13 似た者同士の君と僕(3)
……とはいえ、まどろっこしい切り出し方をして、昨日の朝のようになっては本末転倒だ。
せっかく和やかに話せるようになったのだから、変な緊張感を風さんに与えず、私自身も持たず、この雰囲気のまま話したいところ。
であればやはり、迂遠な物言いよりもストレートに話した方が良さそうか。
彼が納得できるだけの理由を提供すれば会話に応じてくれるのはわかったし、遠慮しすぎない方が案外会話も成立するらしい、ということもこの数時間で学習したので、学んだことは積極的に活かしていこうと思う。
なんたって、このクエストの結果が冒険者生命における死活問題になりかねないからね!
と、いうわけで。
「風さん風さん」
「なんだ?」
「そろそろ、ちょっと真面目なお話に入ってもいいですか?」
「……わかった」
あまり気負い過ぎず、なるべくフランクに。
私が余計な緊張感やプレッシャーを風さんに与えないように気を付けながら、とりあえず、まずは私が話をしようと思った理由から改めて伝えておこう。
私は悪いスライ――悪い子じゃないよという先制アピールとも言う。
……まあ、私の名前はウィロウをもじったウィルが由来ではあるが、Evilから取っている部分もあるので悪い子なのは間違いない。
でも、少なくとも『今は』風さんに王太子相手のような悪意を持っているわけじゃないし、人畜無害アピールはやっぱり必要ってことでここはひとつ。
「私が風さんと話をしたい理由については、既に言った通りなんですけど。会話がほぼゼロの状態じゃ、連携必須だって言われたクエストで連携なんてとれるわけがないし、いざという時に意思疎通が上手くいかなくて大怪我をする……とか、そういう状況を避けたいからっていうのが一番です」
「ああ」
「……あと、私たちが出発する時の見送りの人たちの様子からして、私たち二人でクエストをこなすことにめちゃくちゃ心配されてるっぽいじゃないですか」
「……ああ」
「駄々をこねる小さな子どもじゃあるまいし、私たちにそんな心配は必要ありませんって成果で示したいのも理由としてあります」
「それは、まあ、そうだな」
風さんと話しがしたい、と主張する私が新たにふたつめの理由を話したところ、ただでさえ表情の変化がささやかな風さんからスンッと感情が抜け落ちたのが見て取れた。
あまりにも露骨な反応に、ですよね、と思わず半笑いが浮かぶ。
アレは私もちょっとダメージが入ったというか、本気で『そこまで子どもじゃないんですけど!?』って言ってやりたくなった気持ちが、こう……不完全燃焼な感じで一日経った今でも残っている。
とまあ、私でさえしょっぱい気持ちのなったのだから、風さんだって似たような気持ちになっていてもおかしくはない。
……正直、素知らぬ顔をしていた風さんが同じようなことを考えていたのは驚きではあるが。
ふと交わった視線から確かに私と同じ感情をビビビッと感じ取れた以上は、私たちは一時的な協定を結べたと言っても過言ではないだろう。
(頑張って見返してやりましょうね!!)
ふんす、と心の中で意気込むあたりがなんとも子どもなのだけど、心の中の出来事なので当然ながらそれに気付く人もいなければ、それを指摘できるような某コンビニのホットスナックを欲しがる超能力者なんていなかった。
ましてや、私と同様の思考をしていた(らしい)風さんなんて同じ穴の狢と言うもので、期待するだけ無駄である。
かなしいかな、この場に冷静なツッコミは皆無なのだ。
「協力してくれますか」
「俺にできることなら。……ギルドに戻ったあと、アイツにウザ絡みされるのはごめんだからな」
「アイツ?」
「お前がノラのこと、よく話してるだろ」
「ああ……」
唐突に出てきたアイツとは誰だ、と思ったのは一瞬のこと。
すぐにわかりやすく説明してくれた風さんに『ああ、同士か……』と思った気持ちが半分で、もう半分は『ああ、やっぱりウザがられてたのか……』というやるせない感じの切なさだった。
うぉんうぉんと泣いているイマジナリー同士にそっと合掌。
……いや、まあ、たぶんだけど、思春期の子どもが親の干渉を嫌がってつっぱねるものに近いんだとは思う。
ギルドで観察していた限り、風さんが同士に世話を焼かれることを本気で嫌がっている時は少なかったし、むしろ世話を焼かれることにどこか安心しているような、そんな印象さえ受けたことがあったから。
確か、風さんが本気で嫌がっていたのは、酔っぱらった同士が絡み酒を発揮していた時くらいのものだと記憶していて――だからこそ、そんな風さんが(おそらく素面の)同士に絡まれることを危惧し、こうも辟易とする様子を見せるだなんてよっぽどだと思う。
(うーん、過保護と言うかなんというか……)
さては一昨日あたり、私の取扱には注意しろとかなんとか、同士が変なことを風さんに言ったんじゃあるまいな?
ふと脳裏をよぎった可能性についてはまたおいおい――具体的には二週間後にギルドへ戻って同士を見つけた時にでもじっくりオハナシさせてもらうことにして、いよいよ本題に取りかかるべく私は口を開いた。




