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さて、何故あそこに先輩がいたのかを考えよう。
先輩……名前は悟だったか?妹が熱を上げている男で、元の世界とこの世界、同時に存在している元主神の男……。まあいろいろあって俺がこの世界にねじ込んだというのが真相だったりする。いけ好かない男だったので、罪悪感は湧かなかった。
結構有能だったらしく人柱として上手いことやり遂げたみたいで、今では俺の強大な敵としてたまにちょっかいをかけてくる。自業自得だって?それはそう。
俺が勇者の1人にさせられたのはやっぱやつの報復なんだろうか。
アリス様にも普通に怒られた。なんだったっけ……この世界のトラブルはこの世界で対処します!だっけ。平謝りしたような記憶はある。
さて、話が脱線したがその悟の前に曰く付きの王女さんが見える。
あ、なるほど。王女に絆されたか、悟。
面白いからいいが。
割と気軽に帰れそうな雰囲気になってきたな。
異世界転移に巻き込まれたのは王城にいた連中と魔王の目の前に飛ばされたやつくらいか。
どうやらこの勇者召喚にはアリス様も関与しているみたいだし、実はもう一人くらいいるのかもしれんが。
俺が初めてこっちに来た時に一緒に召喚されたレイアはアリス様がどうにかこの世界に連れて来たと聞いている。
そんなことを考えていたらネレイドが部屋を訪ねてきた。
「美味しいお酒が手に入ったのだけれど飲むかしら?」
「すまん。まだ未成年だから俺には飲めないんだ」
「あら?そうなの?もうとっくに十五歳はすぎていそうだけど」
「いや、アリス様方式でな」
ちなみに、この世界の成人はだいたい15歳なことが多い。この地域でも15歳のようだ。
最初に成人年齢を15歳だと訴えたノエル曰く、異世界人は精神の成熟が速いとのことだ。
ただ単に見た目が幼くても自由に酒が飲めるようにしたかっただけだと思う。
「あぁ、見た目によらず敬虔なアリス教徒だったのね。いやでも、よく見るとアリス教徒の初代教皇の顔に似ているわね」
なんでお前はそんなことを知っているんだ。おかしいだろ。俺はいつも演説する時、顔を隠していた。初代教皇の顔知っている人なんて数えられる程しかいない。
相変わらずこいつは俺が誰だか分かってて言っているのか、それとも無自覚なのか全く分からない。
どちらにしろ、恐ろしいことに変わりはないが。
「あ、そういえばジュースも持ってきたのよ。飲むかしら?」
「ありがたく貰っておく」
……ほぉ。これはドワーフの国原産の中でもとくにアルコール度数の強いものだな。普通の人が飲んだら、多分一口だけで倒れるぞ。まあ、俺だから倒れないが。
ようはこれ酒だよな。ということだ。
「美味しい?」
「……あぁ」
うむ。これが酒だということはネレイドは知らなそうだ。
「しかし、このジュース誰から貰ったんだ?」
「え?鵺からよ。何で?」
「いや、このジュースは結構手に入りにくいものだろうと思ってな。珍しいからお前も飲んでみろよ」
「え、えぇ。分かったわ。私が持ってきたものだしね、えいっ」
あ、倒れた。幽霊(まだよく分かっていない、というか調べる気がない)でも状態異常にかかるんだな。
というか、ここは酔っ払って素が出ているよ、可愛いなとなるところじゃないのか。
倒れられたらそれが見れない。残念だ。
だが、この酒は使える。瓶だったら多分この容量がでかい学生鞄に入るだろ。
よし、入った。
くくっ。とりあえず鵺とやらに会ってみるかな。
ドワーフと知り合いとはどういうことだってな。
あと、実際は100歳をこえている俺だから良かったものの、本物の未成年が飲んでいたらどうするつもりだったんだ。俺がその宗教をつくっといてなんだけど、本当に敬虔なやつがそんなことをされたら、自殺するぞ多分。
自殺させるくらいなら、アリス様に渡したいものだ。
