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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
新人編

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10 はじまりを照らす一番星(5)


 町で昼につまむための携帯食を購入して、それから森に向けて出発した。


 チェスナットの実がなる森は町から道沿いに歩いて一時間ほどの距離にあるらしく、今から向かえば昼前には余裕をもって到着できるはず。

 のどかで牧歌的な風景を楽しみながら、遠足気分で森への道のりを楽しんだ。


 辿り着いた森は木漏れ日の差し込む美しい場所だった。

 残暑にも負けず青々と茂る草木に、そよそよとそよぐ風はまだ夏の香りがする。


 しかしながら、地面には転々と茶色く色づいたいがが落ちていて、秋めく気配を感じさせた。


「こうして直接見ると、やっぱり栗なんだよなぁ……」


 地面に転がるチェスナットの実をそっと持ち上げ、しげしげと観察する。

 ツンツンと周囲を威嚇するようにトゲを生やす毬も、その裂け目から覗く艶々とした実も、どこからどう見ても栗としか思えません本当にありがとうございました。


 ──と、いうことは、前世で地元のおばさまたちから教わった方法が役に立つということで。


「触った感じ、トゲは確かに強度が凄そうだから、靴底の硬度を魔法で補強して……と」


 中心の栗……じゃなかった、チェスナットの実を傷つけないように気を付けながら、物は試しと毬をいてみる。

 イメージとしては、裂け目を真ん中にして、毬の右側は右足で、左側を左足でしっかり踏んで、チェスナットの実から毬をぐ感じ。


 柔らかい靴底のままでこれをやると、間違いなく毬が靴底に刺さって穴を開けてしまうので、そうならないように事前に補強したわけなのだが……前世の私が子どもの頃にやったきりだから、なかなか思うようにいかない。


 ええと、やり方はこれであっているはずだから、体重のかけ方とか足の向きが悪いのかな……。


「あ、できた! やったー!」


 チェスナットの実が毬からコロリとこぼれ落ち、思わず無邪気な歓声を上げてしまった。


 いくつになっても初挑戦が上手くいくのは嬉しいもので、年甲斐もなくはしゃいでしまう。

 ……ソロで受けていて本当に良かった、と胸をなでおろしたのは言うまでもない。


 まるまると肥えたチェスナットの実をつまんで拾い上げ、色々な角度から見てみる。


 形もやっぱり栗に似ているけど、食べてみると味や食感が違ったりするのだろうか?


 もしどちらも栗と同じようなら、栗ご飯を炊いてみたいなぁ。

 栗の下処理の仕方は誰かに教えてもらわないとわからないけど、せっかくだし、日本の秋の味覚をこちらでも楽しみたいところ。


 ……というか、普通に米が食べたいんだよな、私は。

 こちらの世界全体がそうなのか、この国だけがそうなのかは知らないが、生まれ変わってからいまだに米というものを見たことがないのである。


 日本人のソウルフードはいずこ? これも東の国に探しに行けば見つかる?

 元々日本に米を根付かせたのは大陸の人だったらしいし、ワンチャンあったりしない……?


「ま、なんにせよ、元手がいるからしっかり稼がないといけないんですけどねっていう」


 自分で自分に現実を突きつけ、とにかくせっせと身体を動かすことにした。


 両足で毬を剥いて、チェスナットの実を預かってきた袋にぽいぽい放り込む。

 やることと言えばこの単純作業の繰り返しなので、脳死周回余裕ですわ! ……なんつって。


 軽量化の魔法が私にはあるため、荷物が重くなるぶんには特に問題ない。

 このため、今日の私が一番注意すべきなのは、帰路に必要な体力をきちんと確保しておくことだ。


 そんなわけで、黙々とチェスナットの実を集める作業をしながらも、たまに休憩を挟むのを忘れないよう心掛けた。

 あとはお日様がてっぺんに来たら携帯食をかじったり、こまめに水分をとったり、そういったことにもきちんと気を遣う。


 自分の体調の管理に気を配るとか、お日様の位置で時間にあたりをつけるとか、この手の感覚も冒険者にとっては大切なんだってノラさんが言ってた。

 頼りになる先達、それもAランクとしてギルドの看板でもある冒険者からのアドバイスなんだから、ちゃんと大切にしないといけない。


 なお、おやつ代わりに試しに焼いてみたチェスナットの実は、ほっくり優しい甘さだったことをここに報告しておきます。

 ……ええい、やっぱり栗なんじゃないかお前!


前世の記憶はところどころ忘れているし、元々英語に弱かったこともあり、『chestnut』にはまったくもって気付かない主人公です。

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