弌 都合の良い"標的"
"可愛いものと衣装作りが好き"と言う趣味を持った一人の高校生、吉水雪那【よしみずせつな】と雪那の趣味を一番に理解して雪那が心を許せる存在、御影那由多【みかげなゆた】の二人が世の中に未だ蔓延る理不尽極まりない固定観念や見世物を見るような眼差しを向けられながらも、"自分らしく"を貫き学園生活を送るのだが。。。
生きずらい...なんて生きずらい世の中なんだ。
どうしてこんなにも生きずらい世の中になってしまったんだ。
痛い...物凄く痛いよ。
人々が、向けてくる宇宙人でも見るかのような其の眼差しが…。
腫物や汚物を見るような其の眼差しを向けないで!!
分かってるよ...自分が浮いた存在だってことを…ね。
だけど、自分らしくいたいんだ。
それのなにがいけないことなの?ねぇ教えてよ・・・
理由なしで否定してくるのなら此方だって黙ってはいないよ。
そう心に誓った。あんなことが起きてから僕の人生は百八十度変わってしまった。
吉水 雪那。
それが僕の名前。
雪那ってカッコイイ名前だよねと言われることにも慣れたよ。
だけどね・・・”カッコイイ”っていう言葉の響きより”可愛い”って言葉の響きが好きかな。
これは、ある日の事…。
その日は、幼馴染の御影那由多とふたりで新たな学生生活を送る学び舎...
私立 白百合の森学園へと入学して三ヶ月目にあたる日であった。
「今日で、入学してから三ヶ月目なんだよね。意外と早かったね。雪那。」
まるで思い出話をするかの様に、雪那に話しかけるのは幼馴染の御影那由多。
「確かに早かった。毎日が慌ただしくてホッとすることができたのだって土日祝の学園の休校日くらいだったよね。」
と入学をしてから今日までの忙しさを思い出していた雪那。
御影那由多は、吉水雪那のひとつ隣の家に住んでいる女の子で雪那の趣味は勿論の事、好きなこと好きなものを一番に理解していて雪那が、小さき頃から唯一心を開き許している存在だ。
そして、いつも雪那と一緒に行動しまるで...
恋人とも言わんばかりに仲が良く幾度となく勘違いをされてしまう程であった。
そんな仲良く話すふたりであったが。。。
此処で雪那の運命を変える出来事が起きる。
それは、その日の放課後の事であった。
入学して早三ヶ月が過ぎても雪那は未だに自身の趣味をしたいが為に、放課後に部活動をするという事はせずに那由多と足早に家路に着こうとしていた時であった。
雪那は那由多を迎えに行き校舎の階段を下ろうとしていた矢先に、後ろから声を掛けられ振り向くふたり。
そこには...那由多のクラスメイトの女子が一人
此方に駆け寄ってくる。
「"なゆ"。本気で部活入んないの?」
那由多はクラスメイトの女子に一緒の部活をしようと誘われていたのだが…。
那由多は放課後を雪那との"大切な時間"にすることにしていた為に丁重にクラスメイトの女子に
「ごめんね。ウチやることがあるから部活できないんだよね。誘ってくれたのは嬉しいけど…。本当にごめんね。」
何度も頭を下げながらクラスメイトの女子にお断りの旨を伝えるのだが...
その例の那由多のクラスメイトの女子は何かを察したのか那由多に対して茶々を入れようとする。
「まさか...だけど"なゆ"。その隣に居る人と付き合ってるから部活入れないって感じかな?放課後は彼氏と一緒に青春を謳歌したい的なやつ?」
そう大声で校舎の廊下に響き渡る様に声を発してしまう那由多のクラスメイトの女子はまるで雪那と那由多のふたりを見世物のような扱いで接するが。。。
そこへ那由多が否定を入れるのだが...
全くもって聞いていない様な素振りを見せたかと思うと、根も葉もない噂を大声で叫びながらふたりの元から去っていく那由多のクラスメイトの女子を横目に、那由多が雪那の肩をポンと叩き一言
「帰ろ!折角の"大切な時間"が無くなっちゃうよ。」
那由多のその一言を聞き“コクっ“と雪那は頷き那由多の手を取り階段を降り、急ぎ足で学び舎を後にした。
そして、雪那と那由多のふたりは一旦互いの家に帰り身支度を済ませてとある場所へと向かうのであった。
一方その頃。。。
根も葉もない噂を大声で叫びまわっていた那由多のクラスメイトの女子は校舎の中にある図書室へと向かい徐に、置いてあるパソコンを起動しネット検索を始めてしまう。
「あの二人何処かで見たことあるような気がする。。。まさか...。」
ぼそぼそと独り言を呟きながらパソコンの画面と睨めっこしながら更に手元では、自身のスマホで開いている白百合の森学園の裏サイトの掲示板を見ながらもパソコンの方では"お目当てのモノ"を探していた。
そして、十五分程時間が過ぎた時であった。
"オッと"一言発したかと思うと、眼を右往左往させては不敵な笑みを浮かべては、手元にあるスマホにナニかを目にも止まらぬ速さで打ち込み。
「これで良い。」
そう呟くとスマホで"お目当てのモノ"を写真に撮りパソコンの検索履歴を消し何事もなかったかのようにパソコンを閉じて図書室を後にするのであった。
それと同時刻。。。
雪那と那由多はある場所に到着していた。
『おはようございます。本日もよろしくお願いします。知来店長。』
「もう。この三人だけの時は"初音ちゃん"って読んで良いって言ったよね?ふたりとも。。。」
ふたりの挨拶を聞くと腰に手を当て、頬を膨らませ軽く二人に注意喚起をする知来初音。
『あ、そうでしたね。"初音ちゃん"』と雪那と那由多の二人は言い直すと。。。
二人の其の言葉を待ってました!と言わんばかりに、眼を輝かせる知来初音。
そんな眼を輝かせては雪那と那由多のふたりを指揮する知来初音は、ふたりと歳は五個離れてはいるが...
