなかったのか」
酒場の時からそんな感じだったはずだろう?酒場での争いに店員は関与しない、みたいな。まあでも、物品に対する賠償金は払わないと出禁になるけどな。今も昔も。
「他の人に惚れている受付嬢さんのために、対人兵器に喧嘩売るとか、健気にもほどがあるな」
「対人兵器って誰のことかな!?」
「まごうことなき邪神(笑)だ」
「それやめろって言ったよねぇ!しかもなんか嘲笑ってない!!?」
うるさい。対人兵器と邪神はお前の二つ名だろうが。今でもその名で本まで出ているのに何を言っているんだろう。
絡んできたチンピラも再起しないし。
「……。ギルド規定を真面目に知っている人のほうが珍しいです」
「あ、受付嬢さん、今日も可愛いな」
「ありがとうございます。で、誰が私に惚れているって言うんですか?」
おお、怖い。これは俺が自分のことを言っていると思われているようだ。随分自信家なんだな。それはそれで良い属性だ。
まあ俺には、裏で話していることも全部分かるので隠し事なんてできないのだが。
「■■のことだろ」
「え」
あ、受付嬢さんもフリーズした。
「マジか……。僕でもそれは分からなかったよ」
逆になんでこのチンピラのことは分かったんだ?
「とりあえず、■■を連れて来よう」
「ラジャー《テレポート》」
門通ってないけどいいのか?
にしても分かってはいたがまだ寝てるのかよ。もう昼なのに。
「おいアホ、ギルドの依頼でお前の実力をためすぞ」
「あれ?なんで蹴りが当たってんの?」
俺の蹴りにあまりにも攻撃力がなくて、攻撃としてカウントされないんだよ。だから■■の幸運も素通りする。
「よう、ようやくお目覚めか?」
「昼ご飯の時間だよ」
「そっか」
起きたみたいだしメイドさんに頼んでおくな。
「昼食を用意してくれ」
「わ、分かったわ」
何やら動揺している。俺には理由が分かる!■■のことが気になっているのだと……。……。チッ。
「昼食を持ってきたわよ」
「ありがとう」
「っ、これくらい、いいわよ」
この料理を作ったのはまだ見ぬ據のお兄さんだけどな。
「さて、皆食い終わったし、またギルドに行くか」
「ここの昼食ってどっから来るんだ?」
「さあ、僕もよく知らないや。お母様に聞いてもお母様もよくわからないみたいだし」
マジか。ここのメイドさん、家主にも気付かれていないみたいだぞ。給料とかどうしてんだよ。あ、據のお兄さんがいたな、そういえば。
あと、普段はお母様呼びなのな。
「《テレポート》」
「受付嬢さん、このアホ連れて来たぞ」
「そうですか」
あ、流された。もうさっきのことは無かったことにするつもりらしい。
さて、■■ともパーティーを組んで登録したし、討伐系の依頼をこなせるようになったな。
「今回は亜種のオーク討伐でもするか。二回依頼達成とこのモンスター討伐でDランクまで上がれるぞ」
「その依頼はまだ速すぎますよ。冒険者ギルドに入ったばかりじゃないですか」
「ギルド職員は冒険者のすることに、関与しない」
「くっ」
よし、俺のイタズラ?を無視された仕返しはできた。あとは知らん。
「ははは、亜種のオーク討伐お願いします」
「分かりました」
據は軽快に笑っている。こいつ結構良い性格してるな。
まあ受付嬢さんも無表情に戻っているしいいか。
「では、逝ってらっしゃい」
「……」
俺には漢字の違いも分かるんだが。
情報把握の情報自体が文字で表記されるからな。
ちなみにこの世界の言葉と文字は日本語だ。これは異世界から来た誰かがやったわけではなく、最初からこうだったらしい。この世界の主神をあがめる宗教によると、主神アリスが文字と言葉を伝えたことになっている。事実それは間違っていない。
「あ、前回帰るとき、門通ってなかった」
今頃気付いたのか。
「……お前ら、ここ通るのまだ2回目だよな?」
「ほんっとうにごめんなさい。テレポートで帰ってました」
「テレポートは結界で使えないはずなんだがな」
え!?あ、本当だ。これは知らんかった。知ろうともしてなかった。
「別にいい。面倒だし誰にも言わねえよ」
「ありがとうございます。門番のお兄さん!」
「……そうか。この齢になってお兄さんか」
こいつ加宮だぞ!絶対気付いていないよな。しかし、加宮のほうは気付いているだろうしな。俺たちは據の身長が高くなった以外見た目も変わってないし。
「え、お兄さんでしょ。せいぜい二十歳くらいにしか見えないよ」
「ありがとな。俺は年齢より老けて見えるってよく言われるから驚いただけだ。うん、ありがとう」
なんか加宮が泣きそうになっている。俺たちが同級生だって気づいているんだよな?スキルからそうだと判断したが、これは気づいてないかもしれん。
「じゃ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
加宮はこの世界に来て二十年くらい経過らしいが、唯一の欠点と言っても良かったコミュ症が治っているとは。
なんか、妹がすまん。