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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
新人編

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23 晩酌は背徳の味とともに(4)


 正直なことを言えば、ウィロウも私も、お酒はあまり好まない方だ。


 というのも、アルコール特有の苦みであったり、ツンとした匂いがどうにも不得手だからである。

 最初は慣れの問題かとも思ったのだが、回数を重ねても一向に改善が見られなかったので、これは単純に好みの問題だなという結論に至った。


 そんなわけで、ウィロウも付き合いがある時以外はお酒を好んで飲まなかったし、前世は前世で飲酒の習慣があまりなかった。

 せいぜい仕事のお付き合いで渋々飲むか、友人や家族との宅飲みでアルコール度数の小さいジュースみたいな缶チューハイを一缶開けるかくらい……だったかな?


 前世もアルコールに強い体質ではあったけれど、体質と嗜好は決してイコールでは繋がらないことをそこで学んだものだ。


 では何故、お酒が好きじゃないのにノラさん提供のお酒を飲むことにしたのか、という話だが、ぶっちゃけただの興味である。


 私は今までずっとウィロウの中でニートしかしてこなかったので、『ウィロウに迷惑をかけないこと』という制限は設けているけれど、お金稼ぎしかり、魔法の練習しかり、今のうちに経験できることはしてみたいなと思っている。

 つまり飲酒もその一環、というわけだ。


 どうせ身体を壊すほど飲めないし、そもそも飲まないし、ウィロウに身体を返してから不都合が生じることではないので飲酒はセーフ。

 犯罪行為はどう考えてもアウト。


 とまあ、要はそんな感じで。


 ほかに理由を挙げるとすれば、ノラさんが飲むお酒がどんなものかな、という好奇心だとか、ノラさんと一回くらい一緒にお酒を飲んでみたいとか、その辺だろうか?

 なんにせよ雑念しかないが、バレなければいいのだよこういうのは!


「わ……これ、すごい飲みやすいね?」

「だろ? だからつい飲みすぎちまうんだけど、美味しいから止まらなくてねぇ」


 グラスを少しだけ傾け、まずはちょっとだけ口に含む。

 空きっ腹でお酒を飲むと酔いやすい、とどこかで聞いたことがあったし、私が苦手なタイプのお酒だったらどうしようかと警戒していたのも一因だ。


 しかし驚いたことに、いざ口をつければこちらが心配したのも馬鹿らしくなるくらい飲みやすい!


 ……たぶん、果実酒なのかな?

 味も香りもフルーティで、アルコールの匂いはほんのりとしか感じられない。


 苦みもちょっとしたアクセントとして感じられる程度にしか残っていないので、うん、これはカパカパ飲んで悪酔いしちゃうやつだな。

 ファジーネーブルとかカシスオレンジとか、そういうのと似た系統な感じがする。


 うーん、こんなお酒がこっちにもあるなんて知らなかったなぁ。


 ウィロウが知ったらすごく喜びそうだ。

 あの子、甘党というか子供舌というか、大人っぽい外向きのキャラに反して食の好みは結構お子ちゃまなところがあるから。


「これ……からあげ、だっけ? フライドチキンとは違うんだよね?」

「まあまあ、とにかく食べてみてよ。めちゃくちゃ美味しいから」


 ノラさんの問いかけにちゃんと答えなかったのは、私自身、フライドチキンと唐揚げの違いがよくわかっていないからだったりする。

 たぶん、衣に味をつけるか、肉に味をつけるかどうかの違いじゃないか、とは思うが……ちゃんと調べたことがないから詳しいことは知らないし、わからない。


 なにぶん、フライドチキンと唐揚げの判別はフィーリングでなんとなくしている人間なので。


 私が唐揚げの山からひょいっとひとつフォークで拾い上げると、ノラさんもひとつ、唐揚げにフォークを突き刺した。

 綺麗にきつね色に揚がった肉の塊をじっと観察したかと思えば、ためらいなくがぶりとかぶりついて──目をまんまるに見開いた。


「うまっ! え、なにこれ、めっちゃ美味しい!」

「んふふ、でしょでしょ! 作るのはかなり久しぶりだけど、わりと自信あった!」


 ノラさんの反応にたまらず頬がゆるみ、にやけてしまった。


 実際、作るのは十八年ぶりくらいで最初は心配だったけれど、やはりよく作っていた得意料理だからだろうか?

 いざ料理を始めればするする手が動いたし、感覚も残っていたので、これならいけると確信したのだ。


 くふくふ笑いながら私も唐揚げをかじると、衣がカリッザクッと音を立てる。

 やわらかい鶏肉からは醤油とにんにく、しょうがの香りがふわっと広がり、じゅわっと肉汁があふれ出した。


 衣に混ぜ込んだ胡椒もピリッとアクセントに効いて、控えめに言ってもめちゃくちゃ美味しい。


 こんな夜遅い時間に食べるのは避けた方が良いカロリー爆弾だとわかっているのだが、だからこそ、空腹と相まっていっそう美味しく感じるのだと思う。

 空腹が最高の調味料だかスパイスだか、どちらだったか忘れてしまったけど、本当にその通りだ。


 十八年ぶりの唐揚げが疲れた身体に染み渡る……美味……語彙が溶ける……。


「ところでノラさん、ドアの向こうからドッタンバッタン騒ぐ音が聞こえるんだけど、一体なにごと?」

「あー、いいよいいよ。ほっときな。しばらくすれば静かになるだろ。……あちっ」

「揚げたてだから肉汁も火傷しそうなくらい熱いよね……あ、このあたりはもう少し冷めてると思うよ」

「ん、はふ、……ありがと! 次はそっちから取るよ」


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