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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
逃亡編

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27 雪と薔薇の姉妹のような(1)


 国というものには、闇に葬られた歴史や誰もが口を閉ざすことで『なかったこと』にした出来事がつきものである。

 それは我が国とて例外ではなく、今からおよそ数十年前……私がまだ十代の若者であった頃にも、当時を知る皆が閉口するほどおぞましく、陰惨で、いたましい事件が起きたことがあった。






 ことの起こりは『異世界から来た』とのたまう少女が現れたことだ。

 もちろんそんな世迷言は信じられなかったが、あの女が話す空言そらごとを否定するだけの材料が我々にはなく、夢物語のような世界の話に少しずつ心惹かれる者が増え始めた。


 魔獣も魔物もいない、安全で平和で飽食の世界──。

 本当にそんな世界があるなら行ってみたいと、行くことができないならせめて少しでも水準を近づけたいと思うのは、どうしようもない人の性。


 ゆえにあの女は王家の庇護を与えられ、我々があの女の生まれ育った世界の水準に少しでも近づけられるよう、我々の持ちうる知識を学ばせることになったのだ。


 そうすることが一番だと、きっと誰もが考えた。

 ……まだ誰も、あの女の浅ましさを知らなかったから、愚かにも考えてしまったのである。






 王家の庇護にあり、また、国の発展を担う異世界からの客人である以上、アレ・・が関わる相手に貴族が多くなるのは自然の成り行きだった。


 いずれは大々的にお披露目することも当時の王は視野に入れていたようで、礼儀作法を厳しく叩き込まれ、どうにか即席の貴族令嬢モドキは仕上がった。

 その教育のたまものか、当初はそこそこ良い生まれのお嬢さんといった風体で、見目の良さやまだ見ぬ利益を求めてすり寄る者が現れるのも時間の問題だったように思う。


 少しずつ、少しずつ未曽有の大事件の種は蒔かれ、芽吹いていった。

 一人、また一人とあの女に尽くす男が増え、後を絶たなくなったのである。


 目に余る盲目っぷりは、私たち第三者の目には狂気に映った。


 容姿の優れた男たちを侍らせ淫蕩に耽り、金のある醜男ぶおとこたちには貢がせて贅を尽くし、窘められても叱られてもちっとも悪びれずにころころ笑ったかと思えば、無邪気に信奉者に命じて意見した者を排除する──その姿はまさに毒婦と呼ぶにふさわしい。


 国の上層部が気付いた頃には時すでに遅く、次代を担う貴族子息の多くが手玉に取られてしまっていた。


 そんなヤツが先王陛下……当時の王太子殿下とその側近である私に目を付けたのは、当然と言えば当然だった。

 自分で言うのもなんだが、私たちは非常に整った顔立ちをしていたし、次期国王とその右腕たる次期侯爵という権力の頂点に立つことが約束された生まれだったのだから。


 だが、そこでなんの備えも抵抗もしないほど、私たちは愚かではない。

 幼い頃から魔法の才に秀でていた私は、あの女とその取り巻き連中の間に妙な魔力を感じていたため、強力な抗魔のタリスマンを用意してもらったのである。


 果たして対策は功を奏したのか、私も先王陛下も、決してあの毒婦に惑わされることはなかった。

 むしろ私たちを籠絡せしめようと接触してくる毒婦を手玉に取り、内情を探って、事態の究明と解決に奔走したほどだ。


 あの女が男を手玉に取るには魔法を使っていること。


 その魔法は古の呪法と名高き魅了チャームであること。


 そして、これを用いることであの女は次代の王をも掌中に収めようとしていること。


 以上をもってあの毒婦は王族に仇を成す国賊として捕らえられ、私たちの必死の調査は実を結んだ。

 これでもう我が国は安泰だと、元通りになると私たちは安心して笑いあった。






 あの女が散り際に残した毒を少しも感知することなく、無邪気に笑いあって──そのわずか数時間後、私は地獄に突き落とされたのだ。


今日はちょっと短めですが、そのぶんのボリュームは中編・後編に割かれております。


あと数話で逃亡編も完結です。

うーん、あっという間だったなぁ……。

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