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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
遠征編

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11 似た者同士の君と僕(1)


フォンさん」

「っ、どうした?」

「今日の夜……食事のあとでいいんですが、少しお時間もらえませんか? 少しお話がしたくて」



 焚き木用の枝を山ほど抱えて野営地点に戻った私は、火種の準備をしながらさっそく風さんに声をかけた。


 昨日ギルドを出発してから今の今まで、私は確認の必要なこと以外ら風さんに話しかける機会がなかったので、恐らく彼も驚いたのだろう。

 若干上ずった声で返事をしたあと、話がしたい、と告げた私にぱちりと目を瞬かせた。



「……話、というのは」

「雑談とか、ちょっと真面目な話とか、色々ですかね」

「何故急に?」

「焚き木を集めていた時にふと気が付いたんですが、今のままじゃ、力を合わせてクエストをこなすなんて無理だよなぁと思いまして」

「う」



 へらりと笑いかけながら、コボルト討伐クエストをこなすにあたっての危機感を言葉にすれば、風さんは途端に言葉を詰まらせた。

 ……ふむ、どうやら彼も彼で今の状況がまずい、という自覚はあるらしい。


 いやぁ、良かった良かった。

 その自覚があるならもうひと押し、それで駄目ならさらにひと押しくらいしたら、こちらの要求に応じて会話してくれそうだ。なんて、それはそれは自分に都合のいい予感がするので、実現させるためにもこのまま言葉を続けてしまおうか。

 風さんが早々に腹を括り、変に意固地にならずに折れてくれたらいいのだけど。



「コボルト討伐中のいざという時、きちんと意思疎通ができるように、もうちょっとお互い会話できるレベルまで行く努力はすべきかなーと考えたんですが……風さんはどう思います?」

「…………そうだな」



 とりあえずまずはひと押ししてみるか、とお伺いを立てたところ、風さんはものすごく……ものすごーく『不本意です』、『できれば嫌です』って感じに表情をしかめた。


 それでも、私の提案が自分たちにとって必要なもの、ということはちゃんとわかっているのだろう。

 たっぷり数秒溜め、渋々だけども頷いてくれたので、私は内心ヨシッとガッツポーズしたのだった。


 ……うーん。ここまでがここまでだったから、とりあえず話をするためのスタートラインにこぎつけただけ、とわかっていても、達成感がすさまじいな。


 帰ったらノラさんに褒めてもらおうそうしよう。

 だって今の私、めっちゃ頑張ってると思うので。



「あの、今日も夕飯は私が用意していいですか?」

「ああ」



 ――とはいえ、話をする前にまずは食事である。


 朝や昼は携帯食で簡素にサッと済ませてしまう分、腰を据えてゆっくりできる夜はちゃんとしたものが食べたい。

 でも、二人で行動しているのに自分の分だけ用意するのはさすがに性格が悪いよなぁということで、昨日から夕食は私が準備させてもらっていた(ちなみに昨日の夜はホットサンドを作った)。


 作業に取りかかる前に念のための確認を取れば、風さんはこくんと頷いて、警戒する素振りもなく食事を任せてくれるものだから、こういうところも『女嫌い』からは程遠いんだよな……と思う。

 まあ、任せてもらえるぶんにはいいや、と考えておくことにして、遠征用に購入した鞄から調理器具や食料をポイポイと取り出した。


 どこからどう見ても風さんは東の国出身の人だし、いつだったか、同士も風さんは東の国の出身だぞーと私の予想を裏付けてくれることを言っていたはずなので、せっかくだから食堂のおっちゃんにわけてもらったお米を使っちゃおう。

 東の国の主食は米だから風さんも特に抵抗がないはずだし、何より私が久しぶりにお米を食べたいので。

 生まれ変わっても私は骨――は、あいにく持ち合わせていない精神体みたいなもんだけど、骨の髄まできっちり日本人です。


 鍋に多めの水と細かく刻んだ生姜と味噌を入れて軽く混ぜ、味噌が溶けたところでお米を投入。

 あとは鍋底が焦げつかないように様子見しつつ、火にかけて炊くだけ……と。

 お米が柔らかく煮えたところで仕上げに韮を入れたら、前世で見た映画に出てくる味噌のお粥? 雑炊?が完成する。


 あの映画で生姜が入っていたかまではさすがにおぼえていないけど、お手軽だし、冷え込む夜にはぴったりの身体があったまるレシピだよね。

 今から既にとても楽しみ。



(吹きこぼさないように火加減には気をつけないといけないなぁ……)

「……」

「……どうかしました?」

「いや、……こちらの国で米や味噌を見るとは思っていなかったから驚いただけだ」

「『ヴィルが醤油の使いみちを知ってるなら、ほかのものもきっとわかるはずだ!』って、食堂のおっちゃんが最近、東の国の食品をちょこちょこ仕入れるようになったんですよ。それをちょっと分けてもらって持ってきました」

「なるほど」



 作業の傍ら、興味深そうにこちらを観察する風さんの視線に気付いて声をかけてみた。


 とりあえず食後に話をする……という約束は取り付けたけど、いざその時になって言葉に詰まるようじゃ、かえって困ってしまう。

 だからそれまでに、少しでも話のしやすい空気が作れたらいいなぁと思ってのことだったのだが、……なんだか思ったよりすんなり答えが返ってきたことに驚いた。


 もしかしたら風さんも同じように考えて、会話する努力をしてくれているのかな、とか。

 そんな予想を立てた私は、昨日の二の舞にならないよう細心の注意をはらいながら、風さんとのおしゃべりを続けることにしたのだった。

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