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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モバイルバッテリーと女子高生の道子さん

作者: 火路名 ひろ

気が付いたら私はモバイルバッテリーだった。むんずと掴まれた。あ、充電するんですね。充電中ランプが点滅する。ズゴゴゴゴゴ……。うおっ! 電気エネルギーが入ってくる。ああっ。腹が一杯になってきた。なんだか眠い。私は眠ってしまった。


朝だ。ズゴゴゴゴゴ……。電気エネルギーが私から出てゆく。私は目が覚めた。今、電車の中のようだ。私の持ち主は女子高生だった。彼女はイヤホンで音楽を聴きながらスマホを充電している。


そんな毎日が続いた。不注意なのか彼女は私をよく落っことす。今日も床のコンクリートに激突。いてえっ! なあ、道子さん(彼女の名前だ)、お願い。痛いから落とさないで。衝撃を加えないでくれ! どうしても落とすなら私にもスマホみたいなケースとか、クリップ付でどこかに固定できるストラップとか付けてよ。



しかし私の願いはかなわなかった。

気のせいか私の体は日に日に膨れてきたような気がしていた。何かがおかしい……。

道子さんは全く気が付いてないようだ。


道子さんが電車通学してる最中、唐突にそれは起こった。 ボシュッ! あああああああ! 腹の中の半導体と抵抗から火が出て、焼損した!


「キャアア!」 「うわっ!?」 「何!?」


結構な大きさの異音がして、電車内は一時騒然とした。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」道子さんが周りの人に謝っている。


モバイルバッテリーの外に、少しだけ煙と、電子部品の焼けた独特の匂いが広がった。煙と匂いだけ。火がボーボー出て激しく燃えた、という感じではない。安全装置が設計どおりに焼損した、という感じかな。


身体の痛み。意識が薄れてゆく……。壊れてしまったからモバイルバッテリーとしての私の命はここまでなのだろうか、などと考えたところで私の意識は途切れてしまった。




気が付くと私は以前とは違うモバイルバッテリーになっていた。持ち主はやはり道子さんだった。私は道子さんが買い替えたモバイルバッテリーになったようだ。原理や理由はよく分からない。


相変わらず私を時々落っことす道子さんだったが、暫くはまた平穏な日々が続いた。そしてある夏の日。


道子さんは母の車に私を置き忘れた。日差しが強い。車内は50度を超えているようだ。暑い……。暑いよ……。グングンとモバイルバッテリー内の温度、体温が急上昇している。私は……。


ビキビキビキッ!!


気が付くと私の体は急激に膨れていった。バリバリッ! ジュガッ! ズボオオオオォ! 私のモバイルバッテリーボディが熱で溶解し、発火していた!


あああああっ! 熱い! ああ……。あああ……。ガラスに焦げ跡が付いちゃったな……。車まで燃えなくてよかった、と思ったところで何もわからなくなった。




そして私は、またしても以前とは違うモバイルバッテリーになっていた。持ち主はやはり道子さんだった。私は道子さんが買い替えるモバイルバッテリーに何度も転生しているのだろうか。


道子さんは車の火事の件で母親にこっぴどく怒られたのか、モバイルバッテリーを落とさないように気を付けるようになっていた。


ちなみに、私は自分のステータスが見られるようになっていた。こんな感じだった。


《名前》名称不明

《職業》モバイルバッテリー

《通常スキル》電気エネルギー受入、蓄積、放出

《弱点》高エネルギー保存体なので構造的に、物理衝撃や高温での長時間放置などに弱い。丁寧に取扱う必要がある。寝る時布団の中や枕の隣に置くとか、絨毯やクッションなど可燃物の近くに保管しないこと。さもないと発煙発火の恐れあり。何度も衝撃を与えたり、経年劣化でも同様の危険性増加あり。

《特技》自爆(発火)。 本人の意志により1回だけ発動可能。使用後、魂は現世に留まれない。


自爆がやばい感じだな……。




しかし今回はかなり長期間、何も起きなかった。私はそれなりに充実した生活を送っているような気がしていた。モバイルバッテリーとしての、人生に満足感を感じていたのだろうか。長くても1年か2年の一生だけどな。そのぐらいしたら買い替えないと。


道子さんが丁寧に扱ってくれて滅多に落っことさなくなってくれたからか、

安物ではなくてそれなりに値の張る中級品クラスのモバイルバッテリーを買ってくれたから使用部品がいいのか設計がいいのか安全装置がよく出来ていたのか……


前兆の無い突然の発煙発火もなく、モバイルバッテリーの身体が異常に発熱したり、膨れてくるなどということもなかった。道子さんは電車通学し、相変わらず音楽を聴きながらスマホを充電していた。




そんなある日、たまたま道子さんは帰りが遅くなり音楽を聴きながら夜道を急いでいた。「道子さん危ない! 後ろ!!」 私が気が付いた時は遅かった。


「キャアアアアア!」 歩道橋を降りようとしていた道子さんは暴漢に突き落とされた。


「ううううっ……」 頭から転がり落ちた道子さんが血だらけだ。痛そうで苦しそうだ。


ちくしょう! 道子さんの方に来るなよ! 刃物を持った暴漢が無言で近付いてくる。

このままでは道子さんが暴漢に……。私は覚悟を決めた。道子さん、今までありがとう。さようなら!


私は、自爆(発火)を発動した。轟音と共に、暴漢に向けて火柱が上がった。 ズガガガガーーン!!


「ぎゃああああああああ!」





その後、私は異世界にいる。道子さんと一緒に。自爆した時に爆発が大きすぎたらしく道子さんも道連れにしてしまったようなのだ。ごめんなさい、道子さん。



「モバイルバッテリー ON !!」


異世界で、道子さんは戦闘時にモバイルバッテリーを体に装着して変身、電気エネルギーの力で戦う魔法少女ヒーローになったのだった!




(おわり)

この話は2019.12月時点でのモバイルバッテリーに関係したフィクションです。モバイルバッテリーやスマートフォン、タブレットPC、電動自転車、リチウムイオン電池に関係した発煙発火事故のニュースが時折話題にされていました。私も1回、それなりに名の知れたメーカーの新品モバイルバッテリーが発煙した経験があります。SNSでも火事になったなどの書き込みを時々見かけます。購入した携帯電話やスマホのバッテリーがぷっくりと膨らんで寿命を迎えてくる経験は何度もあります。何年か経ったら安全性が向上し、昔は発煙発火事故も起きたと言われるようになるのでしょうかね。

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