初めての友達
ボクは友達と遊ぶことなく、勉強ばかりしていた。それゆえ、同級生からはつまらない人間であるといわれていた。
勉強に熱中している人間に近づく者はおらず、一人ぼっちで過ごしていた。
最初は寂しいと思ったものの、途中からは気にすることはなくなっていた。勉強の邪魔をされないことに対して、優越感を覚えることすらあった。
中学生になっても、勉強に熱中していた。クラスメイトが遊んでいる中、知識量を増やすことだけに情熱を捧げていた。知識量=人間の賢さであると信じて疑わなかった。
広辞苑の999ページを読んでいると、一人の女の子から声をかけられることとなった。
「キミは勉強以外に、やりたいことはないのかな」
ボクは自分の信念のままに、返事をしていた。
「うん。勉強だけが生きがいなんだ」
ボクが何を読んでいるのか気になったのか、女子生徒は本をのぞき込んできた。
「広辞苑・・・・・・」
「うん。広辞苑を読んでいるんだ」
「どんなことが書かれているのかな?」
「日本の言葉、雑学などが書かれているよ」
「ちょっとだけ読んでみてもいいかな」
「いいよ」
女子生徒は広辞苑に目を目を通していた。思っていたよりも必死だったので。ボクは驚きを隠せなかった。自分でいうのもなんだけど、広辞苑は社会の変人が読むものだと思っていたからである。
女子生徒は内容が難しすぎたのか、大きな欠伸をしていた。
「普通の人には読めないと思うよ」
「そんなことないよ」
ボクの言葉が癪に障ったのか、彼女はページを読み進めようとしていた。見た目は完全な女性だけど、中身は男性なのかもしれない。
女性は1ページほど読み終えると、広辞苑を閉じてしまった。
「勉強ばかりしていないで、人間の友達を作ろう」
学校では友達を作ることは大事かもしれないけど、社会においてはそうとは限らない。フレンドリーな性格をしていたとしても、能力がなければ解雇されることになる。社会は知識量、知恵、能力が大きくものをいう世界である。
「人間は面倒だから、あんまり近づきたくないかな」
人間はいう生き物はとにかく面倒で、一緒にいるだけで疲れることになる。そんなものと一緒にいるくらいなら、生きる知恵をつけたいところ。
広辞苑のページを開こうとしていると、女子生徒に邪魔をされることとなった。
「そんなことをいっていると、私のおにいちゃんみたいになるよ」
「キミのおねえちゃん?」
「勉強だけは超一流だけど、対人スキルは0。そのこともあって、就職活動で内定を得られなかったんだ」
健常者の僻みという奴かな。人間社会においては、自分を脅かす存在を排除する力が働く。
「少しでいいから、人と話すようにしよう」
彼女は引きそうになかったので、ボクはOKの返事をすることにした。
「ありがとう。今日から友達だね」
友達といった女性は、満面の笑みを咲かせていた。変人と友達になれることは、そんなにも嬉しいことなのかな。
「私の名前は伊藤ふゆの。なまえのふゆのは平仮名だよ」
「ボクは・・・・・・」
人前で名前を名乗ったことがなかったからか、スラスラということができなかった。
「籤良助君だよね」
一度も話していないも関わらず、名前を記憶しているとは。そのことに対して、少しだけ嬉しいと思えてしまった。
「私のことはふゆのと呼んでね。私は良助と呼ぶようにする」
中学生になっても、下の名前で呼ぶのが主流なのかな。勉強に没頭していたからか、そこについては非常に疎かった。
「良助、一緒に弁当を食べに行こう」
現在は昼休みで、クラスメイトは弁当を食べている。ボクは昼食を食べない生活を送っていたため、そのことに気づいていなかった。
「ボクは昼食を食べないんだ」
「わたしのおかずをわけてあげる」
そのようにいうと、彼女はボクの手を握った。ひんやりとしているはずなのに、温かさを伴っているように感じられた。
ふゆのと手を繋いでいると、心に光が差し込むような気がした。人間嫌いとはいっていたものの、本音では友達を欲していたのかもしれない。




