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あぁ…またこの話。専門学校通いながらどうするのか。今日で何度目だろう。専門学校の受験に合格し、当初は寮から通う予定だった。しかし、貸与型の奨学金を借りてしまったため給付型奨学金とバイトだけでは、経済的に厳しくなってしまったのだ。家から通うことに決め、そのことを伝え続けた。そのはずだ。
「…家から通うよ。奨学金、一括で返済したいから。」
私は顔をあげ、真顔で母親にそう伝える。ぎこちない笑みを浮かべ、本心を隠す。簡単なことだ。
「…そのなんとかなるさ精神やめなさい。受験の合格だって、あなた一人が頑張ったわけじゃないのよ?周りの人が頑張ってくれたから合格出来たの。わかってる?他力本願にする癖、今すぐやめなさい。」
話が変わった。今は、どこから通うの話だったのに…本題はこっちか。めんどくさい。私が何もしてこなかったみたいな言い方だ。何もしてこない人間。そう見えているのだ。
「いつも言ってるでしょ?努力してる人は努力してますとか言わないの。努力は小さなことの積み重ねなの。」
努力か…努力を評価される人はいつも表立って努力を見せられる人だ。私は、それができない。したくないのだ。ただ、それだけのちっぽけな理由で、私は努力を表立ってやることをしたくないのだ。
「…。わかってる。もっと、頑張る。」
閉じていた口を開き、こぼした感情のない声が母の耳に届く。すると、眉間に皺を寄せ、険しい顔をした母は呆れと、癪に触ったような声を突き刺してきた。
「もっと?ちっとも努力してないのに?もっと、頑張る?日本語おかしくない?」
しまった。やってしまった。やはり、黙って頷いておけばよかった。私には、努力が足りない。もっと、努力しないと認めて貰えない…いや、認めて貰えなくてもいいや。誰かに認められるはずないのだから…こんな人間を認めてくれる人なんて、この世に存在しない。私は、それだけ価値のない人間なのだ。
「聞いてるの?返事くらいしなさい!」
徐々に視界が下がり、頭が重くなる。俯きながらコクリと頷けば、母は納得したようなしてないようなそんな態度で、冷たい言葉をこぼす。
「あなたに構ってる暇なんてないのに…受験生はまだ2人もいるのよ?手を焼かせないでちょうだい。」
「はい…ごめんなさい。」
息が詰まるように、心が悲鳴をあげる。視界が滲み、目頭が熱くなる。瞬きすれば、堪えていたものが溢れてしまいそうだ。
私は俯いたまま、物置部屋へ歩いてゆく。部屋に入り、扉に背中を預けて崩れ落ちる。堪えていたものが溢れ、口を両手で覆い、声が漏れでないように抑える。
ひんやりとした埃っぽい空気が荒ぶる心を落ち着かせる。息遣いは荒く、過呼吸のようないくら酸素を吸っても、呼吸が上手くできない。わかっている。精神的に、、、壊れているのだと。