弐 表裏一体
"可愛いものと衣装作りが好き"と言う趣味を持った一人の高校生、吉水雪那【よしみずせつな】と雪那の趣味を一番に理解して雪那が心を許せる存在、御影那由多【みかげなゆた】の二人が世の中に未だ蔓延る理不尽極まりない固定観念や見世物を見るような眼差しを向けられながらも、"自分らしく"を貫き学園生活を送るのだが。。。
"私に任せておけ!"と雪那へと言い残した初音店長は...
店の事務所に籠り至る所へ連絡を入れ慌ただしくしていた。
一方その頃。。。
雪那たち喫茶ゆぐどらしるのメイドたちは、明日に控えたファッションショーに向け予行練習をしていた。
「歩き方はこれで良いかな?」
少し自信なさげに言い放ったのはあるひとりのメイドだ。
そのメイドは、まだ喫茶ゆぐどらしるに入ってから二ヶ月目でこの大きなファッションショーというイベントに参加するという状況になっていた。
だが、そんな自信が無さげのメイドに声を掛けた者が居た。
「ゆっくりで大丈夫だよ。明日とは言えど、まだ"あたしたち"には練習できる時間があるのだから焦らずにやろうよ!」
優しく声を掛けたのは、会えるのはファッションショー当日限定という激レア感を持ち合わせたメイド。。。
雪那であった。
雪那は、喫茶ゆぐどらしるからファッションショーに参加するメイドにファッションショーの基礎から教えている為、他のメイドたちからは一目置かれる唯一の存在になっていた。
雪那自身は、独学で学んでいて"どう動けば綺麗に見えるのか。
美しく曲線美を魅せつけると好印象を持たれやすい"か等々を日々追及していた。
雪那を此処までのめり込ませたファッションショーが刻一刻と歩み寄って来た。
そして遂に迎えた明くる日の事...
雪那たちメイドたちが一堂に集まり開催されるファッションショーが今、幕が開けようとしていた。
ファッションショーの司会進行役は、勿論の事伝説を語り継がれるメイド長…
知来初音が行うことに。。。
雪那たち喫茶ゆぐどらしるのメイドはファッションショーの全十幕の内第六幕目に披露することになっていた。
当日は、各店舗のメイド長がくじ引きを行いお披露目の順番を決めるしきたりとなっていた。
初音店長も今回参加する他九店舗のメイド長たちと協力しあみだくじを作り、平等になるよう厳正なる抽選会を経て今此処に当たる。
そして今回参加するメイド総勢七十名は、各店舗ごとに与えられた楽屋でメイクや着替えを済ませて幕が上がるのを今か今かと待っていた。
更にこのファッションショーはネットで生放送されて応援するご主人様、お嬢様方がリアルタイムで観れるよう最大限に配慮がされている。
超大人気イベントだという事であり、当日に万が一の事が起きぬようイベント会場には警備員が大勢配置されるという厳戒態勢で開催されている。
今回は今までに行われたファッションショーの中で最も警備員の配置を行っている異例の状況にあった。
その背景には、雪那たち喫茶ゆぐどらしるのメイドたちへの誹謗中傷をはじめ今回参加するメイドへの出待ち行為等に発展しないように初音店長が手配したモノであった。
まるで...
