16 ある雛鳥の話をしよう(1)
「あくまでも私個人の考えなんで、そういう考えもあるんだな、くらいの軽い気持ちで聞いてもらえたらそれで十分なんだけど」
はてさてどこまで踏み込んだものかと考えあぐねながら、ゆっくりと口を開き、初っ端にそう前置いた。
あくまでこれは考えのひとつであって押し付けるつもりはありませんよ、という私の渾身のアピールがイマイチ伝わっていないのか風さんは首を傾げたけど、わかった、と頷いてくれたのでまずは一安心。
……とりあえず、踏み込んだ話をするかどうかについては(心理的に)もうちょっとだけ先延ばしにさせてもらいたい気持ちがあるので、先ほどの相性がいい・悪いの話をあと少しだけ続けさせてもらうことにする。
「パトリシアさんたちが『こう思ってるのかもね』っていう話の続きなんだけどさ。……これからも長く冒険者を続けていくってなれば、当然、私も風さんもランクとか適性に応じて色んな種類のクエストを受注していくわけよ」
「改めて考えると、クエストも中々多様だな。ハンターのようなものかとも思ったが、狩猟や討伐・採集だけでなく、警護や護衛なんかもクエストにはあるんだろう?」
「そうそう。で、そういう時にも、お互い色々『わかってる』相手がいた方が役立つかなって」
「……?」
「おおっとピンと来ていらっしゃらない」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す風さんの反応を見るに、イマイチこちらの言いたいことが伝わっていないらしい、とわかったので、もっと噛み砕いて説明していくことにする。
たとえば、用人警護のクエストを受注したとする。
警護すべき対象は夫婦であり、冒険者は二名かつ男女のペアが必須条件だと依頼主から条件提示をされた時、初対面の相手と組めば私も風さんもどこかしらペアを組んだ相手とぎくしゃくしてしまい、肝心かなめのタイミングで大きなミスをやらかしてしまうかもしれない。
だけど見知った顔、それも異性が苦手だという弱みをちゃんと理解している相手と組むことができたなら、ぎくしゃくしないように事前に手を打っておけるはずだよね? というのがまずひとつ。
私も風さんもなんだかんだ人見知りをするというか、話す相手・信頼を寄せる相手を選んでいる部分があるからこそ、初対面の相手に『異性が苦手です』なんてカミングアウトするのは心理的なハードルがけっこう高い。
だからこそ、こうして打ち明けることができた似た者同士として、ここぞという時にお互いのフォローに入れるんじゃないかなぁと思うのだ。
「なるほどな。二つ目は?」
「身も蓋もないことを言うけど、男避け・女避けの壁が確保できる」
「ああ……」
私――というかウィロウの顔は当然、今更改めて言うことでもないが、最高に整っている完全で究極のキレイ系美少女。
また、風さんも再三言っている通り端正なお顔をお持ちであり、東の国出身だと一目でわかる容姿の物珍しさや、この国の人間にはない魅力がある美男子くん……美青年くん? なのである。
つまり何が言いたいのかと言えば、ウィロウも風さんもこれだけ整った顔を持っているのだから、遅かれ早かれ男女の仲のトラブルに巻き込まれかねないよね? ということ。
今まではギルドのお膝元にある町でぬくぬくして、ご近所さんや仲間たちに守られていたから良いものの、今回のように遠征をするようになればそうもいかないわけで。
その土地その土地の作戦名・ガンガン行こうぜ! な肉食系男子・肉食系女子に絡まれないとも言い切れず、そういった子たちを上手く捌ききる術が私たちにあるのか? と言われるとなんとも難しいところ。
だが、形だけでもパートナーがいるとなれば話は別だ。
相手がいるので、と言えば良識のある人ならすぐ諦めてくれるし、ちょっとしつこいなコイツ……と思う場合でも実際に私たちが一緒にいるところを目の当たりにすればきっと諦めてくれるであろう。
なんせ、ウィロウも風さんも顔面偏差値が非常に高いので、そんじょそこらの人じゃ太刀打ちなんてできっこないのだから。
ちなみに、個人的には『パートナー』という言い方がミソで、この表現なら広義の解釈ができるのがとても便利だと思っている。
私と風さんの実情的には冒険者をしていく上での異性の相棒だけれども(同性の相棒としては私はノラさん、風さんは同士だと勝手に思っている)、何も知らない第三者からすれば人生の伴侶として選ぶ予定の恋人だと解釈されるはずなので。
そう上手くいくわけがないのでは? と疑う人もいるかもしれないが、ナンパを断る時に『もうパートナーがいるので……』って断ったら、文脈的に男女の仲だって判断する人間がほとんどだと思う。
それで諦めてすごすごと引き下がってくれる相手ならよし、駄目そうなら顔面最強の本人登場コンボを決めれば大体勝てる(はず)。
「それでもまだ引き下がられたら?」
「……うーん。その時はさすがに私もお手上げだから、二人で作戦会議かなぁ」
なんせ、前世の私は恋愛偏差値ゼロの喪女なので。
その手の対応をした経験もない以上、あとはもう行き当たりばったりで何とかするしかないのである。




