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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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36 そして魔女はわらう(5)

「お前、どの口でウィロウを『返せ』なんて、この私に言ってんの?」

「っ!?」



 やられたからにはやり返したいし、やり返すなら倍返しが鉄則。

 ……とまではさすがに言うつもりはないけれど、私だって許せること、許せないことはあるわけで。


 今回の件、こと、ウィロウをさんざっぱら傷つけた挙句まったく反省した素振りを見せていない点については、言うまでもなく私が許せないことのラインをゆうに超えている。


 あまつさえ、自分のしたことを棚に上げて私を責めるとか――ねえ?

 そんなの、胸倉を掴み返されても文句は言えないし、絶対に言わせない。



(私だって言いたいことはあるぞこの野郎)



 むしろ私からすれば、王太子には言いたいことしかないわけで。

 女から胸倉を掴まれて凄まれてビビってるところ申し訳ないけど、遠慮はしませんので悪しからず。



「誰のせいで私が表に出てくることになったと思ってるんだよ。誰のせいであの子の心が、魂が壊れかけて、()()()()()になったと思ってんの?」

「は、」

「私はずっとあの子の中にいた。本当なら私はとっくに溶けて、あの子の一部になって消えるはずだった。それを邪魔したのはお前だろ? お前があの子に魅了の魔法なんて使わなければ、こんなことにはなってないんだよ」

「……き、みが、ずっと、ウィロウの中に……?」



 きつく責められて動揺したのか、私の胸倉を掴んでいた手がぶるぶると震えながら離れ、重力に従ってだらんと落ちる。


 上ずった声のひとりごと。

 忙しなく動き回る視線。

 ろくろを回すようにゆらゆら揺れる手。


 明らかに平静を欠いているのが見て取れるけれど、そんなに私の言っていることが信じられないのだろうか?



(まあ、信じられないだろうな)



 私だって当事者じゃなきゃ、すぐには信じられないだろうと思うし。


 ……とはいえすぐには信じられないだけで、オタク脳は間違いなくそわっとしてしまうだろうし、本当だったら本当だったで『初めて二重人格の人に会った!』と内心はしゃいでしまう気しかしないんだけど。

 隙あらば質問攻めしようとする予感しかないんだけど。

 まったく、これだからオタクってヤツは……(クソデカため息)。


 ――閑話休題(それはさておき)



「あの子の中でずっと見ていたから、私だって何も知らないわけじゃない。君が人一倍、色々なことに気付きやすくて傷つきやすくて、だからこそ人付き合いに向いていないも知っているし、そういう自分を必死に取り繕って周囲の期待に応えようとしてることもまあ知ってる」

「……」

「だからその点は同情するよ。自分にとことん向いてないことをこなさなきゃいけないしんどさとか、いき苦しさみたいなものは、私も身に覚えがあるし。君があの子にやったことは許さないし許せないけど、その点だけは理解する。楽な方に逃げたくなる気持ちも、何かに縋りたくなる気持ちもわかる」

「……ぁ、…………?」

「まあ、そこで魅了(チャーム)なんてどう考えてもヤバい方法に手を出す思考までは理解できないけど。だって君、そんなものを使ったらどう考えても依存するタイプじゃん。危ないお薬と同等か、あるいはそれ以上の中毒性にやられてずぶずぶ嵌るタイプだって、頭がいい君なら自分でも理解できてたはずでしょ」

「……ら……、……ぅ……?」

魅了(チャーム)なんかに手を出すくらいなら、誰かに頼るべきだった。相談すべきだった。プライドが高くてええかっこしいなのは、まあ、王太子としてある程度は許容するけどさ。せめてあの子やアレクシス殿下に相談して、自分にかかる負担が軽くなるように動くべきだった。それができないなら、いっそのこと――」

「ねぇ、君。名前はなんていうの?」

「は?」

「君の名前。教えて」

「こわ」



Q.ずっと挙動不審だった相手が突然ガンギマッた目で、さらにはこちらの手を握って名前を尋ねてきたんですがどうすればいいですか。

A.とりあえず横っ面ぶん殴っておけばいいんじゃない?



(いや無理なんだが~~~~??)



 胸倉を掴んでいた手はがっちり王太子に掴まれて離れない。

 どうにか振り払おうと腕に力を入れてみても、……うん。貧弱な魔法使いステータスのテンプレみたいな私が、不可のないバランスタイプな主人公ステータスを持つ王太子に純粋な力比べで勝てるわけがないんだよね。知ってた。



「ずっと気が付けなくてごめんね」



 ――突然の謝罪に、数秒ほど思考が止まった。


 私は今、何を謝られているのか。

 王太子が今、何を謝っているのか。

 あれっぽっちの謝罪じゃ中身を理解することはできなかったし、……何より。


 私を見る王太子の目が、さっきまでと全然違った。

 私に語り掛けてくる声が、すっかり打って変わっていた。


 ついさきほどまで、明確な敵意が。害意が。憎しみが。

 ――あるいは殺意と言ってもいい感情が向けられて、私の肌を刺していたのに。


 今は一転、何故か()()()の感情を向けられている。


 その眼差しから、声色から読み取れてるそれに、思考が追い付かない。

 何が起きているのかがわからない。飲み込めない。



(なんで、)



 ――どうして君はまた、ウィロウに向ける情愛(それ)を、私に向けているの。



「君が怒るのも当然だよ。だって僕、ずっと見当違いのことをしていたなんて、今の今までちっとも気が付かなかったんだ」

「何を、」

「僕が魅了(チャーム)を使うべきだったのは、ウィロウじゃなくて君だったんだね」



 ……………………なんて?


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