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「據はどこだ?」
《あ、うん。忘れてたよごめん》
「ここで俺はふとこのロリが清水先生だったようなとか意味の分からないことを思ってみるが、隠しているっぽいから言わない」
《完っぺきに声に出てるよ?》
知っている。そしてそれが今俺が言ったことが真実だということも確信している。
だって顔がそのままだ。情報把握を使うまでもない。
《まあ確かに昔は清水って名前だった気もしないこともないけどさ。今はユウカだからね。そこは訂正しておくよ》
「なるほど」
情報把握によると。このユウカはもとは先生だったが、勇者召喚時に、勇者召喚が一人分正常に働かず、時空をずらして飛ぶことになった。別クラスの先生が紛れ込んだ、という状況だったからかもしれない。
先生の願いもあり、世界樹と融合し今に至るとか。
世界樹になった時に名前を変えたらしい。
だから世界樹の前にいるのか。エルフと言えば世界樹。だよな?そもそも世界樹ってなんだよという気もするが。
「うーむ。じゃ、ユウカさんよ。どんなチートを願ったんだ?」
情報把握で分からなくはないけど、あの空間の情報は手に入れるのが面倒だからな。
《チートというか死ぬまでに結婚したいって言ったんだよ。そしたらさ、樹なら一人で結婚成立するし、寿命ものびていいよ。って樹にされたんだよ》
「何それひどい」
そいつ誰だよ。俺と趣味が合いそう。
《確かアリスとか名乗っていたっけなー。結構待たされた後だったけどさ》
アリス様かよ。なら考えることが似てても全くおかしくないじゃないか。
つまらん。
『ゴホッ、ふぅ落ち着いてきた。それで據君の居場所なんだけどね、ユウカの中に放りこんでおいたから』
「世界樹の中って迷宮になってると聞いたんだが?」
『だってそうしないとここの国民に殺されそうだったし』
何があったんだ、據。そしてあの迷宮面倒だし行きたくない。
かくなる上は・・・。
「対象者は全員転移せよ!拒否はゆるさない《強制転移魔法》」
『それ腕もげるやつだったような気がするのだけど、僕の気のせいかね?』
「腕がもげる確率は0.01%。どこかしらの部位が無くなる可能性は20%」
うむ。確率にするとそう大したものでもないな。
「20%って結構やばくないか?」
「大丈夫。髪の毛の先っぽとか爪のいらない部分が破損した場合も含んでいるから」
「全く大丈夫に聞こえないのは何故だろう」
そんなことは知らん。
「……」
あ。據よ。俺かなり弱いから、お亡くなりになってしまう。土の下で寝なくちゃいけなくなってしなうんだ。
転送後、無表情でこちらに手を向ける據が目に入り、俺は死を覚悟した。
「いでよ聖剣我が手に───────」
恐怖のまま俺の知る最強の武器を召喚する。
今代の教皇がいると聞いて良いところを見せたくなったというのもある。
「はい、パス」
「んあ?え、何これ?光ってんだけど」
■■は例にもなく寝ていやがった。
ちょっとこいつを永久に目を覚まさないように永久封印をしようと思ったが、かからないことは分かっている上にこの怒っている據の対処をさせなきゃならん。
「じゃ、よろしく?」
「ラ、ラララララジャー」
「はよ行けや、オラ」
「わ、分かったか分かった。な、落ち着いてくれ、お願いだから」
なんでそんなに怯えているのか聞こうではないか。
『何あの尋常じゃない怯えっぷり』
「ああ、あれね。なんか聖剣持たせて迷宮潜らせてたんだけどどうせ死なねえし、空間魔法で幻を見せてたらなんかな」
『ひどいなあ』
どこが?と俺は分かりきっていることを聞いてみる。
聖剣を見ると怯える覇道皇帝の完成なのだな。魔王っぽくない?まあ本物の魔王は別にいるんだけど。