ふたりにとっての"姉"的存在で、いつもふたりの相談事に乗ってあげたりする優しきお姉さん。そして、雪那と那由多が勤めているメイド喫茶・・・
喫茶ゆぐどらしるの店長をしていて"メイド長初音様"と言う通り名を持つカリスマ店長である。
店長初音ちゃん、雪那と那由多とそして他五人のメイドでこの喫茶ゆぐどらしるを運営している。
そして、雪那はキッチン担当で殆どホールにはいないが月に一度の喫茶ゆぐどらしるでのファッションショーの時にご主人様やお嬢様方の前に出てご奉仕するのだが...
謎に同系列店も参加するメイド人気月刊ランキングに入ってしまうという人気ぶりである。
その為、雪那のチェキ撮影は恐ろしい程に行列ができ他のメイドたちが整理券を配布したり案内誘導しなければいけないというレベルであった。
しかも月に一度のファッションでしかお目にかかれないという激レアぶりに熱愛ファンが多いというのである。
そして明日が月に一度の同系列店のメイドたちも集まり開催されるファッションショーの日であった。
その為前日は猛烈に忙しく店舗自体は休業し衣装作りの最終調整や当日の段取りの確認等で、休む暇もないという忙しさであったが...
「初音店長!少しお時間いいですか…。」
とても気まずそうに、初音店長を呼ぶ雪那。
「ん?どうした?雪那?」
普段と変わらないテンションで雪那の呼びかけに応じるが。。。
初音店長は雪那を見てはいつもと少し雰囲気が違う事に、いち早く気が付き雪那を真剣眼差しで見つめる。
「何か嫌なことあったか?詳しく聞かせて貰えるかな?奥の部屋でね。」
初音店長は、雪那を連れて店長が普段経営関係の資料や機密情報を置いてある部屋に入ると“”ガチャり“”と部屋のカギを閉めてから、雪那に一体何があったかと尋ねる。
「此処なら大丈夫だな…。雪那?一体何があったのかな?なんかさ、いつもと雰囲気が違うからさ...差支えの無い範囲内で教えてはくれないか?」
店長からの思いもよらぬ言葉に少しばかり驚きながらも一呼吸置いて呼吸を落ち着かせてから口を開く雪那。
「実は...此処に来る前に寄ったカフェで、那由多と少しばかりの休憩をしていた時に偶々自分のSNSを見たんですけど…。何者かがウチの誹謗中傷を書き込んでたみたいというのを見てしまい気にはしないようには、していたんですが...余りにも酷い内容で書かれていたんでショックを受けていたんです。」
雪那は、自身に起きたことを事細かに初音店長に話すと初音店長は少し間考えた後、雪那にある言葉を掛けた。
「成程ね…。誹謗中傷か…。わかった、雪那あまり気にはしないでいて。後はあたしの方でどうにかするから、心配しないでね。。。」
初音店長は雪那に慰めの言葉を掛け店長の部屋へと戻っていった。
雪那は、初音店長に言いたいことが言えたことで、少し暗かった雰囲気がいつも通りの明るさに戻り何事もなかったかのように、那由多たちが居る場所へと戻っていった。
その後、那由多と雪那と他のメイドたちは明日行われるファッションショーに向けての最終準備に取り掛かっていたのである。
一方その頃。。。
初音店長は、店長の部屋兼事務室に籠っては何やら色々な場所にスマホで連絡を入れては、目の前にあるパソコンを睨み付けるを繰り返していた。
「雪那に起こった事が事実なら...あたしは黙ってはいない。ウチの大事な仲間に平気で誹謗中傷をするなんて。。。絶対に許せないわ。確実に暴き出しては天罰を与えてあげるわ。覚悟なさい!姿もカタチも判らぬ敵よ!」
パソコンに向かい沸々と湧いてくる怒りを言葉にしてぶつける初音店長。その姿はまるで...
阿修羅をも彷彿させる様な勢いで禍々しい妖気と怒りの業火が今にも溢れ出しそうなくらいに根詰めていたのだ。
果たして、雪那に対して誹謗中傷を書き込んだ奴の正体を突き止めることができて。。。
そして、無事ファッションショーを何事もなく無事に終えることができるのであろうか...。
何時になれば、差別や奇怪な眼差しを向けられずに過ごせるのだろうか...否定ばかりの人生じゃ何も楽しくない。何事も快く受け入れられた時こそが。。。人間としての成長なのかもしれない。