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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
逃亡編

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14 因果応報の恋と知れ(1)


 先代様からのお返事が届いたのは、手紙を送った翌朝のことだった。


 未明とも言える時間にコンコン、と窓を叩く音で目が覚め、何事かと様子見に起きれば、小さなルリビタキがこちらを覗き込んでいる。


 ほのかに感じる先代様の気配にもしや、と思い鍵を開けると、ちょこちょこ跳ねながら部屋に入り込んできて。

 それからすぐにルリビタキの姿はするすると解け、あとに残ったのは青い石を使った小さなピアス。


 私が手紙を送ったのと同じ方法で、先代様もピアスを送ってくれたのだろう。

 要求通りのものが届いたことにホッと安堵し、あとは必要な根回しさえ済ませれば逃げられる状況に、改めて気を引き締めた。





 逃げ出すにはやはり、たくさんの人が混乱している状況が適しているだろうということで、逃亡決行の日には小火騒ぎを起こすことにした。


 いやほら、皆が皆、パニック状態に陥っていれば、それだけ失踪に気付かれるのも遅くなるかなと。 

 しかも小火騒ぎに乗じていなくなれば、私が何者かに誘拐されたんじゃないか、と誰もが事件性を疑うと思うはず。


 少なくとも、現状、私が逃げ出す理由に心当たりがあるのは王太子とイルゼちゃんと先代様の三人だけで、うち二人は私の協力者(仮)。

 残る一人は私が逃げ出す原因を作った張本人なのだから、ウィロウは誘拐されたのではなく自発的に逃げ出したんだ~なんて言えっこないだろう。


 もし仮に王太子がそんなことを言い出したら、『いきなり何を言い出してんだコイツ?』と訝しむか、『いやいや王太子殿下の婚約者ともあろう令嬢がそんなことするわけないでしょう!』と一笑いっしょうされるかのどちらかが関の山。

 いくら信頼が厚い完全無欠の王太子サマ(笑)と言えども、現実的じゃない話を信じてもらえるかどうかは別の話ということだ。






 先代様からピアスが届いた日は根回し用のお手紙をしたためることに勤しみ、更にその翌日の日中は体力回復に努めた。

 私がお手紙を書く相手なんてせいぜいアレクシス殿下とイルゼちゃんくらいのものだが、あれこれ考えて思いついたことを片っ端から書いていたせいだろう、最終的には結構な文章量になってしまった。


 最初はアレクシス殿下にだけ宛てて書くつもりだったのだが、なんか、うん、答え合わせと称してイルゼちゃんに色々と話を聞いたら、思った以上に懐かれてしまったようで……。

 そんな状態で、元々の小動物っぽさと相まって子犬に懐かれてるような錯覚まで起きたら、もう駄目だった。


 私がいなくなった後のイルゼちゃんのことが気になって、ふと我に返った時には徒然にお手紙を書き連ねていたのである。

 我ながらびっくりした。


 どうせ紙だし、燃やして消し炭にしちゃえばいいか、なんて考えたりもした。

 だが、そこでふと、アレクシス殿下の顔が思い浮かんだのだ。


 私の目から見て、アレクシス殿下とイルゼちゃんは間違いなく相思相愛。

 ということは、ウィロウが逃げたことで王太子がイルゼちゃんに八つ当たりしようものなら、逆恨みされる可能性もあるのでは?


 ……それはまずい。非常にまずい。


 だったらいっそ、イルゼちゃん宛てのお手紙をちゃんと書きあげ、アレクシス殿下にも逃げ出すことへの謝罪と注意喚起をしておいた方が、まだかろうじてイメージが悪くならない……ような気がする。

 そんな保身的な考えに基づき、アレクシス殿下とイルゼちゃん宛てのお手紙をひたすら綴り、ようやく必要な下準備が終了。


 ちなみに、内容的にはざっくりわけて四つほど。


『王太子に魅了の魔法を使われてたけど、イルゼちゃんのお陰で解放されました。また使われるのが怖いから逃げます。ごめんなさい』


『ちなみに王太子が魅了の魔法を使ってきた理由については、こんな風に考えてます。これで大体あってると思います』


『私が逃げたあとの王太子の動きについて予想しておくんで、上手く役立てて権威を失墜させてもらえると嬉しいです。私としては、アレクシス殿下にお世継ぎになってもらえたらと思います。心身の安全を確保したいし、魅了の魔法を使うような人間に国政は任せられないので』


『イルゼちゃんには、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません。お詫びと言えるほどのものではありませんが、懸念事項をいくつかお伝えしますので、こちらもお役に立てば幸いです』


 ……実際のお手紙にはもうちょっと、いやかなり細かくあれこれ書いているが、アレクシス殿下なら役立ててくれるはず。

 いざとなればイルゼちゃんがフォローしてくれると思うし、片恋相手の女の子の身に危機が迫っているともなれば、アレクシス殿下だって動くだろう。たぶん。


 お手紙の内容がもりだくさんだけど、二人を思って書いたことに変わりはないから、ちゃんと読んでくれよな!






 手紙を渡す方法は後日、適当な場所でイルゼちゃん宛てにポストに投函し、彼女を経由してアレクシス殿下に……という手段を考えていた。


 だが、小火騒動のさなかにイルゼちゃんが見送りに現れる、というまさかの展開。


 正直めちゃくちゃ驚いたし、『いくら火事に発展しないように細工してるとはいえ、何してんのこの子?』とも思ったが──ウィロウの無事を、幸福を祈られて、そんな考えはすべてふっ飛んでしまった。


 ああ、この子は本当に、ウィロウの身を案じてくれているんだなと。

 ようやく私はそれを理解して、胸があたたかいような、苦しいような、不思議な感覚に襲われた。


 ──いつか、イルゼちゃんとウィロウを会わせてあげたいな。


 ふと、そんなことを考えた。


イルゼ訪問後~学園脱出までの動きをダイジェストでお送りしました。


気付かぬうちに累計pv10万とユニークアクセス1万を超えていたり、ブクマ数が1000件を超えていたりと、びっくり嬉しいの連続です。いつも閲覧・応援ありがとうございます。

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