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「ってことなんだが」
「ビーム武器とか面白そうなもんもらいやがって」
■■がケイティに関わり深いとかそういうことを抜きつつ経緯を話すと、■■にそんなことを言われた。
「じゃあ北の魔女倒してきてよ。那奈君ならいけるって!」
「……」
なんか嫌だ。
確かに的としては申し分ない。申し分ないが、なんか嫌だ。
「いや俺はお前を監視しなくちゃいけないし」
「別にいいですよ、ここに置いていればそうそう死ぬこともなさそうですし」
……。アリス様に梯子外しというか、後押しされてしまった。顔を見てみるが、割とどうでも良さそうだ。
「箔付けにもなるしいいんじゃないですか。今回異世界でやりたいのはそういうことでしょう?私は応援しますよ」
いや違うな。リールの件でちょっと拗ねてるのか。
お兄さんのことに関しては、執着心が違うな、やっぱ。
「アリス様がそう言うなら……」
とはいえランのことは心配だし、置いていくメンバーと連れていくメンバーを考えなくてはならない。
「私も着いて行っていいかしら?」
西の魔女が優雅に歩いて来ると思ったらそんなことを言ってきた。
「……どうして?」
「そりゃあ、昔馴染みに会える良い機会だもの」
「本当にそれだけか?」
「……。疑り深いのね。魔女と言えど永遠では無いと知っただけよ」
扉の向こうに目を向けながら、西の魔女をそう言った。
「ああ、世間知らずだもんなお前」
■■がそうやって言うので、まあそういうことなんだろうと俺は思うことにした。
「仕方ないな。セシルは連れて行くあと……お前も来い」
「ええーしゃーねえなぁ」
■■の勧誘に成功した。■■がいるだけで安心感が段違いだ。何せ俺が設定した幸運な男だからな。
今まで明確な攻撃手段がなかった俺だけじゃ不安というのが大きいが。
「據はどうする?」
「んー、僕は残ろうかな。同級生達がここに来るかもしれないんでしょ?」
「だな。じゃあここに来た勇者達には王城に行くように言っといてくれ」
心を改めた王女様が待ち構えているはずだからな。半年をかけて帰還用の魔法を作成しているらしい。情報把握で知った。足りない分の魔力とかその他は悟先輩がなんとかしてくれるようだ。
「なんでか分からないけどいいよ」
いいのかよ。
しかし據が残ってくれるのはありがたい。正直この屋敷にランを置き去りにして大丈夫か不安だったところだ。
「ドラゴン!」
「なんだ!?」
呼んだらすぐ来るのは偉いぞ。
「お前はここに残って魔王を守ってくれ」
「そんなー我を置いていくなんて酷いぞ那奈様」
よしよし。これでこちら側の戦力は十分だろう。
……アンデッド三体とゴースト一体、ドラゴン一体か。敵かな?
「アリス様はどうします?」
一応ここにいるのは分体らしいので、戦力になってくれるかもしれない、そう思って聞いてみる。
「私は……そうですね、とりあえず帰りましょうか。あまり魔王に肩入れするのもよくありませんしね」
「そうですか。またな」
「ええ、また」
そう言ってアリス様はそのままテレポートで消えた。
あっさりしすぎと言う人もいるかもしれないが、このくらいがアリス様の好みらしいのでな。俺もこれくらいの方が好きだ。
うーん、後は俺が扱える機動力が欲しいか?
水の龍はあんまり呼びたくないんだよな。正直本当に俺と契約できてんのか今でも疑ってるし。
「出てよ、雷の竜」
まあ呼んでも来ないよな。
真面目にやるか。
「アリス様第1の信徒、ナナ・イトウが告げる。100日に渡り降り注いだ雨の後、神の怒りが閃光として雲を切り裂き、その竜の誕生を彩った。母は力尽き目を覚ますことはなく、俺が幼き竜を抱き上げ、その誕生を祝福した。彼の者の名はジレスティア。契約に従い、今此処に姿を現せ『召喚』」
俺の前に召喚陣が現れ、そこから光が湧き出てくる。
「久しぶりだな、ジル」
「ん」
眠たげな目をした少年が召喚陣の上で座っていた。
前見た時より成長している。さすが成長期。
「魔王討伐に今から向かうんだが……」
「魔王ってこいつじゃないのか?」
ランを指さしている。
「そうだぞ」
「こいつを倒せばいいのか?」
「うん俺が悪かった。こいつを騙って悪さしてる奴を倒しにいくんだ」
「理解した」
「背に乗っていいか?」
「!とうとうか!もちろんいい!」
そろそろ背に乗れる大きさになっただろうかと思って聞くと、食い気味の答えが帰ってきた。
「オレは?」
「誰だお前。だめに決まってるだろ」
「そんなー」
■■がフラれている。
「竜種はキルティングのやつが扱いやすいだけで、基本気難しいからなかなか乗せてくれないぞ」
「……あれで扱いやすいのか?」
「ああ。昔人間として旅をしていたこともあったらしいからな。基本集落の外に出たがらない竜種には珍しい行動だ」
「へえー」
俺が契約できたのは運が良かったからだ。
体が弱い弟のためにずっと世界を飛び回っていたらしいのだが、その弟も亡くなり、呆然としながら世界中に災厄を振り撒いていた彼女に俺は出会った。
泣きながら空を飛ぶドラゴンに俺は声をかけた。
俺がお前を1度でも一瞬でもいいから止める、と。その賭けに勝った俺は彼女と契約することができたのだった。
その流れで彼の作った薬に有用な物があると発見して、名前を入れて世間に広めたらものすごい勢いで懐かれて、その結果が今である。
弟に似てる気がする!とかなんとか。でもその弟ってキルティングよりでかかったんだろ?俺に似てるわけないんだよな。
「の割にその竜に懐かれてないか?」
「ジルは俺の息子みたいなもんだし」
「わーい」
久しぶりに撫でたら普通に喜んでくれた。良かった。まだ反抗期ではないらしい。
竜種は生まれた時から強者なので、放置していても勝手に育つ。成長が遅いのでまだ子供だが、今の時点で人間の村1つ潰せる。いや潰してないとは思うが。
集落に返しはしたんだが、機会を得ては外を飛び回っているらしい。なんか好奇心旺盛なんだよな……。
「このメンバーで魔王討伐に行くんだな。行けそうな気がしてきた」
「據、よろしく頼む」
テレポートをお願いする。
「いや場所知らないけど」
「あー。1番だよ」
「えっ」
情報把握を使わなくても分かる。ノエルが設定した1番がこの国の境界線にして、この世界の歪み。
「気になることはたくさんあるけど、『テレポート』!」