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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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42 ネバーエンド・アフターオール(3)


「……はー、つっかれた」



 事情聴取、もとい口止めが終わって解放される頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。


 出かけたのが朝で、昼前にはヘンリーに見つかり、その後のゴタゴタに巻き込まれてしまったから……午後の時間をまるまる無駄にしてしまったことになるわけで。

 ヘンリー関係のもろもろが片付いて、ウィロウの心理的な安全性を確保できたのは何にも勝る吉事ではあるのだけど、それはそれとしてちょっと落ち込んだ。


 私たちの時間をヘンリーに取られてしまったのが癪に障る、というのもあるし、せっかくの休暇を潰されたことが気に入らないのもあるし、何より結局、風君を巻き込んでしまったこと。


 私と一緒にいたことで、ヘンリーには早々に目をつけられていたし、本人も巻き込まれる気満々でいたから、こうなるのは必然だったかもしれない。

 だけどやっぱり、こちらの事情とはまるで無関係だった風君を巻き込んでしまったことを、仕方のないことだったとは考えられないから。巻き込まれに来てくれたことを、ありがたいと同時に、申し訳ないとも思った。



(本当、よく見つけてくれたよなぁ)



 窒息で意識が飛びかけていたから、あの瞬間のことは、はっきり思い出せない。

 ちゃんとおぼえているのは、大きい音が聞こえて、ヘンリーが吹き飛ばされて、風君が抱き起してくれた……くらいのもの。


 先代様やアレクシスの姿も見かけた気がするから、あの二人が指揮を執ってヘンリーをとっ捕まえてくれたんだろうな、とは予想ができるけど。


 ――あの場において、私とあの二人は無関係だったから。

 真っ先に私のところまで駆けつけて、安否の確認をしてくれた風君にこそ、一番の安心を感じていた。


 じゃなきゃきっと、どんな手を使ってでもあの場で意識を手放すような真似はしなかったんじゃないかな。

 少なくとも、ヘンリーが連れて行かれて、私の視界に入る場所からいなくなるまでは。



(お礼と……あとはお詫びもか。考えておかないと)



 マ、具体的な内容はあとで考えて詰めるとして。

 まずは『ありがとう』だけでも伝えておかないと――



「大丈夫か? 宿まで背負うか?」

「だからなんでそう過保護になっちゃったの??」



 ……そう思った矢先にこれだから、喉元まで出かかっていた言葉が引っ込んでしまった。

 足元にまとわりつく子犬のようにそわそわと、気遣わしげにこちらを窺ってくる風君には未だ慣れない。


 医者たちは私たちの関係を恋人同士と誤解していたので、微笑ましげと言うか、生温かい目で風君のことを見ているだけだったけど。実際にはそんな事実はどこにもないわけで、私としては困惑しかないのが現状である。


 ……そりゃあまあ、目を覚ました時から体調を気遣ってくれているのはちゃんとありがたいと思っているんですけどね、そういう気遣いの方向性はいらないから背負おうとしないでもらっていいですか??



「お前は薬を使われているんだぞ。本当なら今日はもう安静にしていて欲しいし、問答無用で宿まで抱えて帰りたいくらいなんだが」

「こわ」



 しかし困ったことに、当の風君はちっとも引いてくれそうにない。

 というかむしろ、過去一レベルでの押しの強さを見せてくるのだから困りものである。

 思わず腰が引けたのは言うまでもないが、ほんとごめんちょっと今は他人に触られるのぞわぞわしちゃって駄目なので本当にやめてくださいね!


 そんな気持ちがドン引きの声にも表れていたのか、風君は少し冷静さを取り戻し、普段より詰め気味だった距離感を戻してくれた。ああよかった……。



「本当に大丈夫だから。疲れてるのは精神的な話であって、身体は健康そのものだし。医者のお墨付きももらってたでしょ」

「……」

「気遣ってくれてありがとね。その気持ちだけ受け取っておくよ」

「行動も受け取ってくれ」

「それはやだ」



 Noと言っても、風君からは先ほどまでのような圧を感じなくなった。

 そのことにあからさまに胸を撫でおろすようなことはしないけど、それでもやっぱり、ホッとしてしまうものはあって。素直に気遣いを受け取れないことが申し訳ないし、心苦しい。


 知らず知らず爪の食い込んでいた手のひらを無言で治して、これ以上、風君に余計な気を遣わせないように笑顔を浮かべる。



「遅くなっちゃったけど、改めて駆けつけてくれてありがとう」

「借りていたイヤリングのおかげだ。ヴィルに大きな怪我がなくてよかった」

「おかげさまでね!」


 早く帰ろ、ノラさんたちが宿で待ってるよ。どうだろうな、まだ潰れたままかもしれないぞ。あ、ありうる……。そんな普段通りのおしゃべりに興じながら、私たちは帰路に着く。


 ……道中、他人にぶつかりそうになるたび、風君が庇ってくれたけど。

 その気遣いは、ありがたく受け取らせてもらうことにした。

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