第二話 アブゾルフ -6-
それから俺はヴァルロットという、この辺りで一番大きな街に向かった。
そこにはどうやら4つほど酒場があるようで、とりあえず4つともに顔を出してそれぞれで依頼を受ける生活をし始めることに決めた。
マルとである前にやっていたことだ。
冒険者カードは適当な酒場で新たに作り直してもらった。というのも、前の冒険者カードは鍛冶屋に売り払い当座の資金へと替えてもらったからだ。
それに伴い、役割も前のように盗賊ではなくモンスターの動きや洞窟等の危険を察知することが中心である観測手へと変更してもらった。
最初こそ4つの酒場を点々としていたが、徐々にそのうちの1つに居着き始めた。無愛想なおっさんがやっている寂れた小さな酒場だ。
ヴァランデルという名前の店主は死神も真っ青な程に真っ黒な外套を着ている、老けた顔で冴えない面のおっさんだ。
死んだように覇気がないが、立ち居振舞いに隙は感じられない。訊けば元は金の冒険者なのだというから納得だ。
俺がここに居着いた理由は至極単純だった。他人と争うこと無く実力相応の依頼を紹介してもらえるから。それだけだった。
ここの酒場の依頼制度は変わっている。ヴァランデルのおっさんが仕事を求めてやってきた冒険者の実力に見合った仕事を与えるというものらしい。
確かに、そうする方が下手に若手冒険者を死なせることもないだろうし、成長も早いだろう。
そうやって実力相応の依頼を受けさせてもらったこともあってか、俺のカードは鉄から銅、銅から銀と異例の速さで変わっていった。
そうして、マルと別れてから半年と少しで金のカードを手に入れることができた。
本来ならばこの速度で昇格していった場合王家などから直属の衛兵とならないかといった声掛けがあるようだが、俺の役割が直接戦闘には不向きな観測手であることや、元々冒険者をやっていた期間を含めるとそこまで異例でもないこと、極めつけは元々の役割が盗賊であったことなどからお声掛けはかからなかった。
実を言うと金のカードを手に入れる前におっさんから頼まれたことがある。
おっさんの酒場で最初に受ける依頼である野犬狩りの立会人になってくれということだった。
現状ではおっさんが立会人をすることになっているのだが、そうしていると酒場の営業が不定期で休業となってしまう。不意の来客が来ることも多い店だと言うので、そういった人に対する懸念があっての頼みらしい。
俺はそれを快諾するとともに2つのことを条件としておっさんに提示した。
まず、1つ目は金になったらしばらくはこの街を離れることを許して欲しいということ。もちろん、この街に必ず帰ってくることは伝えている。
そして2つ目は戻ってきた翌日の夜にこの店を貸し切りたいということ。
どちらもヴァランのおっさんは快諾してくれた。
実のところ、おっさんの酒場に居着く理由は他にもある。マルファのことだ。
おっさんのことはよく知らないが、どこか諦念が滲んだこのおっさんは何だかマルファの事を詮索しなさそうだと漠然と感じたからだ。
というよりも、こちらにはあまり関心がない、そう言えるほどに空虚な部分の多いおっさんだった。
だから、言い方は悪いかもしれないがそんなおっさんを利用するつもりではあった。