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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
■■編

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24 月になんて返さない(6)

「まあ、ペンダントの件はわかった。ほかには?」

「うん?」



 ちょっと思考の海に沈んでいたせいか、かけられた声に一瞬ほど反応が遅れ、なんの話? と首を傾げてしまった。


 真面目な話の最中にそんなとぼけた反応をすれば、当然ながら彼はジト目を向けてくるわけで……いけないいけない、風君はかなり真面目にこちらを心配してくれているんだから、当の私がぼんやりしてちゃ駄目だろう。

 我に返って余計な思考を追い払い、気を取り直して風君の胡乱な視線を大人しく享受する。

 ……うわの空で話を聞いていた私が悪いからね、こればっかりはしょうがない。



「まさか、それしか対策してない……なんて、ふざけたことを言う気はないだろうな? ヴィルが黙ってさらわれるほど大人しいとは思わないが、男女の力の差があるんだから、無理やり連れ去られる可能性だってゼロとは言い切れない。お前のことだ、その場合のための対策だって当然練ってあるだろ」

「ああ、なるほど」

「……何笑ってるんだ」

「ごめんごめん。風君って意外に私のことよくわかってるんだなぁ、と思って」



 王太子に黙ってさらわれるほど大人しくない、というのはまったくもって正しい見解だ。

 だって私が大人しく泣き寝入りするようなタイプだったら、そもそも学園から逃げ出すこともできなかった――ううん、しなかっただろうし。

 風君は私がギルドで話した経歴と、あとはそう、遠征で一緒に行動してた時間もかな?

 そうして同じ時間を過ごす間、私がどういう人間なのか観察していて、その上でなんらかの確信を得てああ言ったんだろうな。

 ――私は王太子に何かされてもただじゃ起きないに決まってるから、仕返しをしたり、逃げ出したりするための備えぐらい何かしてるんだろ、ってさ。



「もちろん、そっちも対策済み。ちょっと待ってね……」



 えっと、どこにやったかな……。

 こっちに来てから『お互いの迷子防止のため』って名目でノラさんに渡すつもりで、ポーチの取り出しやすいところに入れておいたんだけど……ああ、あったあった。



「イヤリング、か?」

「ちなみにこれも、ペンダントみたいな細工をしたマジックアイテムです」

「どんな効果があるんだ?」

「ものすごくざっくり言うと、『二つで一つ』の概念を使った迷子防止装置……みたいな感じ? これをひとつずつ、二人で分けて着けておくと、万が一はぐれてしまうような事態が起きてもイヤリング同士が引き寄せ合う。……はず。たぶん」

「『たぶん』ってなんだ」

「仕方ないじゃん。付与した効果的に、一人だとどうしても検証しきれなかったんだから」



 ポーチから取り出したのは、小ぶりのスタッズチャームがゆらゆら揺れるシルバーのイヤリング。

 こちらも元は私が一目惚れして購入したものなんだけど、シンプルでかっこいいデザインをしていて、だけど決してゴツいわけじゃなくて。

 なんていうのかな、ゴテゴテしたかっこよさじゃなく、不要なものを削り取ったかっこよさ、みたいな? そんなところが気に入っている。


 こちらのイヤリングに対しては転移魔法の補助具から着想を得て、一定以上の距離が空いた時にお互いを引き寄せ合う、という効果をつけてみた。

 一応、ギルドにいた時に片方を自室に置いたまま、もう片方を身に着けて外に出てみるって検証はやってあるし、大丈夫そうかな? と思える結果は得られたから、こうして持って来たわけだけど。

 私の身体はひとつしかないわけで、身に着けていない方――自室に置いたままにしていた方がどんな反応をしていたのか、人の目で確認できなかったのが『はず』とか『たぶん』って言った理由なんだよね。



「……効果はわかった。でも、なんで迷子防止装置なんだ? 身を守る意味合いでももっと直接的な、攻撃性のあるアイテムの方がいいんじゃないか?」

「まーね。でも、あっちが一般人ならそれもありなんだけど、明らかにそうじゃないでしょ? たとえ怪我を負わせた理由が正当防衛だったとしても、あっちのご機嫌取りをしたい人が屁理屈をこねくりまわして、いつの間にかこっちが悪いってことになりかねない」

「……確かに」

「それに、攻撃性のあるアイテムのたぐいだと、あっちにはたぶんバレるからさ。私はぽんぽんマジックアイテム作ってるけど、本来は数が少ないものだし、希少性のあるものが集まる場所って言えば……ねぇ?」

「あー……」

「そういうわけで、あんまり攻撃性のあるものは持てないから、ペンダントで最低限の自衛をしつつイヤリングで第三者の介入と救援を待つのが主な方針かなぁ。それが私にとっても向こうにとっても、一番良くて、一番穏便に済む方法なんだよ。……自力で逃げ出したって、どこまでも追いかけて来そうな相手だからさ」



 なーんて言いつつ、第三者に助けに来てもらうにあたって、一番の目的は伏せておく。

 だって風君は優しいから、絶対あっちに同情しちゃうだろうし。


 ……念のため補足しておくと、今話したことは決して嘘じゃないけど、全部を話したわけでもないって感じかな?

 これが一番良い方法なのも、穏便に済む方法なのも本当。


 ――ただ、それと同時に、王太子にとってのとどめにもなり得る方法ってだけでさ。

改めて、来週の更新はお休みになります。


次回更新は3月11日(火)の予定。

それまでどうぞ、のんびりお待ちいただければ幸いです。

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