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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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01 坂道転がる赤い靴(1)

 当初二週間の予定で組まれた遠征は延長され、最終的に三週間の旅程になった。


 というのも、どうやら私と(フォン)君の活躍が思った以上にめざましいものだったらしく、「お願いだからもう少し残って!」「せめてあともう一日!」……と言った具合に、現地のギルドや住民たちによる引き止めが発生したから。

 まさかそんな風に引き止められることになるとは思ってもみなかっただけに、私たちはその状況にほとほと困り果て、結局ギルドの責任者同士にやり取りをぶん投げた(勝手に判断してのちのちトラブルになっても困るし……)。

 結果、私たちのギルドから『それじゃあもう一週間だけね』『ウチのクエストもあるからこれ以上の延長は無理だよ』という返答が帰って来たらしく、三週間の旅程になったというわけ。


 もっとも、だからと言ってその期間に何か特別なことをしたかというと、まったくそんなわけはなく。

 わたしたちは、ただただ粛々と新種(仮)のコボルト退治にいそしみながら、現地のギルドの人たち相手に『こうやって立ち回るとやりやすいよ!』みたいな話をしていたくらいのものだった。

 まあ、風君は私以上に人見知りが強いので、ほとんど喋っていたのは私だったんだけどね。

 それでもコボルトの急所を狙うためのポイント解説とか、私にはわからない部分は伝えようと頑張ってくれたので、それで十分。


 ちなみに一通り話し終えたところで、あとは実戦で身体を動かしておぼえてね! と応援した私たちに、一生懸命がんばりますと向こうのギルドの人たちは半泣きだった。

 できるわけないよとか泣き言が聞こえたような気もしたけど、気のせいだよねってことでスルーしておいた。


 ……いやだって、私と風君で町に悪さする新種(仮)のコボルトはあらかた退治しちゃったし、残っているのは元々の生息域にいるコボルトだけだって話だし。

 『大きな群れが町に押し寄せてくる喫緊の危険は避けられた』とギルド側が判断した以上、私たちの手助けはもう要らないと思うんだよね。

 それに、自分たちでもちゃんと対処する経験を積んでもらわないと、また今回みたいな事態が起きた時に被害が大きくなる一方じゃない?

 囮役として白羽の矢が立っただけの私はともかく、対コボルト要員として召喚された風君が次もすぐに来られるとは限らないわけで、なるべく現地のギルドの人たちで対処できるようになってもらわないと、地元の人たちだって困るでしょ。

 緊急の状態を脱した今のうちに、あの人たちには頑張ってもらわないとね。

 私たちだって、物理防御特化な亜種オークの対処を頑張ってるわけだし?


 なお、余談ではあるが、私たちのコボルト退治ルーティンとしてはこんな感じ。


1.まずはコボルトの群れを用意します。

2.私が魔法でターゲット集中状態を付与します。

3.コボルトが私を狙っている隙に、風君が一撃必殺で仕留めます。


 ――とまあ、三分クッキングもかくやのお手軽コボルト退治に私たちはとってもラクラク、現地のギルドの人たちはさめざめ。みたいなね。

 たまたま私たち……というか主に風君の急所を見切る特異な才能と相性が良かったというか、むしろ良すぎただけなんだけど、……たぶんこれもあの人たちが外聞を捨てて泣き縋ってまで私たちを引き止めた理由だったんじゃないかなぁ。

 気持ちはわかるよ?