《私ってばあまりの恐ろしい事実に驚愕するしかないのだよ》
『ユウカちゃんもそう思う?』
《んにゃ?いやそのことじゃないよ。昔からこの二人はこうだったし。いやー、怖いよね。あははっ》
『ちょ、目が笑ってないからね?怖いからね?』
クールな美人と呼ばれていた清水先生も変わったなー。
まあ長い時間が経っているしな。しょうがないか。
《あの子最強のスキルを持っているらしいのに、それを怯えさせるってどういうことかな!?先生に教えてくれないかい?》
「清水先生落ち着いて。もうあなたは清水先生じゃないんだ。ということで俺とはなんら関係がない貴女に語る義理はないっ!」
《なっ》
さて、語るに落ちたな。なんか意味違う気もしないでもないが。
姿も言動も変わっても結局清水先生のままということだ。
ちなみにどうして清水先生に言いたくなかったのかといえば、単純に面倒だからです。
最強のスキルっていうのはこの今代の教皇らしい少年が持つスキルのことだ。なんで停滞したエルフの国なんかにいるのかは知らないが、きちんと主神と会話できるだけの素質はあるらしい。
スキルの内容は使用者の願いを叶えるという漠然とした、しかしだからこそ強力なものだ。
俺なら裏をつけば余裕で乗り切れる。
今回の彼の願いは、俺に怯えないってところか?俺が初代教皇だという情報はもう割れているのかもしれない。まあなんということは無い。これは俺に怯えているわけではないのだ。
漠然としたスキルだからこそ、効果は所持者本人の手に委ねられていて、だからこそ穴はある。
要は数打ちゃ当たる。相手にはそれを言ってないから、対策を練られることもないぜ。
「ゼーゼー。倒してきた」
「良くやった。記念にノエルの幻を見せてやろう」
「ありがとうございますっ!」
《あははっ》
『ユウカちゃん。この辺壊したら、僕による永久凍結が待っているからね?』
《私たち一応友達、なんだよね?》
『うん。もちろん。だから永久って言ったて五百年くらいで溶けるようにしておくよ』
《そんなのは優しさとは言わないよぉぉおおおお》
まあ、仲が良さそうでなにより?
「じゃあ。俺ら帰るから」
《グッバイ》
『また会える日を楽しみにしておく』
「帰還せし《以下略》」
《は?》
『これはそういう呪文なんだよ。初代教皇が作ったらしいけど』
着いた。
據ゲットだぜ。
「はろー」
「こんにちは」
「え、あれ?オレさっきまでエルフの国にいた気がするんだけど」
「エルフの国ですか?おとぎ話の?」
「そうなんだ」
そうなんだよ、■■が迷宮に閉じこもってる間にエルフの国は閉鎖した。外界と関係を持ちたがったエルフは皆外の国に出た。
あの国にいたエルフは全員ハイエルフと呼ばれていて、人間のことなんて何も知らない。まあ今回ほとんどしゃべってないけど。
「あ、そうです。後でギルド長室に来て下さいね?」
「分かった」
受付嬢さんが闇落ちしている、か?不穏な雰囲気を漂わせている。いや、闇落ちというのは正しくないか。闇落ちって元々味方だった人に使うのだった。
もうお世辞を言おうとか思わない。
それにギルド長室の場所知らないんだけどとも言わない。言われなくても分かるし。けして怖いとか思ってない。
「へー、可愛い受付嬢さんといつのまにか仲良くなったんだ。いいな。オレにはそんな機会一度も訪れたことないよ」
空気が凍った。誰かが魔法を使ったのだろうか。
そんなことはないのだと分かる。分かるがこれはどういうことだろうか。■■のあまりの鈍感さに俺は今すごく変な顔をしているだろう。
あのアホ永久に眠らせてやる。
おかげで周りが絶句しているではないか。
ほら、あの机に座っているギルド長。お前をもの凄い形相で睨んでるぞ。
俺は知らんからな。
「へ?どうしたんだ?」
「殺す……絶対、殺す……」
「?」