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さて、ネレイド。
何故そこにいる。別に隠れる必要はないと思う。
「……あれ、聖剣……じゃないかしら?」
あ、忘れていた。聖剣ここにあるじゃん。
そういえば■■に渡したまま放置していた。
どうしようか。アリス様に怒られるかもしれない。
……いや、最近は使っていないみたいだし大丈夫か。
この国のお城には聖剣の百分の一の強さを持つ聖剣のレプリカがあるし、アリス様ならそっちを強奪できるだろ多分。
「……私、あれに対してはとても弱いのよ。というか、あれで一回殺された気がするのよね」
「ほう。俺の知り合い、の知り合い?もそれで一回殺されているんだ」
「へー。それはすごいわね。偶然でそんなことあるんだー」
世間話のように言う話ではないと思う。
あと、偶然なわけないだろ。
そもそも殺されたことについて、それが“一回”と言ってしまえるのはおかしい。
「え?聖剣?もしや僕は聖剣で攻撃されてたの?」
「……知らない」
「そっかー」
怒っているな。
まぁ、納得はしたようだし、無視するが。
「そういえば、ドラゴン。ギルドに向かった筈なのになんで屋敷に帰っているんだ?」
そんなこと今まで一度もなかったよな?
後で恐ろしいお仕置きを用意して待っているからな?そうやって最初から言っておいてあったし。
「バリア!そう、このシールドはどんな奴でもやぶることが出来ない」
ドラゴンが投げた筒状の何かに情報把握を使う。これ、ノエルが作ったぶっ壊れバリアじゃないか。
ドラゴンに捨て、いやあげたのは間違いだったか。
しかし、聖剣には効かんな。
「おーい、起きろー」
「……ん?」
■■が目を開けた。
「そ、そう、誰にもやぶることが出来ないのだ……」
なんだか疑心暗鬼になっているようだが、普通の人間ではやぶれないだろうし、もっと自信を持ってもいいと思うぞ。
「ほら、あのバリアをその聖剣で叩き切ってくれ」
「おう?」
ま、■■には例外だがな。
「誰にもやぶることが……え、出来てる?」
出来ているんだな、これが。
「これでこいつが人間ではないことが証明された」
「オレ、一応人間だからな?」
「全身針山になって生きているようなやつを人間とは言わない」
「なんで俺が針山になったことがあるって知っているんだよ!」
「全知だからな!」
意外と全知っていう二つ名を気に入っている俺だった。
本名よりはよっぽどいい。
「……やっぱり、それ聖剣だったんだね」
「はっ!」
據の存在を忘れていた。
怖い。目が笑っていない。怒られて当然のことはしているが……。怖いものは怖い。
仕方がない。
「ドラゴン。ここは任せた」
「え、この状況でか!?」
うむ。よろしく。
「じゃ、行くか」
「ああ」
見捨てるのかよ、ひでぇー。
まあ提案した俺が言えたことでもないか。
そこで意外な人物が現れた。
「止まれ」
「これ止まった方がいいんじゃないのか?」
「聞き間違いだろ、行くか」
この婆さん……ここの家主がそんな殊勝なやつではないことを俺は知っている。
「いや、あのさ?さすがに息子を見捨てるほどあたしもひどくないからね?」
「え……」
意外だ。てっきり笑顔で見捨てると思ってた。
なんということだろう。この婆さん、息子ほったらかしで男遊びに耽っていたんだぞ。
據の夜泣きが激しいころも普通に無視してたのに。
さすがに赤ちゃんが死んじゃう(別に吸血鬼の真祖だから死なない)と慌てたネレイドがミルクをあげてたみたいだが。
よくよく考えたらそこまでして、家人の誰にも気付かれないネレイドすごいな。
「なんでそんな驚いてんのさ。あたしは子供に寿命が途切れるまで生きていてほしんだよ」
あー、據は吸血鬼だから寿命ないな。永遠に子守りだな。ご愁傷様です。まあそんなこと分かってるか。
ちなみにというか、據には特殊な呪いがかかっていて、魔物じゃ攻撃できないようになっているからドラゴンと交戦したところで死にはしない。
じゃあ攻撃できないドラゴンに據の足止めを頼んだ意図はって?
知らぬ、存ぜぬ、……後なんかあったけ?忘れた。
「何故に?」
「あたしが夫に嫌われちまうからだよ!」
うわ、最低ー。というか夫いたのかよ。
浮気はいいのかね、その夫。
さて情報把握。
情報分析中。…完了しました。
夫とは、婆さんを吸血鬼にした吸血鬼の真祖の1人だと思われます。
マジか。なんかどうでもよかった。
追伸
その夫はサラマンダーの爺さんに心酔しています。
これがホントの三角関係ってか?
「そういえばさ三角関係って実際、形にしたら人の形をしているよな」
「人って言うよりは丫じゃね?」
む?
「どうやって発言したんだ?情報把握を使ってもわからない」
「さぁ?なんかいけた」
なんかってなんだなんかって。俺もその技使いたいんだが。
ふむ、ちょっと俺に関する情報をいじってみるか。
「なるほど、三角関係って確かに逆三角形として捉えることもできるよな」
「そうじゃ無いものってあるのか?」
「あるだろ。しかし、丫がありならVとかのほうが近いかもな」
お、丫って言えた。
嬉しいな。これは。
「ほー、言われてみれば確かにVかもしれん」
「だろう?」
↖︎ ↗︎こんな感じだな。
いや、これだと、どっちからも相手にされていない二股か。
思考の中だけとはいえ、こんなこともできるようになったぞ。
やはり物はやりようだな。
「今世界は戦乱の世にあるね」
ドラゴンをどうにかして倒してきたらしき據が言ってきた。
意味わからん。
「いや、喧嘩が激しいときとかに平和だなぁ。って言うじゃん。それに対する皮肉だよ」
「ようはこの世界って平和なんだよな、恐ろしいくらいに」
「そういうことじゃないし」
知ってる。さっきの会話があまりにも平和的というかくだらなかったって言いたいんだろう。
しかしこの世界が平和なのは事実だ。
元の世界よりよっぽど平和だ。
偽魔王が魔物を操って人間を殺していても、何故か昼がなくても、スラム街があっても、一応平和だ。
戦争とかはないし、生まれ変わりの仕組みもしっかりしている。