 自分たちがめちゃくちゃ苦労していることを涼しい顔でさっくりこなす人がいたら、そりゃあ丸投げして任せてしまいたくなるよね。わかるわかる。


 でもまあ、風君が『あのコボルトたちの急所は大体ここかあそこかこのあたりにあるよ(要約)』って教えていたし、今までよりはずっと楽に退治できるようになったはずだからね。

 私たちがいなくなったあとは、皆さんには自分たちの力でどうにかしてもらうってことで。

 二人以上のパーティで挑んで、一体ずつ着実に仕留めるように立ち回ればきっと大丈夫。

 実際、そうした立ち回りであのギルドの人たちにはコボルトに挑んで退治してもらったし、成功体験もしてもらったし、経験さえ積んで自信をつけてもらえれば本当に平気だと思う。

 ……指導の際に多少スパルタになってしまったのは、まあ、私たちなりの愛の鞭ってことで許してほしい。


 ところで――『陽動担当の囮役なら自分にターゲット集中状態を付与すればいいよね!』と、前世のゲームを思い出してそれっぽく魔法で再現をしてみたわけだけど。

 実際、魔法の効果でいっそ上手く行きすぎなくらい囮役として十分な役目を果たして、我ながら風君のサポーターらしくしっかりばっちり働けたと自負しているわけだけど。

 ……あとになって考えた時、ターゲット集中ってなんとなく、どことなく魅了に似たものがあるよなとうっかり気付いてしまったんだよね。


 もちろん、あくまでもターゲット集中は挑発に類するもので、魔法というマジカルでファンタジーな手段を使ってヘイト稼ぎをしているだけ。

 強制的に好意を持たせて『恋は盲目』状態にする魅了とは似て非なる別物なのは、理屈としてちゃんとわかっているけれど……なんと言ったらいいか、こう、『他者の関心を故意に自分に向けさせる』という点では同じなんだよなぁって?

 まあ、愛の反対は無関心と言うし、そう考えれば魅了もターゲット集中も広義で一緒と言えなくもないか。

 ただ、『それを心理的に受け入れる余地があるか?』と言われると話が別なだけで。


 ……帰路の途中でこの類似点に気付いてしまった時の私の心境、わかる?

 思わずチベスナ顔というか、むしろごっそり表情が抜け落ちて、一緒にいた風君はズササッと後ずさるほど驚いていた。


 でも仕方ないよね?

 方向性は違うとはいえ、やっていることはほとんど似たようなものだったわけだからさ。

 なんとも言えない、もやもやした微妙な気持ちになってしまうのもやむをえない話だと思うんだ……。


 とはいえ、悶々と晴れない気分でいたせいか、三週間ぶりのギルドへの帰宅……帰宅? で、ウザ絡みしてくる同士を思わず蹴っ飛ばしてしまったのはさすがに反省。

 遠征先で買い込んだ数種類のソーセージを酒の肴に献上することでお詫びの気持ちを示した……のだが、同士は秒でソーセージを平らげると、食器を厨房のおっちゃんに返すや否やクエスト発注スペースに一目散に向かっていた。

 たぶんというかほぼ確実に、私たちが遠征していた土地に向かうための体のいい方便(クエスト)を探していたんだろうな。

 目を皿にする勢いで貼り紙の内容をさらいながら、肉、肉って呟いてたし。

 ちょっとしたホラーでギルドの職員さんたちとかだいぶ引いてた。


 まーね……どうやら畜産が盛んな土地だったみたいで、肉そのものがとんでもなく美味しいし、肉の脂も上等な脂って感じで全然くどくなくて、私も風君も初めて食べた時はめちゃくちゃ驚いたもん。

 しかもその上、ソーセージにするにあたってハーブとかスパイスとか上手に組み合わせているから、どれだけ食べてもちっとも食べ飽きないんだよね。

 だからこそ私もお土産に選んだし、ソーセージをむさぼり食べる同士相手にあの土地の肉料理の素晴らしさもプレゼンしたんだけどさ。

 滞在中、風君とあれこれ肉料理を食べ比べしていた身なので、同士が「とびきり美味い肉の塊(ステーキ)を食べに行きたい!」って騒ぐ理由もよくわかるし、早速行動に移る気持ちもよくわかるんだ。


 だから……まあ、ウン。

 とりあえず、ちゃんと同士へのお詫びにはなったようで何よりだと思っておこう!


というわけで新章はじまりました。

大事なところなので丁寧に丁寧に…と思った結果、毎日更新は難しそうなのですが、どうぞお付き合いいただけますと幸いです。

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