18 ちぐはぐアバンチュール(4)
『魔法は大体なんでも使えるよ!(ただし要練習)』と伝えたところ、見事ノラさんから討伐クエストへの同伴を依頼された。
『本気で王太子から隠れる気あるの?』なんて指摘が聞こえてくるような気もするが、変に隠れよう隠れようと行動するより、世の中ちょっと堂々としすぎるくらいの方が案外見つからないものである。
それがやましいことなんて基本的に何もないぞ、という対外的なアピールになるし、ちょっとぐらいの隠しごとなら誰しもひとつやふたつくらいあるのが世の常。
『まあ、ヴィルにだってちょっとくらい隠したいことがあるよね』と軽く流してもらえるような状態がベストだと思っているので、そこを目指して行動するつもりだ。
というかそもそも、ギルドに冒険者登録の時に魔法が得意ですって自己申告しているから、どうせ隠し立てしたってパトリシアさんから情報が洩れるに決まっている。
そう考えればなおさら、隠そうと考える方がかえって無駄という話で、私は要らぬ労力を割く事態を回避したとも言える。
……なんて、所詮は結果論でしかないのだが。
「ヴィル、準備はいいかい?」
「もちろん!」
「よし、じゃあ行こう」
さて、そろそろ話を本筋に戻すことにして。
楽しいデートの日から二日ほど経過し、今日はノラさんとパーティ……バディ? を組んで討伐クエストに挑む日である。
例年であれば大所帯で挑むところを今年はなんと私とノラさんの二人だけで挑むとあって、パトリシアさんだけでなくナタリーさんからも熱烈に応援されてなんだか気恥ずかしかった。
Aランクの冒険者が受けるクエストでいきなり二人だけ、なんて人数を激減させて大丈夫なのかと不安にもなったが、ノラさん曰く『物理防御が馬鹿みたいに高いけど魔法防御は紙より薄い』らしいので、それなら大丈夫かな? と思っている。
ゲームでもよくいるよね、特定の攻撃属性にだけクッッッソ固いエネミー。
しかもその手のタイプと遭遇した時に限って、弱点属性を突ける仲間とパーティ組んでなかったりするから本当に忌々しい……。
そういう時の対処法は逃げるか持久戦に持ち込むかしかないわけだが、逃走不可能な戦闘だと本当に叫びだしたくなる。
前にも一度、話題に出したことがあったかと思うけど、私はゲームだと根っからのレベルを上げて物理で殴りたい脳筋タイプ。
そこにクリティカル率上昇の武器や防具やアクセサリーがあればなおよし! という人間だった。
残念ながら現実は魔法使いなので、力こそパワー! といった脳筋プレイはできないものの、こちらはこちらで自由度が高くて面白いなと思っているので、今のところ特に不満はない。
人生は勝ったもん勝ち、楽しんだもん勝ちだって前世で読んだ漫画に書いていたが、実際その通りだと思う。
閑話休題。
今日のクエストは町の裏手にある山の麓に移動し、そこで繁殖する魔物の討伐をするのが目的である。
オークたちは秋の収穫期になると人里に降り、人々が汗水たらして丹精込めた穀物や野菜、家畜などを強奪し、それらをしこたまため込んで冬を越すのだとか。
……なんとも悪知恵の働く連中だ、と思う。
確かに、ちまちまと冬越えの支度をするよりは、自分たちより弱い種族が集めたものをかっぱらった方がだんぜん楽だし、なんなら効率が良いまであるかもしれない。
だが、もちろん搾取される人間側にも言い分はある。
それは『人間を侮るなかれ』、ということだ。
もちろん、一般の小市民はオークになんて勝てやしない。
一対多数、それも相手が子供のオークであればなんとか辛勝、くらいが関の山なのが実情である。
しかしあくまで、それは一般市民がオークの相手をするなら、という仮定の話。
人間側には魔物討伐を生業とした冒険者がいて、ある程度の経験を積んだ冒険者であれば、オークと一対一で渡り合うことだってできるのだ。
いくら力が強くたって、オークたちはおつむが弱いからね。騙し討ちが余裕で通じるらしい。
本来のオーク討伐クエストはCランク以上の冒険者限定であって、わざわざAランクのノラさんがわざわざ出張る必要はない。
よほど大きな群れにぶつかるか、あるいは根城を叩くか、そのどちらかなら……というところ。
しかし、私たちが拠点に据えている町の近辺に現れるオークは少し特殊で、物理防御が異様に高い、という特性がある。
ヤツらがオークの中でも変異種なのか、地域性のようなものなのかは不明だが、これこそがクエストのランクを引き上げる要因らしい。
幸い、町に降りてくるのは一匹ずつバラバラに……というパターンが多いので、今までは数の暴力でどうにか対処できていたそうだ。
いくら物理防御が高かろうと、塵も積もれば山となる。つまりはそういうことだ。
しかし今年は、ほぼ物理攻撃全振りのギルドに、魔法が使える私が加入した。
要はオークたちの弱点を容易に突けるようになった、ということで、これで格段にオーク討伐が楽になるだろうとギルド全体から期待されているそうな。
そんなわけで、パトリシアさんとナタリーさんの熱烈な応援の裏にはこんな事情がありました、という非常に回りくどい説明はこのあたりにしよう。
――そろそろ、目的地に着く頃合いだ。




