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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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10 まもなく開演、ご着席ください。(4)

 いつぞやのケーキ屋さんに入り、紅茶とお菓子と、あとは最近――私が遠征に行っている間に始まったという軽食(サンドウィッチ)を頼んでから、カフェスペースの空いている席へと向かう。

 一番込み合う時間は過ぎていると言えども、まだまだお昼時。

 店内のカフェスペースはほとんど埋まっていたので、座れる場所が残っていたのは本当にラッキーだった。

 これには私もノラさんも思わずにっこり。


 運ばれてきた注文の品は繊細な花の絵で装飾されたおしゃれなお皿に、これまたおしゃれに盛り付けられていて、テーブルに並ぶところを見るとアフタヌーンティーみたいだなと思う。

 まあ、夕方の十六時頃が目安のアフタヌーンティーにしてはちょっと、いやだいぶ時間は早いんだけどさ。

 そういう細かいことは言いっこなしで、ここはひとつ。



(だって、ずっと憧れてた)



 前世、日本でもひっそりとブームを見せていたアフタヌーンティー。

 格式高いホテルとか、結婚式場とか、そういった場所でも提供されているらしいとSNSで知っていたし、興味もあったけど、行く機会のないまま……あー、いや、違うか。

 行こうと思えば行けたのに、結局行かないまま死んでしまったって言う方が、実態としては正しい気がする。


 そもそも住んでいた場所が田舎の方で、近くにやっている場所がなかったから中々重い腰が上がらなかった……っていうのも、原因のひとつではあるんだけど。

 なんとなく、そういうおしゃれな場に自分が行くのは場違いなような気がしちゃったからなぁ。


 結局のところ、それは人目を気にした私の思い込みで、私が勝手に気後れして、尻込みしていただけなんだろうなってことはわかってる。

 わかってるけど、どうせそんな状態でアフタヌーンティーに挑戦しても心から楽しめなかったに違いないから、まあ、行かなかったのは決して悪い判断ではなかったのかなーなんて。

 ……普段とは違う高級感あふれる場所や、宝石みたいにきらきらしたスイーツ、ああいった格式高い場所じゃないと味わえないようなお高い茶葉の紅茶を楽しめなかったことは、やっぱり心残りではあったけど。


 でも、だからこそ、ウィロウの中で疑似体験できた時はすごく嬉しかった。

 ウィロウが家族や友人たちとアフタヌーンティーを楽しめば、実質、あの子の中にいる私だって同じ体験をしているようなもので。

 こちらでは貴族女性の社交の場の一環といった意味合いが強く、残念ながら現代日本のアフタヌーンティーみたいな気楽さはなかったけど、それでもたぶん、英国のアフタヌーンティーに限りなく近いもののはず(本物を知らないから『同じ』と言い切るのはちょっと怖い)。

 だからきっと、ウィロウの中で一緒に『貴族のアフタヌーンティー』を体験させてもらえたのは、本当に貴重な経験だったんだろうなとしみじみ感じいるわけでして。



(すごかったなぁ、水面下での応戦)



 社交界を上手に渡り歩くために、真面目で緊張感のある情報交換をしつつも、その様子はあくまでもうら若き淑女たちが始終和やかに会話をしているだけ。

 その実、ウィロウと同じテーブルについてころころと可愛らしく笑うご令嬢たちは、その可憐な見た目に反してとっくに社交界と言う女の戦場に立つ強者ばかりだったのだから、現代日本のぬるま湯……まあ貴族社会のあれこれに比べればはるかにぬるま湯で育ってきた私としては、本当に恐れ入った。

 彼女たちの高度なやり取りを見て自分には到底ついていけない、渡り合えないと、ウィロウの中で一人戦慄して震え上がっていたのは私だけの秘密である。


 ああ、だけど――時々、ウィロウもあの子たちも、まるで『貴族の女同士の情報戦なんて知らないわ!』とでも言うように、普通の年頃の女の子のようにはしゃいでおしゃべりすることもあったっけ。

 その時の話題は大抵が王都で流行りのお菓子やおしゃれに関するもので、こういうところは世界が違っても変わらないんだなぁ、なんて。

 普段はツンと澄ましてお高くとまっている子も、周囲の圧に気圧されておどおどびくびくしている子も、みんな同じような表情でかしましくおしゃべりしていた。

 もちろん、かしましく、と言っても貴族の令嬢として恥じない程度のものだけど、家名に泥を塗らぬ淑女たらんと振る舞う彼女らの息抜きの様子は見ていてとても微笑ましかったなと思うし、……正直、ちょっと安心した。

 違う文化・違う社会構造で育っているわけだから当然のこととはいえ、私が知る子どもよりももっとずっと大人びた女の子たちにも、ちゃんと年相応の顔や言動ができるんだな~って具合にさ。

 ……まあ、彼女たちからすれば余計なお世話なんだろうけどね!



「ヴィル? どうしたんだい、急にぼうっとして」

「ううん、なんでも! ただ、ちょっとしたおやつタイムのつもりでいたのに、あんまりにもおしゃれな雰囲気になったからさ。貴族の方々の催すお茶会ってこんな感じなのかなぁって思っただけ!」



 気付かないうちにぼんやりしていたことをノラさんに指摘され、思考を打ち切りなんでもないよと笑う。

 ……せっかく一ヶ月ぶりにノラさんと過ごせる時間なんだ、昔話に思いを馳せるのはここまでにして、このティータイムを満喫しければ!

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