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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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41 ネバーエンド・アフターオール(2)


 私の意識に魅了(チャーム)を使われた後遺症がないことと、身体の方に大きな異常がないことの確認が済んだあと、医者からは治療した外傷の話を聞かせてもらった。


 内容としては、大きくわけてふたつ。


 まずひとつは、小さな擦り傷や切り傷の話で、こちらについてはそう日を置かず治る程度の傷だろうとのこと。

 もし化膿や炎症を起こすようであれば、王都にいる間は自分が面倒を見るけれど、もし王都から出るならかかりつけ医に相談するようにとも言われた。

 王太子が睡眠薬以外に薬を使っていた痕跡は今のところないけれど、万が一のことがあるから、と。


 私としても、ウィロウの身体にこれ以上の傷をつけたくなかったので、医者の言葉には素直に頷いておいた。

 何故かついでに風君まで言い含められていたのはちょっと謎だけど、まあ、私に自覚がない場合も……たぶんないとは思うけど、可能性としては捨てきれないし。

 情報共有は大事ってことだよ、きっと。


 それからふたつめは、正直こっちの方が大事(おおごと)なんだけど、首にくっきりと絞められた痣が残ってしまったこと。

 つまり今、(ウィロウ)の首にヘンリーの手の痕がついている、ということで――ぶっちゃけ目が覚めてから一番気持ち悪くなったのはこの時だったりする。


 実際、私の顔色はひどい有様だったらしく、風君からしきりに「大丈夫か?」「横になった方がいい」……なんて言われたし、医者からも「気分が悪いようなら無理せず横になりなさい」と言われてしまった。

 といっても、気分が悪くなった原因についてはどうしようもないし、こちらも消えるまで数日はかかるとの話で。痣が消えるまではこの気分の悪さと付き合うことになるだろうな、と遠い目をしたくなった。



(せめてお医者さんに見られてなければ、魔法で今すぐ消せたんだけどさー……)



 たぶん、回復魔法を使ってしまえば、この痣は一発で消してしまえると思う。

 でも、ただでさえ魔法の使い手が少なくなりつつある世の中で、回復魔法がバカスカ使えるなんてお城の人間にバレたら面倒事にしかならないじゃない?

 こちとらただでさえ面倒な身の上をしているんだから、これ以上の面倒はごめんこうむりたいわけですよ。


 ……つまりね、何が言いたいかって言うと、お城の息がかかった医者から「痣の経過を見たいから王都を出る前にもう一度診せに来ること」なーんて言われちゃったら、おいそれと痣を消せないんですね。

 治療費とかもろもろはお城が持ってくれるらしいけど、それはそれとして私の精神的負荷~! ……とかなんとか。


 ちょっとテンションがおかしいのは、ヘンリーという最大の危機が去ったことにより神経が昂っているからってことにしておいて欲しい。事実だし。


 あ、ちなみに首の痣についてだけど、ハイネックのインナーのおかげでほとんど隠れるものの、完全には隠せないからってことで包帯をぐるっと巻かれている状態だったりする。

 これはこれで、ゆるく? うっすら? 首を絞められているような圧迫感があって、なんとなーく息苦しさを感じるから嫌なんだけど。背に腹は代えられないよねってことで、大人しく我慢することにしている。


 いやだって、医者との話が終わって診療所を出れば、今度はノラさんとか同士とも顔を合わせるわけじゃん?

 ノラさんにはめちゃくちゃ可愛がってもらっている自覚も自負もあるし、同士もなんだかんだ色々と気にかけてくれてるのは知ってるからさ。

 首を絞められた痕なんて見せるのは……さすがにちょっと、ねぇ?

 私が少し息苦しさを我慢するだけでグロテスクなものを見せずに済むんなら、そりゃあ我慢しますよねって話ですよ。


 ……風君の反応を見れば、あの二人の反応もだいたい予想はできるから。

 今回の件に箝口令が敷かれる以上、なるべくかける心配は減らしたいところだ。


 そう。怪我に関する話のあと、お城の衛兵のなかでもかなり偉い人から事情聴取が行われた際に、私たちははっきり言われたのだ。

 王太子が起こした不祥事については箝口令を敷くので、決して、誰にも口外してはいけない、と。


 つまりはまあ、要するに王家からの命令ってことなんだけど。

 思えば、生まれ変わってから初めて――私が身体の主導権を得てから初めて命令を受けたかもしれない。


 ……なんて、そんな場違いの感動をおぼえる私とは対照的に、風君は明らかにキレていた。

 もし風君に魔力があったらすんごい『威圧』になってただろうな、と思うくらいには怒気がバチバチで。彼がこんなに怒っているところを見たのは初めてだから、正直、かなり驚いた。


 もちろん、お(かみ)に楯突いたらやばいことにしかならないので、すぐに宥めてとりなしておいたけど。

 向こうも向こうでこちらの、というか風君の怒りがもっともな反応だと理解を示してくれたのも大きかった。

 おかげさまでたいしたトラブルにはならず、ことを公にできない代わりに処罰はきっちり行われることや、ヘンリーがもう表舞台に立つことはない、というこれから公になる情報をこっそり教えてもらうことで決着……まあ、一応の決着にはなったのかなぁという感じ。


 そうそう、ついでと言ってはなんだけど、今回の慰謝料ってことで後日お城からギルドを通じて()()()()の支払いもあるらしい。

 お金はないよりあった方がいいよね、話が片付くのも早いし――そんな風に考えていた私の隣では、風君が『つまりは金で黙らせようってことか?(意訳)』とまた偉い人相手にキレそうになっていて(ほとんどキレてて)。

 せっかく丸く収まりそうになっていたのにことを荒立たせないでくれ! と慌てて宥めすかしたんだけど、……そこはまあ、完全な余談ってことで。ね!


 ところで風君、きみ、いつからそんなに血気盛んになっちゃったの……?

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