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「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
「ギルド長?」
はあー。面倒くさいな。
「そういやギルド長の名前ってなんでしたっけ」
受付嬢さん。そりゃひどい。一応あなたの上司だろそいつ。
「ロキ・グレイだ」
「なんで知ってるんですか?好きなんですか?」
恋愛脳か?ここにも幸運の神の下僕がいたのだろうか。
「家の事情を知っているだけで恋していることになるなら、俺って全人類に恋していることになるなー」
「じゃあ、私の名前は?」
「ふむ。セン・レッドスキンズだったか」
「……すごいですね」
「そうだろう」
このスキルを準備したアリス様ってすごいよな、本当に。
「くっ、確かにすごいですけど。その言い方はむかつきますね」
言葉が噛み合っとらんな。俺は別にナルシストってわけじゃあない。すごいのはアリス様なのだ。
「殺す殺す」
「すぴー」
「……さっさとギルド長室に行こう」
「ええ行きましょう。なんか馬鹿らしくなりました」
なぜ■■は寝ているのか。お前今殺気向けられてるんだが。そして受付嬢さんは■■のこと一応好きなんだよな?
「ここです」
「……ここが受付嬢さんの部屋だな」
ギルド内に一室あるってもしかして結構立場が高いのか?……本部から派遣されている監査役なのか。なんで受付もやってるんだ?
「な、なんで分かったのですか?は、もしやあの奇妙な能力を使ったのですね!?」
「受付嬢さんが俺のことをどう思っているかはよおく分かった」
うむ。ひどい。
だがな、これはどう考えたって受付嬢さんの部屋だ。
何この壁一面にはられた■■のアップ写真。いや写真はこの世界にはないんだったか?
ストーカーかよ。
「とりあえずはがしとくわ」
「やめて」
「……」
受付嬢さんのとんでもないところ見ちゃった。
この絵、本人に許可取ってんの?
俺の周りはヤンデレが多いなぁ。アリス様もブラコンこじらせてるし。
まともなやつはいないのか。俺か。
「《ファイアボール》」
「あ、え、ちょっと待って───────」
「なーんてな。というか久しぶりにこの魔法成功したぜ」
「へ?燃えてない。そして爆発してもない」
いやこの魔法別に爆発する魔法じゃないからな?
俺が下手なだけだから。
「この魔法がこれで完成しているというのなら、一体なんだったんですか。ファイアボールが失敗したんじゃないんですか?」
「ヒント・俺は基本、時空属性の魔法しか使えない」
「分かんないですよ。時空属性の魔法ってそんなに情報がないですからね」
ま、そうだろうな。これはファイアボールなんかじゃない。失敗すると爆発するからファイアボールと俺が便宜上つけているだけだ。
アリス様の魔法で、その敬虔なる教徒なども使えると言われている。
アリス様のスタンスもあって、敬虔なる教徒なんてなかなかいないし、その実態は謎につつまれているが。
実際のところは系統外魔法の一種である情報魔法を構成する魔法の1つだ。
「うーん」
「まぁ、情報魔法あたりも調べてみることだな」
「はっ。変たいのおにーさんと、受付じょうさんがいます!あ、それでさっきの魔法って情報魔法の中級、幻をみせる魔法ですよね?なかなか上手いと思います」
うん。なんで知ってるんだよお前。そしてなんでこんなところのいるんだよ。ランというマスターはどうした。
「ふふっ、わたしに分からないことなどないのです。マスターのことはイマイチよくわかりませんが……」
「ちなみに使ったのは聴覚も騙せる上級だから」
「な、なんですって」
あ、なんか悪役令嬢っぽい言い方だな。いいね〜。悪役令嬢とヒロインの組み合わせの百合は世界平和に役立つと言われています。まあ今関係ないけど。
「というか、なんで呼び方がお兄さんからおにーさんに変わっているんだ?」
「今気付きましたよそんなこと。多分あのおねーちゃんに毒されたのだと思うのです」
おねーちゃん?情報把握を使う。
ああ、あのオカマかあ・・・。
ちょっと調べてみよう。
蛇だった。あれ?
ー
ミズガルズ?なんかどっかで聞いたことあるような気がする。
なんだろう。
「なー、ミズガルズって聞いたことないか?」
「パズルで竜のあれで聞いたことあります」
「ほぅ。よく知っているな」
ふむ。カンナちゃんは地球のことを知っているんだな。ランから色々教えられているのかもしれない。
「なんですかそれ」
「さぁ?」「ここにはないものですよ」
そろったのに、そろわなかったな。残念。
ここで揃えばラブコメでよくある、「あ、君たち仲良いね」「「どこが!!」」があったかもしれないのに。非常に残念だ。
現実はそんなもんか。
「まあいいです」
「この壁は全くもってよくはないです」
「うむ。ギルドの幹部クラスの部屋がこれって笑えるよな」
「なんかわたしの思っていることと違うです」
そりゃそうだろうな。俺がわざと変えているのだからな。
実際のところこの壁は結構どうでもいい。
「壁ですか。もうこれ外せないです。少しでもこの顔を壊してしまうかもしれないと思うととてもとても」
ああ、まあそうだろうな。
「この裏にあるもののほうがやばい」
「あらたなる敵がいるのですね!!」
「そんなものないですから!!」
あれ?おっかしいな。しかしあるよな、うむ。
「うわっ、何これ」
「おお、據。いいところに来た」
「というか、よくも那奈くんあんなことをしてくれたよね」
「あんなことってなんでしょうか。詳しく」
「うるさい」
やっぱこいつ、幸運の女神の刺客か?
全てがアホらしくて、目を細めて笑う。
「うわ、それ目開けてるの?」
「開けてるぞ。多分」
開けてなくても情報は分かるしな。とくに問題はない。
「しかし、なんで受け付け嬢さんはあんなに芦野くんに入れ込んでるんですか」
「そんなの簡単です。大好きだからです」
あ、嫌な予感がする。というかこのあと絶対面倒なことが起こる。
俺には分かる。
「なんで大好きなの?」
「だってーあの顔は本当に綺麗じゃないですか。いやーmこtりおろしたらー、面白そうですよね。というか絶対美しいです。わたしの好みgでしyす。確実dせうせですんrね。そして、あの寝顔可愛jです。萌え死にます」
あー。手遅れかー。
■■のことを好きになったやつっていつもこんな感じになっていくんだよな。まあ途中で目が覚めれば俺が元に戻すけど。
にしても受付嬢さんは少し進行が速いな。壁の裏にある存在のせいだろうか。
「こわい。さっきの那奈くんといい勝負だよ」
「主神の友達である俺とこのシステムバグを比べるなよ」
「ほとんど変わんないよ、それ」
「そうですね」
さすがに酷すぎて頬が引き攣る。
あの精神が崩壊したバグと俺の笑顔が変わらないだと。
俺は世界の絶対ルールでバグとは対局なアリス様と友達なのにな。
「で、この裏にあるものって結局なんだったのです?」
「え?ただのケイティだが?」
「そうですか。それなら別に問題ないですね」
「……全然それって大丈夫ではないような」
あー、まぁ今まで何も起こってなかったわけだし、大丈夫じゃないか?
何か起こっても責任は取れないが。
だってアリス様を悲しませたのは元凶はこいつだ。救い出そうなんて考えは最初からない。
ついでに言えば脅威として見た時に、俺にできることは何もないのだ。■■が何かしても俺には関係がない、というか関わってはいけない気がする。
俺だって命が惜しい。