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暗い世界を照らすように淡く、優しく包み込むように暖かな陽光が窓から私たちの子供部屋へ差し込む。
「…ん。もう…朝か。」
2段ベットの上で寝ていた私はだるい身体を起こし、部屋の時計を見る。今日はバイトもないおやすみの日。2度寝には絶好のチャンス。疲れが溜まった身体を休ませ、ゆっくり寝ていたい。もう一度、ベッドに身体を預け瞼を閉じた時。
「叶。いつまで寝てるの!!早く起きなさい!!」
母親の怒鳴る声が扉越しに聞こえる。今日の機嫌はすこぶる悪いらしい。めんどくさい。せっかくの休みなのに。惰眠を貪りたい私の事なんてどうでもいいのか。疲れが溜まった身体を無理やり起こし、急ぎめにリビングに向かう。
「…おはよう。朝から何騒いでるの?」
眠気混じりの声が、リビングに響く。母親は獣のような鋭い目をして、私を睨みつけてきた。
また、やらかした。母親の機嫌がより悪くなった音がした。
「叶。今日、バイトじゃなかった?何いつまで寝てるの?休むの?こんなんでいいの?」
その為だけに起こされた。休みだから寝ているのに。不満の声が私の心の中で渦巻く。表情に出さないように、ぎこちない笑顔の仮面をつけて、答えた。そのはずなのに…。
「今日はお休み貰ったの。シフトある日はカレンダーに書いてるでしょ?」
何気なく言ったつもりだった…不機嫌な思いを出さないように、押し殺して言ったはずだった…
「何その言い方…昨日の言ってくれたっていいじゃない。配慮が足りないのよ。あんたはいつもいつも。」
母親の声が少しづつ遠くなっていく。心が少しずつまた、空っぽになっていく。私の存在価値って……一体……
小言が終わりやっと、ひと段落した。気が落ちていることに気づいてくれた店長が今日と明日、休みをくれたのだ。この家で休まるはずもないが、出かけたりすると文句が飛び交う……あぁ、本当に…私はこの世界に生きてて良いのだろうか?
とりあえず、課題だ。高校の課題を親のいない時にやり、それ以外はスマホをいじる。アニメや動画を見漁り、その世界に入ってしまえば、現実逃避ができるからだ。色あせた世界に光がないように…感動も何も無いが、親と一緒の空間を感じ続けるだけマシなのだ。
豊かだった私の感性はすっかり、錆び付いてしまい氷のように冷たく固く閉ざされてしまった。何を見ても動かされない。昔はこんなヒーローを目指す物語もバリバリの転生して国を作る物語も好きだったのに…今は好きという感情すら分からなくなっていた。色あせてしまった外のポスターのように真っ白になる。何も持っていない…。何も持っていないからこそ、何かを求めることはしなかった。欲しいとすら思えないのだ。手を伸ばせば伸ばすほどに色が消えていく。私は…こんなにも無欲だった…。この世の楽しそうな声が笑顔が…。私の世界から遠のいていく。人じゃなくなる…。それがたまらなく怖くなってしまったのだろう。気が付いたら私は…。
仮面をつけることを躊躇わなくなってしまった。
これが当たり前になってしまった私はもうみんなと同じ世界では息ができないのだ。この仮面は私の酸素ボンベなのだ。これが無いと私はみんなと話すことさえできなくなってしまう。だから…。許してほしい。演じることを…。仮面をつけ、素顔を隠し続けることを…。私は何者なのかと問い続けることも…。どうか…。どうか…。
「見苦しい…。」
ふと一言、お昼過ぎの部屋の空気の中に言葉を吐いた。先ほどまで頭に浮かべていた懺悔の言葉が、綺麗に無くなる。私は今日も私を許せないのだ…。一人きりのこの時間さえ、私は…人形なのかもしれない。どこかに追いやりたい気持ちのまま、スマホに手を伸ばした。




