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「その友達って言うのはだれなんです?」
「間違えてたら、恥ずかしいから言わない」
「いや、那奈君にかぎって間違えることなんてないよ」
「それはフラグとやらではないですか?」
「カンナ、フラグとかクソニートとかどこでそんな言葉を覚えてきたんだ?」
「ロキって人でしたよ」
ああ、ギルド長か。ってなんで王都にいるんだよ。
「……それを聞いたのはいつなんだ?」
「昨日ですよ」
なるほど、入れ違いか?
「そういえば、変たいのお兄さんは私に変たいのお兄さんと呼ばれ続けてもいいのですか?」
「別に構わない」
「えー。お兄さんの名前が聞きたかったのですが」
「那奈だ」
「ナナさんですか。女の子っぽい名前ですね」
「よく言われる。それで、なんでお前はマンドラゴラの花の花粉の効果を知ってたんだ?」
「ああ、それはですね。ギルド長がこれいらないからあげるって干からびたマンドラゴラの花をわたしてきたのです。こんなものいるか!と投げ返したら、ギルド長が目をおさえて痛がったというわけです」
ふむ。おうおうにして、新しい発見はくだらないことで見つかるとは言うが。
……言わなかったかもしれんな。
まあ、そういうこともあるもんだよな。
「それでなんでマンドラゴラの花なんて売ってたんだ?」
「この働かないクソニートのため、お金を少しでもかせごうとする健気な美少女というかた書きほしさです」
「……この宿は?」
「お昼休みだったのです」
なるほど。勤務時間外だったということか。
この子は毒舌なのだと思っていたが、正直なだけかもしれん。
「じゃあ、俺は寝る」
「夕ご飯はいらないんですか?」
「とりあえず、隣の部屋のアホのところに持っていってくれ」
商人がくれたメシのおかげでお腹空いてないんだよな。
あのアホは寝てたし、食べてないからお腹は空いていると思うが。
寝るか。
「マジで寝ましたね。それでマスターはナナさんとお知り合いのようですが、こいつはいったい何者ですか」
「えーと、主神アリス教団創設者じゃなかったかな?」
「なるほどこいつが龍、うわっ」
「それ以上はしゃべるな」
セーフ。俺の黒歴史というか知られたくない称号を據に知られるところだった。
「那奈君起きてたんだね」
「物を投げないでください。私じゃなかったら、当たっていましたよ」
「あれは当たってても問題ないよ。全く痛くないし」
「あんなに速かったのにですか?」
「那奈君攻撃力が低いから」
「そうなのですか。足手まといになるタイプなのですね同情します」
自分が戦闘で役に立つからってそれはひどい。
「那奈君は器用だから、避けるのは上手いんだよ。攻撃力がないだけで」
「ほう、時間かせぎにはなるのですね」
「いや、俺は情報収集専門だから。持久力ないし」
「時間かせぎにもならないのですか」
「お前の敬愛するマスターの唯一の友達を今度紹介するから一回黙ろうか」
俺が戦闘時において役に立たないのは俺が一番分かってるから。
戦えないことはないが終わった後がグロいんだよな。
「そういえばそうでした」
「うん」
「え、同窓会にいなかったしこの世界にはいないんじゃあ……」
いるよ!と言うかお前も同窓会いたのかよ!
◻︎◻︎◻︎
「おい、夕飯があんなにあったのってお前のせいだろ」
知らん。俺は起きたばっかりなんだ。
そしてこのアホはなんでこういうときに限って早起きしてるんだ。
む?もう昼か。
「ギルドに行くか」
「その前に據を起こさなくては」
「あいつまだ寝てるのか?」
「お前がスリープの魔法をかけたせいでな!」
「な、なんでそれを知って……」
おい、演技はやめろよ。お前は俺の情報把握知ってるだろうが。
お前のスリープはマジでやばいんだ。幸運値とその魔力の特性から、魔法無効化もきかない。
おかげで、起こしてくれる人がいなくなって俺は遅くまで寝てしまった。
明日はすぐ寝れなくなってしまうな。
「というか、お前機嫌悪いな」
「寝起きはいつもこうだ。気にするな」
「いや、無茶苦茶怖いんだけど。お前が機嫌悪いときに、迷宮に蹴り落とされたの忘れないからな」
「そうだったか?とりあえず據を起こしに行こう」
據が起きるかどうかはなんとも言えないが。
「おい!據起きろ。今すぐ起きなければ、俺のストレス発散道具として、魔法用サンドバックになってもらう」
「やっぱお前機嫌悪いだろ。テンションもおかしいし。サンドバックって何するのか気になるけど」
「我が空間魔法の前に魔法無効化は意味なし!汝、収縮せよ《収縮魔法》」
この魔法は対象者の周りの空間が、対象者の中心に向かって縮小する魔法だ。
血も飛ばんし、死体の持ち運びが楽だしよく使ってた。
「……これやばい魔法じゃないのか?なんか據の体がバキバキ言ってんだけど。これ最終的に圧縮されて1cm四方の立方体になる魔法じゃないのか?」
「む、起きなかったか。前回の魔法を解除する《解除魔法》」
やはりあのアホの魔法は強力だな。魔力があまりないのが欠点だが。
女将との誤解を解くためにわざわざ貴重なスリープを使うなよ。
「お前は古代魔法以外使えんのか?」
「別に使えるが、途中で集中力が切れて最終的に対象者が……スプラッタになる」
「……仲間を裏切るときと自殺するときには便利だな」
「そうだな」
魔物に使おうにも、原型を留めないくらい粉々になるせいで魔石もなくなってしまうんだよな。かといって、古代魔法を使うと目立つし。
「さて、據も目覚めなかったし、ギルドに行くか。遅くなったけど」
「二つともお前のせいだろ」
「ギルドに行くか」
「歩くの面倒くさい。我と我が認めし仲間よ、今我が定めた土地に転移せよ《転移魔法》」
「ちょ、待った。お前古代魔法も正確に使わねえだろ!」
ついた。ただし、ここで問題がある。ここ三時間前だ。
「すまん。三時間前に戻った」
「ファッキュー!」
「ちょ、俺弱いしお前は攻撃力アップをもらってるしシャレにならん。次やったら、さっきの収縮魔法をかけてやる」
「すみませんでした」
よろしい。まあ俺が悪かったんだけどな。
しかし、仲間に殺されるとかマジでシャレにならんし後悔はしていないが。
「三時間前ってどうするんだよ」
「多分お前がいるからなんにも起こらんだろ。それに転移魔法で場所がズレなかったのは初めてだ。三時間前くらい大丈夫だろ。ひどいときは、1000年くらい余裕でこえたし」
「逆にすげえ。じゃあ依頼達成できたか、聞いてみるか」
■■はアリス様の強制力さえ超えるある種チーターみたいなやつだしな。フラグが立っても叩き折れるのだろう。無自覚で。あれ?じゃあなんでこの勇者召喚で召喚されたんだろう。
……分からん。これに関しては、情報把握の最大出力を使わないと分からなさそうだ。
「依頼達成になりますか?」