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第二話 アブゾルフ -4-

 あれから何度も襲わないのかという質問をする彼女を落ち着かせながら、襲わないと答えていたが、10分ほどもしたら流石に彼女も落ち着いたらしい。



「その、取り乱してごめんね」

 また頭を下げられてしまった。

「あーいいっていいって」

「それでさ、その。僕たちは友達、なんだよね」

「どっちかが友達って思ってれば友達。で、俺は君のことを友達だと思ってて、君は俺のことを友達だと思いたい、そうでしょ?」

「そう、だけどさ……」

「だったらほら、友達でいいんだよ。てかそれよりもさ、今日のご飯取ってこないと。ほら、行こ!」

 立ち上がり彼女の手を取り、引っ張った。


 ただ、俺はナイフをぶん投げたことを忘れていた。本当は今からでも探しに行かねばならないのだが、若干日も落ちているため辺りをうろつくのは危険であるし、食料自体にも幾許かの余裕はあるから翌日に取りに行くことになった。

 


 そして夕飯を食べながら改めて俺の方から彼女に改めて1つの約束を提案した。


 それは、「魔物だから」禁止令。

 そして、これを破った場合の罰は俺に膝枕をすること。


 罰についてを伝えたら彼女は純粋な瞳で「人間ってそうやって罪を償うの」と訊かれてしまった。

 人間の世界については疎かったのを忘れていたのだ。


 そんな純粋無垢な彼女に勘違いをさせる訳にはいかない。だからこそ、理由を白状した。

「別に償いの意味はないけれど、その、さ。君の膝枕は滑らかな肌と適度な冷たさ、そして柔らかさがあり非常に魅力的だったんだ。だからそれをしてくれたら凄い嬉しくて、何でも許せちゃいそうだなって思ってさ」

 理由を聞くと彼女は少しだけ照れたような笑みを見せ、「僕もさ、実は膝枕をするの、好きみたいだからわざと約束破っちゃうかもよ」と言った。



 その日を境に、彼女と色々なことを話した。


 その1つが俺を助けてくれたときのことだ。

 毒蛇に噛まれて倒れた俺にまずは毒を中和するために噛み付いて、それから俺を抱えて洞窟を出たらしい。

 そして情けないわけではないと言ってくれたことは、どんなに追い詰められても最後まで粘っている姿のことであり、俺の裸体のことではなかったらしいということに彼女の話しぶりから気がついた。

 勘違いをしていた自分が恥ずかしいけれども、それより彼女の純粋な称賛気が恥ずかしかった。


 そして彼女は人間の世界に興味を持っていることを話してくれた。

 だから俺はいつか文字を学んでそれを教えることや人間の食べ物を持ってくること、その他に色々なことを約束した。


 最後に彼女は自分が生まれた理由を話してくれた。

 いわく、人間と魔物の間で子を作る実験をしている集団があること、そこで彼女は実験の産物として産み落とされたこと。

 蛇と人間との子供は戦闘に不向きだからと大量の蛇と母体として利用価値のなくなった人間とともにあの洞窟に放棄されたこと。

 そこで人間とともに少しの間生活をし、言葉を教えてもらったこと。


 聴いているだけで怒りがこみ上げるような話を彼女は淡々と伝えてくれた。


「俺さ、その話を聞いて決めたことがある」

「絶対に、そいつらを許さない。君と出会うことができたのはそいつらのおかげなんだけど、それでもそんなことをする奴らを許せないんだ」

「でも、きっと恐ろしい人たちだよ」

 無意識なのだろう。彼女は小さく震えていた。だから、彼女を抱き寄せた。

「だったら、俺はそいつら以上に強くなるよ。そしたら問題ないっしょ」

「きっとそうだね。うん、それなら問題なんて何もないよ」

 彼女の顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。溢れた吐息がそう感じさせてくれた。


  そして、一旦彼女を抱き締めるのをやめ、彼女の目を見据えた。

「あー、信じてないだろー。今は確かに銅だけど、いつかは必ず金になってやるさ」

「確か、鉄が最初で銅、銀、金になるほど強いんだよね」

「そう、そして金になれるのは冒険者が1000人居たとしても1人か2人。でも、なってやるよ」

「君は凄いんだね」

「夢は大きな方がいっぱい頑張れるしな!てかさ、今気付いたけど名前教えてよ。俺はアブゾルフ、アブでいいよ」

「名前、か……被検体73番の子じゃダメかな」

「ダメダメ、絶対にダメ」

「んー、じゃあ決めてもらえないかな。僕人間の名前の決め方わかんないし」


「OK! ちょっと待ってて……」

 快諾はしたものの、名前をつけることなんて今までなかったから戸惑ってしまうが、ふとある名前が頭を過った。

「マルファ、ってのはどうかな」

 マルファというのは親がもし俺が女だったらつけたかった名前らしい。いつだったかの折に親が伝えたことがある。それを先程思い出した。

「マルファ、それがいい! というか僕は君ががつけてくれる名前なら何だっていいもん!」

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