12 似た者同士の君と僕(2)
「風さん、紅茶は飲みます?」
「いただこう」
「了解です」
お互いに努力したおかげか、昨日のように会話が途中でシリ切れトンボになることはなく、なんとか無事に食事を終えることができて心底ホッとした。
……実のところ、ここでも詰まったらそれこそ完全に『詰み』なのでは? という危惧が私の中にはあったため、ここまで変な切れ方をせずに会話が続いたのは本当に嬉しい。
ありがとう世界! なんて、思わず変な振り切れ方をするくらいにはテンションもおかしくなっているのだが、さすがにそこは上手く隠し通せていると信じたいところである。
使用した食器類を片付けながら、このあとはおしゃべりの時間だし、とついでにお茶でもどうかと尋ねてみる。
せっかく食事であたたまった身体を冷やしたくないのもあるし、会話中に間を置きたい時とか、そういう時にも役に立つ。
ただ水分補給する……という目的を果たす以外にも色々と役立ってくれるだなんて、なんて素晴らしいんだお茶先輩。
(いつかは緑茶とか玄米茶だとか、昔懐かしのお茶を仕入れてみせるッ……!)
私が脳内で若干暴走しかけている間に是非、と風さんが頷いたので、狂ったテンションを落ち着かせて自分の分と風さんの分のお茶を用意することに。
使い終わった食器や道具を鞄に片付け、食後のティータイム用にカップと、茶葉と、それから――。
「……本当に、」
「?」
「見かけよりずいぶん物が入る鞄なんだな」
ぽつり、と。感心したように呟く風さんの視線は私の手元、鞄と今しがた取り出したばかりのスプーンを見比べていた。
風さんの方から私に話しかけてくれるのはおそらくこれが三回目? くらいだったはず。
まだまだ片手で足りるくらいの回数しかないが、それでも確かな進歩が感じられ、ふふ、と思わず笑みがこぼれ落ちた。
「だから昨日、言ったでしょう?」
「……悪かった。昨日は本当に冗談かと思ったんだ」
「んふ。もう気にしてませんから、風さんもどうぞお気になさらず」
「そんなに色々入っていて重くないのか?」
「うーん、風さんが考えているほど重くないと思いますよ」
実のところ種も仕掛けもあるんですが、まあ、そのあたりは機会があれば。なんて笑えば、風さんは柳眉をぐっと寄せて考え込む様子を見せた。
魔法はそこまで万能じゃなかったはずだし、入れ方の問題か……? という呟きも聞こえて、ひっそりと忍び笑いを漏らしたのはご愛敬。
予想以上に風さんがしっかり仕掛けを推理しようとしているところはなんだか子どもっぽく見えて、そう言えばこの人、ウィロウとひとつしか年が違わなかったはずだよな……と思い出して納得する。
十八も十九も、前世がある私からすれば子どもみたいなものなのだ。
前世の私は二十歳で成人式をした身だし、法改正で十八から成人の扱いをされるようになっていたけれど、お酒も煙草も結局は二十歳からだったから、二十歳未満ってどうにも『子ども』な印象が強い。
まあ、どちらにしても成人したからと言ってすぐに『大人』になれるわけじゃないし、大人と子どもの境目って本当に難しいよなと思う。
もっとも、こちらの世界――それもウィロウが生きてきたような貴族社会だとなおさら、大人になることが求められているから、そんな平和で悠長なことを考えている余裕なんてないのだが。
「どうぞ。さすがにミルクや砂糖の持ち合わせはないので、ストレートですが」
「構わない。……茶にミルクや砂糖を入れる文化にはあまり馴染みがないんだ」
「確かに、東の国ではそのまま飲むのが普通ですよね。……そちらの国に合わせるなら、『粗茶ですが』と言った方が良かったでしょうか?」
「……前々から思っていたんだが、お前はこの国の生まれなのにやけに詳しいな?」
「東の国には興味津々なんですよ。いつか行ってみたいな、と本気で思うくらいに」
「そんなにか?」
「そんなにです」
とりあえず桜や梅や花桃は絶対に見たいし、屋台の食べ歩きとかもしてみたい。
遠巻きでもいいから、あちらの国の王城に相当する宮廷がどんな建物かも見てみたいし、向こうの国の伝統の服装とか、音楽も気になる。
ウィロウが読んでいた本によれば服装はやっぱり大陸のそれに近く、華服……漢服? とかチマチョゴリみたいな雰囲気だったから、なんとなく想像はつくけどやっぱり実物が見てみたいんだよなぁ。
そしてあわよくばウィロウにも着てみてほしい。
私が絶対、あの子に似合う服を選んでみせるので。
――まあ、実際に私が東の国に足を運ぶことができるかどうかは別として、ウィロウにもぜひ一度訪ねてみて欲しい国だというのは本心だ。
日本とは明らかに違う文化を持つ国ではあるが、日本の文化は元々中国をはじめとする大陸の国から伝わってきたものも多いし、共通点を感じられるところも多い。
私のルーツに近しい文化のある国として、あの子にも興味を持ってもらえたら嬉しいな、という気持ちはある。
「風さんのおすすめの場所とか、食べ物とか、そういうのがあればまた教えてくださいね」
「わかった」
ウィロウのことや私自身のことなど、話せない部分は適宜ぼかしつつ、東の国に興味があることを話せばこちらの本気度が伝わったのだろう。
リップサービスなどではない、しっかりとした頷きで応じてくれた風さんにありがとうございますと笑うと、彼もわずかに目元をゆるめて笑う様子が見えた。
(……この様子なら、本題に入っても大丈夫そうだ)
アイスブレイクが上手く行ったことを確信し、さて、ここからどう切り出したものかと私は思考を巡らせる。