一国のトップが動くかのように厳戒態勢がとられる中、遂にメイドたちによるファッションショーの幕が開けた。
「さて、今月もこのお時間がやってまいりました。私たちメイドたちによるファッションショーの幕開けです。そして、今回重大発表が有りますので乞うご期待で最後まで楽しんでいってください。今回司会を務めます私、喫茶ゆぐどらしる店長知来初音がお送りします。それではこれよりファッションショーを開催いたします。第一幕の喫茶猫猫・ふぃーばーの登場です。。。」
知来初音の挨拶と共に始まったメイドたちによるファッションショー。
生放送は同接人数十五万人と脅威的な数字をたたき出していた。
コメント欄は爆速で弾幕シューティングをも彷彿とさせる勢いで流れていた。
各店舗持ち時間五分と言う短さでいかに美しさを魅せつけることが大まかなルールとなっていた。
第一幕、第二幕と順調に進み。。。
次は、雪那たち喫茶ゆぐどらしるのメイドたちが披露する番となった。
雪那たちは円陣を組み最高の演出をしようと気合を入れ、深呼吸をして高鳴る鼓動を抑え自然体で臨めるようにしていた。
そして、遂に雪那たち喫茶ゆぐどらしるのメイドたちの出番が迫ってきた。
「それでは、次は喫茶ゆぐどらしるの登場です。」
初音店長の合図と共に幕が開ける。
最初に壇上に登場したのは...御影那由多だ。
那由多は、優しさ溢れる眼差しで歩みだしては、向けられるカメラにはファンサを送り生放送のコメント欄を沸かしていた。
今回初参加のメイドたちも最初は緊張した面持ちではあったが、難なくランウェイをこなしていった。
そして、雪那の番が回ってきた。
那由多は雪那に耳打ちで"ある言葉"言ってポンと軽く雪那の背中を押した。
其れに応えるかの様に一瞬雪那は、那由多の方にアイコンタクトを送り壇上へと歩みを進めた。
壇上の幕が上がり雪那が特設ステージへと歩みだす。
雪那は今まで独学で学んできたものを最大限に発揮させ会場と生放送を盛り上げていく。
カメラが雪那の方へと向けられるとお得意のファンサを送り再び壇上まで戻り幕が閉まる瞬間...
投げキッスを送るとカメラの方に手を振り最後の最後までファンサを欠かすことなく出番を終えたのであった。
第七幕、第八幕と終えていって遂に最後十幕目のお披露目が終わると。。。
壇上には、初音店長の姿があった。
「これにてメイドたちによるファッションショーは終了致します。そして、ここで今回のファッションショーの表彰に移りたいところでは、ありますが・・・私からご報告させていただきます。このメイドたちによるファッションショーは今開催を持って最終回とさせていただきます。理由としてはメイド個人個人に向けた誹謗中傷等によるものであり、個人個人の精神面を考慮し判断を下しました。ファッションショーを楽しみにしていたメイドたちそして、画面の向こう側に居るご主人様、お嬢様方には大変申し訳ございませんがどうかご承知なさいますようお願い申し上げます。そして、今回参加してくれたメイドの皆様全員が今回の優勝者です。」
初音店長からの驚きの言葉に涙するメイドが数名居た。
異例の開催、異例の最終回を迎えたファッションショーは無事何事も無く終えることができた。
生放送の方では、同接三十万人と過去最多を記録した。
ファッションショーを終えた後、楽屋では帰る身支度を進めていた雪那に初音店長が声を掛ける。
「雪那...今ちょっといいか?」
雪那に手招きをして楽屋裏へと連れていく初音店長。
楽屋裏に着くや否や初音店長は雪那にあることを伝えた。
「ファッションショーお疲れさま。この間の件...こちらの方で解決しといたからもう心配しなくてもいいよ。よく耐えたね雪那。もう大丈夫だから」
初音店長からの言葉に堪えていた感情が爆発しポロポロと大粒の涙を流し泣き始める雪那。
そんな雪那をそっと抱きしめる初音店長もポツリと一筋の涙を流した。
こうして、雪那に降りかかっていたものは初音店長によって取り払われたのであった。
遡ることファッションショー開催十二時間前。。。
初音店長は修羅の如く雪那への誹謗中傷をした人物の特定に勤しんでいた。
表の顔はメイド喫茶の店長の知来初音だが...
裏の顔は、"鬼の初音様"と言う異名で知られていた。
独自の情報網を持ち闇に包まれた、人脈の広さでこれまでに雪那の様に誹謗中傷を受けたメイドたちの相談に乗り、誹謗中傷をしたであろう人物の特定をして社会的に抹〇していた。
それが初音店長が"鬼の初音様"と言われる所以になっていたのであった。
怒らせたが最期その人物を見たモノは居ないと恐れられている・・・
ある意味触れてはいけない禁忌の存在なのかもしれない初音店長。
無事ファッションショーを終えたメイドたちは、再びいつも通りの日常に戻りご主人様、お嬢様方を迎え明るく楽しい日々を送っていた。
だがしかし...
雪那と那由多の二人には、またナニかと次なる試練が訪れようとしているのであった。。。
何時になれば、差別や奇怪な眼差しを向けられずに過ごせるのだろうか...否定ばかりの人生じゃ何も楽しくない。何事も快く受け入れられた時こそが。。。人間としての成長なのかもしれない。