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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
逃亡編

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15 因果応報の恋と知れ(2)


 イルゼちゃんに別れの挨拶を告げると同時に、先代様からお借りしたピアスを握り込み、転移魔法を展開した。

 ジェットコースターやエレベーターに乗った時のように、ふ、と身体と内臓の浮く感覚がしたかと思えば、そこは既に寮の自室ではなくなっていた。


 明かりが灯っていないため視界は悪いが、室内には懐かしい調度品が並んでいるのがわかる。

 テーブルには私が握るピアスと対になるものが、ビロードのケースに入れて用意されている。


 ……うん。

 どうやら無事に、先代様のおわす屋敷に転移できたらしい。






 転移魔法は補助具がないとコントロールが難しい、という話を前にしたことがあったと思うので、ここらでもう少しだけ詳しい話をば。


 転移のコントロールがどう難しいのかと言われれば、目的地にピタリと転移しようと思っても、どうしても転移後の着地点の座標が多かれ少なかれズレてしまう……というか。

 転移魔法のコントロールには、そういう感じの難しさがある。


 誤差が少なければ本当にちょっぴりで、二、三歩くらいの距離で済むのだが、大きい時は笑い話で済まないくらい大きいらしい。

 例え話に聞いた過去の事例だと、王都のAという宿屋に向かって転移しようとしたら、同じ王都の中ではあったけれど、Aとは城を挟んだ反対側の端っこに出てしまった……とかなんとか。


 ただでさえ一回の魔力消費量が馬鹿にならないのに、望んだとおりの結果が安定して得られないなんて、とんだ欠陥魔法である。

 有名な某児童書の魔法使いみたいに、杖を一振りしてパパッと転移できたら便利なのに……。


 しかし、そこで登場するのが転移の補助具の存在。


 かつてウィロウが見た文献によれば、補助具というのは大抵、一対からなる何か──イヤリングなどの装飾具を使うことが多いそうだ。


 対になっているものとはつまり、二つでひとつである、ということ。

 それ・・にとっては二つ揃っている状態が完全な状態であり、そう在ることが価値であり、何よりも大きな前提となる。


 この前提──というか、対の概念? を転移に利用し、着地点と術者を繋ぐことで、正確な転移を可能にすることができるのだとか。

 今回の転移で言えば、ピアスがこの補助具にあたり、誤差なく私を先代様の屋敷に引き寄せてくれたわけだ。


 ……迅速に対応してくれた先代様には、本当に頭が上がらないなと思う。


 それにしても──






「このピアス、まだ持っていてくださったんですね」

「大切な孫からの贈り物だからな。当然だとも」


 不意にドアが開き、燭台を片手に、一人の老爺が姿を現した。


 蝋燭の明かりを反射する髪は月明りのように淡い輝きを放つ金色で、やや鋭い眼差しは怜悧な色を宿すグレーの瞳。

 年を感じさせないピンと伸びた背筋と体躯は、今なお彼が完全に現役を退いたわけではないのだと察せられる。


 ……そう、ウィロウと同じ色彩を持つこの御仁こそ、先代イグレシアス侯爵──アドルフ・フォン・イグレシアス様だ。


「すぐに明かりをつけさせる。とはいえ、お前はお忍びの身だから、ささやかなものになるが」

「構いません。お心遣いに感謝いたします」


 先代様に続いて、闇に紛れるように男性が一人、部屋の中に滑り込んできた。

 彼は確か、先代様にとっての腹心とも言える執事で、名前はコード……だったかと思う。


 なにぶん私も顔を見るのは十年弱ぶりなので、少し記憶があやふやなのは許してほしい。


 コードさんはささっと室内の燭台に火を灯し、明かりを確保すると、お茶の支度をして来ますとすぐに出て行ってしまった。


 うーん、無駄がない。

 流石は先代様の腹心、と感心するが、その気持ちは心の片隅に留め置く程度にしておいた。


 今の私が関心を向けるべき相手は彼ではなく、目の前の先代様……もとい、ウィロウのおじいさまなのだから。


「ウィロウ、」

「申し訳ございません、先代様・・・。お話を始める前に、自己紹介をさせていただきたいのですが」

「──、……頼む」


 己のことを『おじいさま』ではなく、『先代様』と呼んだ孫に動揺する気持ちはわかる。

 だが、そちらに気を取られている余裕もないので、さっさと私の・・自己紹介を始めさせてもらうことにした。


「お初にお目にかかります。私はウィロウ・フォン・イグレシアスの一部であって、彼女でないもの。本来であれば表に出てくることはない側面でしたが、今は、深く心に傷を負ったあの子の代わりに、この身体を預かっています」

「……なるほどな。手紙にあった『雰囲気が違う』とは、そういうことか」

「はい。……ウィロウとの再会を願っていた先代様には、誠に申し訳ないのですが」

「否、構わない。……そうなるのも、仕方ないことだ」


 ゆるゆると首を振る先代様は悲しそうで、苦しそうで、でもどこか、諦めているようでもあった。


 ……先代様の理解と許容の速さには驚きつつも、ありがたく思う。それは本当だ。

 だって、ここで『そんなわけあるか!』ってごねられようものなら、まったく話が進まなくなるし、頼るのも面倒くさくなるから。


 話が進まないよりは話が早い方が助かるに決まっている。

 私……というかウィロウには、あまり悠長なことをしている時間の余裕がないので。


 ──だけどさァ、それとこれとは話が違うと思うんだよね?


「先代様」

「……なんだね?」

「私について迅速なご理解、ご納得いただけたのは非常に助かります。──でも、勝手にウィロウのことを諦めるのはやめてくれませんか」

「!」


逃亡編も折り返し地点まで辿り着きました。わーい!

「なんで魅了に気付けたの?」等々おじいちゃんについて気になることもあるかと思いますが、そちらはまたおいおい出す予定なので、その時をお待ちくださいね。


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