20 月になんて返さない(2)
「これでよし、と」
「ヴィル」
「?」
「……これから本題に入るわけだが、その前に何か弁明や申し開きはあるか?」
「……言い訳のしようもございません私の見通しが蜂蜜よりも甘々ですいませんでしたッ!」
私がストーカー対策を講じ切ったところで、そのタイミングを見計らったように、風君から非難がましい目を――というか本当に私の油断、あるいは見通しの甘さを遠回しに非難する言葉を投げかけられた。
いやぁ、どストレートに罵倒して来るでもなく、こちらに謝罪や弁明の余地を残してくれるあたりが風君の優しさだなァ! まあその優しさが逆に今の私にはめちゃくちゃ痛いんだけど!
風君への申し訳なさで荒ぶる心のまま勢いよく直角に腰を折って素直に自分の迂闊さを謝罪すれば、後頭部に風君の海よりも深いため息が落ちて来て、アッほんとごめんなさいもっと深く頭を下げろってことですねいっそ土下座、いや五体投地で陳謝したらよろしいです??
……そこまではしなくていい?
そっか……風君は本当に優しいね……。
――どうして私がこんなにも風君への申し訳なさで死にそうになっているのかと言えば、話は今からおよそ一週間ほど前、ノラさんと護衛のクエストを受けることが決まった日までさかのぼる。
王太子のことは気になるけれど、ウィロウの中で年末年始の王家の忙しさはしっかり見てきたから、マーケットを楽しみにやってくる旅行客に紛れれば誤魔化せるはず……! と、ノラさんと一緒に王都に行くことを決めた私は、そのまま二人でギルドの受付にクエスト受注の手続きをしに向かった。
その時、たまたま隣の窓口でクエストの完了報告をしていた風君が話を聞いていたようで、ノラさんと別れたあとに『今王都に向かうのはやめた方がいいんじゃないか』とこっそり声をかけに来てくれたのだ(なんせ、新聞に王太子の動向に関する最新の情報もあったので)。
だけど私はノラさんの厚意を無駄にしたくなかったし、ノラさんとマーケット巡りという名のデートがしたかったし、年末年始の行事で王家――特に国王夫妻と王太子が忙しくなることをよーく知っていたので、ちょっとくらい平気平気! と軽く流してしまって。
なんなら、『そんなに心配なら風君も王都に来たら?』……なんて、クソ生意気なことをね、あの日の私は言ったわけですよ。
もちろん、その時の私はまさかこんな爆速で見つかるとは思っていなかったからこそ、深く考えずにあんな発言ができたわけなんですけど。
今になって思えば完全にフラグじゃん??
もしもタイムマシンがあったら一週間前の私を精神的に引っ叩きたい。
身体はウィロウの身体だからね、傷つけるわけにいかないのでね。
どうにか、こう、精神的にどつきまわしたいし、同士の協力を仰いでまで心配して王都に来てくれた(……ってことでいいんだよね?)風君には本当、あの、余裕ぶっこいてこんな展開になってしまったことが大変申し訳なく……!
「確か、ヴィルたちは夕方に王都に着いたばかりなんだろう? それからのたった数時間で、なんの情報もないはずなのにお前を捕捉したスピードはさすがに異常すぎるからな」
「やっぱり?」
「ああ。……俺だってお前が見つかる可能性を危惧していたが、どんなに早くても明日以降だと思っていたし、これに関してはヴィルの見通しの甘さというよりはあっちの度を過ぎた執着の強さが原因な気がする」
「あいつのヤバさを風君がわかってくれて私は嬉しいよ。……泣いていい?」
「……泣きたい気持ちはよくわかるから泣くなとは言わないが、お前が泣いた瞬間、どこからともなく現れたりしないか?」
「王太子対策はちゃんとしたけど大丈夫だと言い切れないのがとてもつらい」
「まあ、このタイミングで王都に来た油断は間違いなくお前の落ち度だが、異常な早さで見つかったのはお前の責任だけじゃないだろ。今はとにかく、対策を練るぞ」
「風君の優しさがしみる……なんて良い子なの……」
ウィロウに関することだけ特別なセンサーでも搭載しているんじゃないか、というレベルで勘が良すぎる王太子の脅威を正しく理解してくれるありがたさもさることながら、当たり前のように私の味方をしてくれることの安心感が大きすぎるし、私も自分で思っていた以上にかなり不安な気持ちになっていたらしいことに芋づる式に気付いて、なんかもう冗談抜きに泣きそうかも。
いやまあ、泣かないけどね?
私が泣いた瞬間にウィロウが泣いた判定になって、どこからともなく王太子が湧いて出て来ても困るから絶対に泣かないけどね……!
ちょっと短いんですが、キリがいいので今日はここまでです。