「さて、鵺のところに行こうか」
ネレイドを放って置くわけだけど、弱点は聖剣だけらしいから(そんなことは言われていない)大丈夫だろう。
この家のどこかにいると思うが……よし、いた。
転移。家の中なら簡単に移動できるようになったな。人の家だけど。
「さて質問だ。お前は據と同じ父親を持っているか?」
「え、いや。僕には分からないよ。だってさ、兄さんの父親が誰だか分からないんだよ?」
うむ、なんというか據とは違い背も高いイケメンだな。爆発しろや。
目を見張る美丈夫だが、言動は全くそれに合っておらず、弱そうな印象を受ける。まあそれは気のせいなんだが。
「……。僕が何でジュースと言ってアルコール度数の強いお酒を渡したのか聞かないんだね」
別に知っている。俺にネレイドを攻撃ほしかったんだろう。俺には情報把握という素晴らしいものを持っているから分かるぞ。
俺がネレイドを攻撃したら、一応助けるつもりだったのかな?その後それを俺かネレイドの弱みとしてネレイドの過去を知る予定だったということだろう。
しかし、こいつ本当に背が高いな。猫背なのに俺より目線が高いとはどういうことだ。もしかしたら、身長を弄ってる時の俺より高いか?いや流石にそれはないか。まぁ■■よりは高いかな。
こいつにはネレイドが見えているらしい。いや、見えているってのはおかしいかもしれないが、要は據やその母でも分かっていなかったものがこいつには分かるということだ。
「別に酒に関しては美味しかったからな。しかし、下手したらお前は永遠に実験動物にされていたかもしれない。もっと慎重に行動すべきだ」
「実験動物?へ?」
「だがそれよりもお前に聞きたいことがある。なんでお前にはネレイドが見えるんだ?」
「ねぇ、実験動物ってどういうことだい!?あと、ネレイドって誰?」
「この屋敷唯一のメイドだ」
この屋敷はこんなに広い。なのに何で何もしなくても綺麗になっていることを、あの婆さんは疑問に思わないのだろう。
……あ、情報把握で分かってしまった。
どうやら、據のお父さんがこの屋敷には半永久的に貴女の世話をする魔法をかけたよ、と言ってネレイドを置いていったようだ。
そんな嘘くらい百年もあれば気付きそうだが、まぁ愛は盲目ってことだろうな。
これがホントの百年の愛ってな。違うか。
やはり情報把握はすごいな。
え?そんなこと調べる時間があるなら、鵺と據の関係性を調べろって?
普通に兄弟だよ。俺が1度も鵺を見ていなかったのはこいつが部屋に引きこもっているから。
「実験動物ってなんなんだよ気になるな。……多分僕にネレイドが見えるのは僕が振動を操ることを得意としているからだと思うよ。ま、父親にも見えていたみたいだけど」
これで最初に俺が聞いた質問の答えが分かった。
據のお父さんはネレイドの存在を知っていたし会話していた。きっとこいつの父親と同一人物だろう。情報把握で確かめろって?いやだよ面倒くさい。
しかしこうなってくると、なんで據にはネレイドが見えないのか不思議なんだが。
情報把握によると、據は魔法全般が使えるみたいだし。
さらに詳しく書いてあるから、一応見ておくか。
ふむふむ、據は別に見えないメイドさんがいることに疑問を持っていないし、見たいとも思っていないので、わざわざ魔法を使ってみることはしない、か。へぇ。
こんなところで出し惜しみをしなくてもいいのにな。
え、俺が言うなって?……何で?
「あと、実験動物ってなんだ」
「あぁ、そんなことはどうでもいいじゃないか」
「良くはないだろ」
「ふむ。まぁ、俺はアリス様と仲がいいからな、珍しい吸血鬼が見つかったと言ってアリス様に渡せばきっと活用してくれるはず」
「全然大丈夫に聞こえないよ。あと、僕が吸血鬼だって知っていたんだね」
そりゃ、俺は馬鹿ではないからな。
あと、吸血鬼は珍しい。ま、真祖が三人しかいない以上しょうがないけどな。