2.いつもの日常
今日は晴天だ。
天気が良い日は人がちらほら来るが、こういう日はそれほど憂鬱にならない。嬉しい。
いつもどおり、幾年経ったか解らぬほど繰り返した仕事に取り掛かる。
新たに奉納されていた絵馬を手に取り、読む。……なになに。
『びょう気がつらいです。えんをきって下さい』
なるほど、病気か……。字面からして子供のようだ。
絵馬に書かれた文字に指先を当て、そこから深く情報を読み、秘められた人物名を手元の端末に表示される[名前]欄へ、[願うもの]と項目の内から『病気』と記された欄を押す。その他の詳細を書き込み、不備をチェックして上層部――本殿に送信する。
思えばとても便利に成った。
10年は経ってないはずだが、少し前にコンピューター関連の天才という者が、こっち……常世に来たらしく、彼が持っていた技術で、仕事がこの上なく素早く出来るように成った。
私がここに収監……もとい配属された頃は、高価な電話が世間で出回り始めた時期で、いちいち紙に書いて、本殿へ足を運び、持って行っていた。
そこでもしも、書類の不備が見つかれば、その度にここに戻って、絵馬を確認しなければならなかった。
それに比べれば、不備があれば機械からの警告が発せられ、それを直せばいいだけ。持っていく手間もない。
ここまで説明すれば、どれほど便利に成ったものか判るだろう。
近代化。現し世での流行り言葉で言えば、IT化バンザイだ。
余計な事を考えた。……さて、次。
『彼女が出来ません。この悪い縁を切って下さい。良い縁をつないで下さい』
ああ、うん。わかる。
現実の独りぼっちは寂しいことだ。この願いで、その悪縁は切れるはず。あとに良い縁があることを祈る。
しかし、幾人隣にいようが魂の孤独があるだろうに……。
……まあいい。一応、縁結びの神社にも願いを送っておこうか。今は手間がかからない。また端末を操作して本殿と、連係関係がある縁結びの神のアドレスに送信する。
すると、末社の前に人が来た。身なりは良いが、何処か追い詰められた様な……嫌な色を目に宿した男性だ。
他所では絵馬に書かないと受け付けない。なんてところがあるそうだが、ここに来る者はそれほど多くない。このくらいどうってことはない。
基本、寝てるときは聞くことは無いが、今こうして起きているから、拝聴しよう。
「借金との縁を切って下さい。」
……そうか。
私には、先程から使っている絵馬からの人物の読み取り、そして、境内ならば入ってきた人の思考を読むことが出来る。これらの権能を私の管理者たる神様から賜っている。願いを読み取る……そんな仕事に関することで、此処で出来ないことは、あまりない。
そんな力を使い、彼から願いにまつわる、よもやまを読むことにした。
……うん、浪費癖を直そうか。君は生活を色々と見直すべき点が多く見受けるよ?きっかけは与えられるはずだ。
本音を云うなら。無精をこっちに頼るな。憂鬱になるだろうが。一人でやれることは限られるから他力本願も結構。でも、一番大事なのは自分自身の意志だろうに……。
まぁ、此処に来て願う時点で、その気なのはわかる。詰まる所、あとはアナタ次第です。頑張れ。
――さてと、不備は無いな…………送信。
そんな事を繰り返しながら、日は暮れていく。日が沈んで、今日のお仕事は御仕舞い。おやすみなさい。
ここは、縁切り神社。
悪い縁があって、祓う事を願うならば、縁を切り、良い縁があるように祈る。そんな場所。




